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第五章 デトナ王国までの旅路

誕生日①

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次の日の朝。
不機嫌そうにアレクに見られて、リィカは首を傾げる。
しかし、カトレナ達がいるからか、アレクが手を出すことはなかった。


テオドアは、相変わらずリィカにベッタリだ。
「《ファイア》! ――できた!!」
教えを請い続け、その結果、テオドアは無詠唱での魔法発動を成功させた。

リィカとしては、そこまで教える気はなかった。だから、魔力を感じるとかそういう話は一切していない。
だというのに、できてしまった。

(どこにでも天才っているんだね)
諦めた風のリィカだが、リィカ自身も周りからそう見られていることに、本人は気付いていなかった。


馬車の中では、リィカの隣、テオドアと反対側の席を確保して、機嫌の良い暁斗がいた。
夜番でリィカがアレクと一緒になると、その後リィカの顔が赤かった。


そんな事がありつつ、時々出るCランクの魔物を倒しつつ、馬車はデトナ王国内に入り、明日王都テルフレイラに到着する、という夜。


「今日の夜番の最後、俺と暁斗でやらせてもらえないか?」
泰基からそんな希望があった。

護衛の四人も夜番に入って、現在二人ずつ六組できている。
四人は夜番なしで寝ている計算だ。
順番で行けば、泰基は今日は夜番なしで休める予定だった。

「……タイキさんがいいなら、それで良いが」
アレクが戸惑うのも仕方ないだろう。
泰基は、助かる、と言って、頷いた。


※ ※ ※


「暖かくなってきたね」
「そろそろ夏らしいからな」

この世界に召喚されてきたときより、明らかに気温が上がっている。今までは寒さを感じていたこの時間が、今は普通に暖かい。
そう思って聞いたら、そろそろ夏だという話だった。

服も、今まで長袖だったのを、半袖に替えた。
召喚された当初は、冬の終わりというか春の初めというか、そんな季節だったらしい。
三ヶ月で春夏秋冬を巡るのは、日本と変わらないようだ。

「オレたちが日本にいたときには、夏だったのにね」
「ちょうど夏休みが始まったときだったな」

暁斗の言葉に、泰基は苦笑する。
時差だけではなく、季節のズレまであったのか、と思ったら、何となく笑えた。


「――父さん、オレに話でもあるの?」
暁斗に切り出された。
わざわざ順番を変えて、一緒の夜番にしてもらったのだ。当然、そう思うだろう。

「ああ」
泰基は短く答えた。
そして暁斗を正面から見て、持っていたものを暁斗に差し出した。

暁斗が目を見開く。
「これ、この間リィカが作ってた……?」
泰基から頼まれた魔石で、リィカが作っていた腕輪だ。

「ああ。リィカに作ってもらって、それにさらに俺が魔力を付与したんだ」
一度、泰基が言葉を切った。

「まだ少し早いんだけどな。明日以降は時間が取れるかどうか分からないから、渡してしまおうと思って。――誕生日おめでとう、暁斗」

「…………たんじょうび?」
暁斗は呆然と聞き返した。


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※おまけ※
本文中では一文で終わっていますが、アレクとリィカの夜番の様子について、思い付いて書きたくなったので、書いてしまいました。
読まなくても支障ありませんが、興味のある方は下へどうぞ。
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「なぁリィカ」
「……ひゃぁ!」
アレクに耳元で声を掛けられ、リィカは悲鳴を上げた。

アレクと一緒の夜番。
気付けば、リィカはアレクに後ろから抱き込まれていた。
なぜこうなったのか。混乱しているリィカに、アレクは質問を投げかけた。

「タイキさんに渡してたあの腕輪、一体何なんだ?」
またも耳元で言われ、くすぐったいというか、変な気持ちになる。
質問に答えるどころじゃない。のに、アレクの腕の力が強くなる。

「――答えろ、リィカ」
心持ち低くなったアレクの声。背中がぞわぞわする。体をよじるが、それでアレクの腕が緩むわけもなく。

「リィカ?」
早く答えろと、少し怒っているようでいて、どこかからかうような雰囲気もある声。
ここがリィカの限界だった。

「……っ……だからっ! 泰基にあげたわけじゃなくて……っ、頼まれて作っただけ……」
「……ふーん。タイキさんは何を……」

面白くなさそうに言ったアレクが、途中で言葉を切る。抱き締めていた腕が緩んだ。
アレクが立ち上がっていた。

「魔物だ。Dランクが一体だけみたいだから、俺だけでいい」
「…………ぇ……」

混乱の収まらないリィカを余所に、アレクは一人でさっさと移動する。
アレクが剣に魔力を纏わせたのが見えた。

そこに魔力を付与しようとして……
「……………!」
リィカが目を見開いた。が、すぐにホッとした顔になる。

魔力付与が成功するかと思ったのだ。途中までは上手くいっていた。けれど、最終的には失敗だ。
失敗してホッとするのも何だが、アレクから押しつけられた『協力』がどうしても頭に浮かんでしまう。

だが、Dランク。普通の剣技でも一撃だ。
難なく魔物を倒したアレクだが、その顔は落ち込んでいた。

「……また失敗か。なかなかできないな」
その声には自嘲するような響きがある。

きっとアレクは、途中まで上手くできていたことにも気付いてないのだろう。でも、段々とできるようになっている。
リィカはそれを伝えたくて、アレクを元気づけたくて、アレクの手を取った。

「……リィカ、どうした……」
アレクが途中で言葉を切る。驚きが伝わってくる。

――リィカは、ほとんど衝動のままに、アレクの手の甲に口づけをしていた。

「途中まではできてたよ。少しずつできるようになってる。だから大丈夫。がんばって」
懸命なリィカの顔に、アレクの顔がほころぶ。笑顔になった。

「ああ、分かった。頑張る。――ありがとな、リィカ」
アレクの言葉にリィカも笑顔になる。

アレクは、リィカが握ったままの手を引いた。リィカが少し前屈みになる。
「……え……?」
バランスを崩したリィカの腕を掴んで、そのまま引き寄せて抱き締める。

「でもな、リィカ。嬉しいが、あんなことされると、俺ますます調子に乗るぞ?」
からかうように、楽しそうに言われた。

アレクを元気づけたいと思って、深く考えずにやってしまった行為だ。今さらながら失敗したことを悟るが、もう遅かった。
離れようとしても、ゴソゴソ動く程度しかできない。

「……離してよ、アレク」
「嫌だ。リィカがどうしても嫌なら、魔法を使っていいぞ。それをしないなら、俺の気が済むまでこのままでいるんだな」

そんな事を言われても、魔法なんか使えるわけがない。
(いっそ、また魔物出てきてくれないかな)

そうすれば、アレクも自分を離すしかない。
割と本気でそう考えたリィカだが、残念ながら魔物救いの手は現れてくれなかった。

アレクの手が、時折リィカの背中をさするように動く。何てことない動きなのに、なぜかゾクッとする。
結局、リィカは夜番中のほとんどを、抱き締められて過ごす羽目になった。
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