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第六章 王都テルフレイラ
崩壊
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表現には気をつけていますが、強姦表現がありますので、注意して下さい。
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ニヤニヤ笑いながら、男達が近づいてきた。
リィカは逃げようとするが、上手く立ち上がれない。体に力が入らない。呼吸が整えられない。
何とか後ろに下がったが、あっさり男達に捕まった。
「何で逃げるんだよ。別にいいだろ? どうせ毎晩勇者たちとヤッてるんだろ?」
リィカは首を横に振る。が、目の前の男には通じなかった。
手を強引に引かれる。そこでリィカは、自分が外に出ていたことに気付く。
近くの茂みに連れ込まれ、そこで強引に地面に押し倒された。
「――――――!」
悲鳴が声にならない。
腕が取られ、頭上で強く押さえられる。
「大人しくしろよ? 平民ごときが、このおれ様の相手をできる事を光栄に思うんだな」
リィカの目から、涙が零れる。
(怖い。なんで。なんで、こんな目に。なんで、体、動いてくれないの)
男の手が服に掛かるのを、リィカはただ見るしかできなかった。
※ ※ ※
ダリアとカリスタは、一人の男を見かけた。
ライト侯爵の子息、ビリエル。その取り巻きの男の一人、リール子爵家のハミルが佇んでいた。
ビリエルと二人の取り巻きの男は、いつも一緒だ。一人でいることなど、珍しい。
不審に思った二人が近づいた。
そこで見つけたのが、もう一人の取り巻きである、ガルス子爵家のイーデンに腕を押さえられ、ビリエルに押し倒されているリィカだった。
「――何やっているんですか!?」
カリスタが、悲鳴を上げるように声を上げた。
「あん? おれ様になんか文句あんのか? 引っ込んでろ。テメエも犯してやろうか?」
ビリエルの言葉に、カリスタは怯んだ。だが、逃げることはできなかった。
カリスタがその場に残ったのは、ダリアよりもカリスタの方がまだ爵位が高かったからだ。だが、止めようとして、残ったもう一人の取り巻きに逆に押さえ込まれた。
※ ※ ※
軍議の場は、緊張した空気が流れていた。
その原因が、国王だった。
現場にいた者は、リィカがどれだけ活躍したか知っている。どれだけ凄まじい魔法を使って、魔物を倒し尽くしたのかを知っている。
だからこそ、相手が国王であっても、蔑むような発言は許せるものではなかった。
平民は出て行け、という国王の言葉に頷いた者は、その雰囲気に首をすくめて小さくなっていた。
※ ※ ※
アレクが、力なく項垂れている。
すぐにリィカを追い掛けるのかと思ったのに、それをしなかったアレクの気持ちは、暁斗には分からない。
けれど、打ちのめされたようなその様子が、母の夢に苦しめられている自分の姿と重なるような気がして、辛かった。
「さて、勇者様。魔物が片付いたのに軍議も何もありますまい。ゆっくりお茶でもしながら話でも……」
王太子であるウォルターの抗議も、テオドアやカリスタの言葉も、何もなかったようにのんきにしている国王を、暁斗は睨む。
だが、国王は何も分かっていなかった。暁斗に睨まれて怯んだものの「はて……?」と首を傾げている。
そんな国王を強引に下げて、ウォルターが割り込んできた。
「勇者様、誠に申し訳ない」
深く頭を下げるウォルターを、暁斗は一瞥すらしなかった。
代わりに、泰基がウォルターに告げた。
「あなたに謝ってもらう必要はありませんよ」
短い言葉。しかし、国王に向かっている視線が、何を言いたいのか雄弁に語っていた。
そんな緊張感に満ちた中、場にカトレナとテオドアが飛び込んできた。
「――父様! リィカ様が……!」
「お父様! リィカさんが大変なんです! ライト侯爵の子息に……」
二人に、場の雰囲気など感じる余裕もない。テオドアが叫び、カトレナも叫ぶが、途中でそれ以上言葉にならない。
「リィカが、どうしたんだ!?」
誰が何を言うよりも早く、アレクがカトレナに問いただした。
カトレナは言葉を詰まらせたが、はっきりとそれを告げた。
「…………リィカさんが、ライト侯爵の子息に、襲われていると……」
その内容に、軍議の場が驚愕に満ちる。
アレクが目を動かし、すぐに一点を見つめる。
そして、今度こそ飛び出した。国王も何も、頭から抜けた。
勇者一行が、その後を追い掛けた。
※ ※ ※
ダリアに付いてきたワズワースは、ハミルを見つけた。
カリスタを押し倒しているのを見て、何も言わずにハミルを力の限り、蹴っ飛ばす。
「大丈夫かの?」
蹴飛ばした男のことは気にもせず、カリスタに声をかける。
「――ワズワース様!? 私は大丈夫です。それより、リィカさんを……!」
確かに、僅かに服の乱れがあるだけだ。
それでも恐怖はあっただろうに、大丈夫と言い切ったカリスタにワズワースは内心で感謝する。
ここまで来れば、リィカの姿が見えた。
そちらが優先だった。
リィカにのしかかっているビリエルを、やはり容赦なく蹴っ飛ばす。次いで、腕を押さえているイーデンも、蹴飛ばした。
声もなく気絶したらしい男達には目もくれず、リィカの様子を見て、ワズワースは顔をゆがめた。
上半身がはだけられていた。上着を脱いでその体にかけてやる。
だが、それよりも、押さえ込んでいる男達がいなくなったというのに、リィカが動こうとしない。
呼吸が浅く早い。その目は虚ろで光がない。ただ涙が流れ続けていた。
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ニヤニヤ笑いながら、男達が近づいてきた。
リィカは逃げようとするが、上手く立ち上がれない。体に力が入らない。呼吸が整えられない。
何とか後ろに下がったが、あっさり男達に捕まった。
「何で逃げるんだよ。別にいいだろ? どうせ毎晩勇者たちとヤッてるんだろ?」
リィカは首を横に振る。が、目の前の男には通じなかった。
手を強引に引かれる。そこでリィカは、自分が外に出ていたことに気付く。
近くの茂みに連れ込まれ、そこで強引に地面に押し倒された。
「――――――!」
悲鳴が声にならない。
腕が取られ、頭上で強く押さえられる。
「大人しくしろよ? 平民ごときが、このおれ様の相手をできる事を光栄に思うんだな」
リィカの目から、涙が零れる。
(怖い。なんで。なんで、こんな目に。なんで、体、動いてくれないの)
男の手が服に掛かるのを、リィカはただ見るしかできなかった。
※ ※ ※
ダリアとカリスタは、一人の男を見かけた。
ライト侯爵の子息、ビリエル。その取り巻きの男の一人、リール子爵家のハミルが佇んでいた。
ビリエルと二人の取り巻きの男は、いつも一緒だ。一人でいることなど、珍しい。
不審に思った二人が近づいた。
そこで見つけたのが、もう一人の取り巻きである、ガルス子爵家のイーデンに腕を押さえられ、ビリエルに押し倒されているリィカだった。
「――何やっているんですか!?」
カリスタが、悲鳴を上げるように声を上げた。
「あん? おれ様になんか文句あんのか? 引っ込んでろ。テメエも犯してやろうか?」
ビリエルの言葉に、カリスタは怯んだ。だが、逃げることはできなかった。
カリスタがその場に残ったのは、ダリアよりもカリスタの方がまだ爵位が高かったからだ。だが、止めようとして、残ったもう一人の取り巻きに逆に押さえ込まれた。
※ ※ ※
軍議の場は、緊張した空気が流れていた。
その原因が、国王だった。
現場にいた者は、リィカがどれだけ活躍したか知っている。どれだけ凄まじい魔法を使って、魔物を倒し尽くしたのかを知っている。
だからこそ、相手が国王であっても、蔑むような発言は許せるものではなかった。
平民は出て行け、という国王の言葉に頷いた者は、その雰囲気に首をすくめて小さくなっていた。
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アレクが、力なく項垂れている。
すぐにリィカを追い掛けるのかと思ったのに、それをしなかったアレクの気持ちは、暁斗には分からない。
けれど、打ちのめされたようなその様子が、母の夢に苦しめられている自分の姿と重なるような気がして、辛かった。
「さて、勇者様。魔物が片付いたのに軍議も何もありますまい。ゆっくりお茶でもしながら話でも……」
王太子であるウォルターの抗議も、テオドアやカリスタの言葉も、何もなかったようにのんきにしている国王を、暁斗は睨む。
だが、国王は何も分かっていなかった。暁斗に睨まれて怯んだものの「はて……?」と首を傾げている。
そんな国王を強引に下げて、ウォルターが割り込んできた。
「勇者様、誠に申し訳ない」
深く頭を下げるウォルターを、暁斗は一瞥すらしなかった。
代わりに、泰基がウォルターに告げた。
「あなたに謝ってもらう必要はありませんよ」
短い言葉。しかし、国王に向かっている視線が、何を言いたいのか雄弁に語っていた。
そんな緊張感に満ちた中、場にカトレナとテオドアが飛び込んできた。
「――父様! リィカ様が……!」
「お父様! リィカさんが大変なんです! ライト侯爵の子息に……」
二人に、場の雰囲気など感じる余裕もない。テオドアが叫び、カトレナも叫ぶが、途中でそれ以上言葉にならない。
「リィカが、どうしたんだ!?」
誰が何を言うよりも早く、アレクがカトレナに問いただした。
カトレナは言葉を詰まらせたが、はっきりとそれを告げた。
「…………リィカさんが、ライト侯爵の子息に、襲われていると……」
その内容に、軍議の場が驚愕に満ちる。
アレクが目を動かし、すぐに一点を見つめる。
そして、今度こそ飛び出した。国王も何も、頭から抜けた。
勇者一行が、その後を追い掛けた。
※ ※ ※
ダリアに付いてきたワズワースは、ハミルを見つけた。
カリスタを押し倒しているのを見て、何も言わずにハミルを力の限り、蹴っ飛ばす。
「大丈夫かの?」
蹴飛ばした男のことは気にもせず、カリスタに声をかける。
「――ワズワース様!? 私は大丈夫です。それより、リィカさんを……!」
確かに、僅かに服の乱れがあるだけだ。
それでも恐怖はあっただろうに、大丈夫と言い切ったカリスタにワズワースは内心で感謝する。
ここまで来れば、リィカの姿が見えた。
そちらが優先だった。
リィカにのしかかっているビリエルを、やはり容赦なく蹴っ飛ばす。次いで、腕を押さえているイーデンも、蹴飛ばした。
声もなく気絶したらしい男達には目もくれず、リィカの様子を見て、ワズワースは顔をゆがめた。
上半身がはだけられていた。上着を脱いでその体にかけてやる。
だが、それよりも、押さえ込んでいる男達がいなくなったというのに、リィカが動こうとしない。
呼吸が浅く早い。その目は虚ろで光がない。ただ涙が流れ続けていた。
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