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第六章 王都テルフレイラ

空間魔法

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軍議の前に、用意された部屋に通された。
泰基と暁斗の部屋が横並びに並び、その向かい側に四つ部屋が並んでいる。

泰基と暁斗の部屋は広めだ。
向かい側の四つの部屋は、それより若干狭いがそれでも十分広い。すべて同じ作りだ。アレクたちと同列の部屋が用意されたことに、リィカがひたすら恐縮していた。



軍議に向かう際、リィカはアレクの服の裾を掴みながら歩いていた。
その顔は不安に彩られている。

中に入れば、視線が集まった。友好な視線、歓迎する視線を向けているのは、実際に勇者一行の戦いを見た人たちだろう。

テオドアは嬉しそうにリィカに手を振り、カトレナは軽く一礼していた。
文官風の人たちは、リィカに対して訝しげな視線を向けてはいるものの、口に出して何かをいう者はいなかった。


※ ※ ※


軍議は、まずウォルター王太子が勇者一行を紹介する所から始まった。
紹介が終われば、魔物と魔族についての話になる。

「魔物だが……、すべて倒しきった、ということでよろしいのしょうか」
ウォルターの確認に、アレクが答える。

「はい。あの場にいた魔物はすべて倒しました」
場が、わぁっと歓声が上がる。
それをウォルターが静めた。

「しかし、三体の魔族には逃げられた、ということでしたな。遠目だったので確実ではないのだが、突然魔族達の姿が消えたように見えたのですが……」
「我々も、そのように感じました」

アレクが答えるが、転移についての話が途中だったと気付く。何をどう説明すべきか分からない。
泰基に視線を向ければ、頷いて話を引き取ってくれた。

「あくまでも仮説に過ぎませんが、あれは転移という、一瞬で違う場所へ移動できる魔法ではないか、と推測しています。リィカの魔法が、魔族の一体に結構なダメージを負わせたので、その回復のために転移で逃げた可能性が高いかと」

リィカに目を向ける。うつむいていて、なるべく無難に過ごそうとしているのが分かる。

「そうであれば、再度また現れるときも、転移で突然現れる可能性が高いと思われます」
場がざわめいた。

「転移……?」
「突然現れるとは、一体……?」

聞こえるのは、そんな声だ。
真っ向から否定する声がないのは、勇者の発言だからなのか。

「タイキ様は、そのような事が可能とお思いで?」

「先ほども言いましたが、あくまでも仮説です。ただ、過去にいたという時間と空間の魔法を使ったという勇者であれば可能ではないか、と推測しています。四属性でも、絶対に不可能とは言い切れません」

「うむ」
唸ってそのままウォルターが考え込んだ。
有効な発言もなくざわつく場で、ガタンと立ち上がったのはテオドアだった。

「タイキ様、その過去の勇者様は、ユニーク魔法の勇者様ですよね。僕、魔法が大好きで、ユニーク魔法についても色々考えた事があるんです」
テオドアの言いたいことが分からない。泰基は無言のままだ。

「ユニーク魔法って、本当にその人しか使えないのかなと思うんです。時間って何だろう、空間って何だろう、と考えた事もあります。
 時間についての答えは出ていませんが、空間って今僕たちがこうして過ごしているのが空間ですよね。昼は光の女神ヴァナの加護を受けて、夜は闇の女神ダーナの加護を受ける。そして、四属性の魔力が存在する」

そこまでは凜々しく言ったテオドアだが、突然慌てだした。
「……えっと、だから僕何を言いたいんだっけ? つまり、空間の魔法って、四属性と昼間なら光の、夜なら闇の、究極の五属性の混成魔法じゃないかと。それで再現ってできないのかな、と考えたことが……。いえ、申し訳ありません。現状に何も関係ないですね。あの、なかったことにして下さい……」

段々と声が小さくなって、体まで小さく縮めて椅子に座る。
相手が王子なせいか、周囲の人も声には出していないが、「なに変な事を言っているんだ」という目をテオドアに向けていた。

だが、リィカはうつむいた顔は上げず、しかし驚いたように目を見開いていた。
泰基も暁斗も、呆然とテオドアを見つめる。
泰基が、テオドアに軽く頭を下げた。

「いえ、とても貴重なお話しでした。殿下、ありがとうございます」
「……えっ? い、いえ、はい!」
戸惑ったテオドアだが、最後は元気に返事をした。



戸惑う雰囲気が流れる中、ウォルターが再度声を発した。
「具体的な話は置いておこう。魔族は突然現れるものだと仮定して話を進める。その上で、魔族への対策を検討したい」

王太子の言葉に被るように、扉がバンと開けられた。
全員の視線が、扉に集まる。

「……国王陛下!?」
誰かが発した言葉に全員が椅子から立ち上がり、それを見て、泰基や暁斗、リィカも立ち上がる。

そこにいたのは、ずっと寝室に籠もっていた、デトナ王国の国王、マルマデュークだった。
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