上 下
178 / 619
第六章 王都テルフレイラ

国王とビリエル

しおりを挟む
「平民が軍議に参加しとったんじゃぞ? それを出てけと言って、何が悪いんじゃ!」

「悪いに決まってる。魔物が倒されたことは知っとったんだろう。勇者様と一緒にいれば、彼女が誰かなど分かるじゃろうに」

国王に対し、ワズワースは敬語すら使わずに言い返す。
ウォルターから引き取った国王だが、全く反省した様子は見られない。

「勇者様の一行であろうと、関係ないわい。そもそも王宮に入ることすら遠慮するべきであろうに、ウォルターは何を考えておる」

国王は、この調子である。
こんな馬鹿だっただろうか、とワズワースは思わずにはいられない。

「もしリィカ嬢が王宮に入らなければ、勇者様が入ることもなかったじゃろうな。お仲間は身分関係なく対等な立場であるからな。あからさまに誰かを贔屓したり、蔑んだりすれば、それは反感を買うだけじゃよ」

「……対等? 平民が勇者様とか? 王子や残り二人の貴族もか?」
あり得ない、とその顔に書いてある。
それを見て、ワズワースはこれ以上分からせるのは無理だと判断した。必要最低限だけ突きつける。

「お前が納得しようとしまいと、どっちでもいいわい。ただ、お前の発言の結果、彼女に決して消えぬ傷が付いた。今、勇者様方は彼女の側から離れぬじゃろうな。逃げた魔族三体が今攻めてきたとして、彼らは果たして動いて下さると思うか?」

国王の顔から血の気が引く。
少しは事態を理解したか、と思いつつ続ける。

「彼女を傷つけたような奴が国王をやっておるこの国など、どうなろうと知った事じゃなかろうさ。魔族を倒さねばならないから力を貸して下さっているだけで、彼らにこの国を救う理由などないのじゃよ」

「ま、待て! 魔族とは、どういうことじゃ!? 倒したのではないのか!?」
そこからか。
何も知らずに軍議の場に入っていったのか。
ワズワースは、たまらずため息をついた。


※ ※ ※


「だから、平民をどうしようとおれ様の勝手だろうが!」
ビリエルが騎士達に怒鳴っているのが聞こえ、ウォルターがため息をついた。

「さっさと出せ! 下民どもが!」
「残念だが、出すわけにはいかない」
ウォルターが口を出すと、騎士達が敬礼する。

「――王太子殿下!?」
ビリエルの顔が喜色に染まる。

「殿下、この者どもが私を牢に閉じ込めたのです。早く私を出して、この者たちに厳罰を与えて下さい」
どうやら、先ほどのウォルターの言葉をまるで聞いていなかったらしい。

「貴様を牢から出すわけにはいかない。強姦罪の主犯だからな」
もう一度、誤解の余地もないようにしっかり伝える。

ビリエルは呆けた顔をして、その顔が何かを理解したようになる。
「もしかして、勇者が怒っているのですか? 毎晩遊んでいるでしょうに、少し手を出されたくらいで怒るとは、勇者もずいぶんと心が狭い」

今度はウォルターが呆ける番だった。意味が理解できない。
周囲にいる騎士に疑問の視線を送ってみたが、騎士も首を傾げるだけだ。

「であれば、しょうがない。勇者には謝罪しましょう。その上で、あの平民の女を一晩貸してもらえるように交渉します。勇者には、別の、もっと高貴な女を宛がうと言えば納得するでしょう」

ビリエルは一人で納得したように頷いて、ウォルターに視線を向ける。
「王太子殿下、勇者への謝罪は致しましょう。それで、私の罪とやらは消えるはず。ここから出して下さい」

「出せるか!!」
ウォルターは、ようやく意味を理解した。

ビリエルの頭の中では、勇者達が毎晩のように彼女を抱いている事が、確定事項となっているらしい。
これでは、エレインから聞いたことを伝えたところで無意味だろう。

「彼女は、素晴らしい魔法使いだぞ。それを分かっているのか」
「そんな噂は聞きましたが、平民でしょう? 愚民どもが見間違えたのでしょう。王太子殿下がそんな噂を真に受けるのはどうかと思いますが」

リィカを愚弄したせいか、ウォルターへの暴言とも取れる発言のせいか、騎士達の顔に怒りが浮かぶ。

(やっぱりか)
あの場を見ていないものには分からないのだろう。彼女を一目見て、凄腕の魔法使いと判断できる者はいない。そのくらいにギャップがある。

「……面倒だから、あの炎の竜巻の前に放り出すか」

それが一番手っ取り早い気がする。そうすれば、この男も認識を改めるだろう。
最もその頃には消し炭になっているかもしれないが、ビリエルには弟がいる。いなくなっても、問題ないだろう。

「賛成致します」
「そうと決まれば、今からでも」
物騒なウォルターの言葉に、周りの騎士達は咎めることなく頷いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

処理中です...