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第五章 デトナ王国までの旅路

暁斗と聖剣グラム

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主人公たちの視点に戻ります。
時間軸は、四章の最後『泰基と凪沙』から数時間後くらいです。
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暁斗は目が覚めて、テントの外に出た
テントがあるだけでずいぶん寝やすいなぁ、などと考えていた暁斗は、話し声のした方に、何となく目を向ける。

父とリィカが、一緒に食事を作っている。
そういえば二人が夜番の最後だったな、と思いつつも、どこか二人の雰囲気が今までと違うような気がして、ジッと見つめた。

「起きたのか、暁斗。……どうした、もう腹減ったか? できるまでもう少し待て」
「おはよう、暁斗」
父にからかうように言われたが、リィカには普通に挨拶されたので、暁斗は父を無視してリィカにだけ挨拶を返す。

「リィカ、おはよう。……ねぇ、この辺り魔物いないみたいだし、少し散歩してきていい?」
「わたしじゃなくて、泰基に許可取らなきゃダメでしょ?」
その答えに何となく不満を覚えながら父を見れば、父は笑っていた。

「行ってこい。遠くまでは行くなよ。――気をつけてな」


※ ※ ※


この世界は、自然豊かだ。
草原もあれば森もある。川や湖は綺麗だ。
魔物の気配はなくても、生き物の気配はする。姿は見せないが、きっと動物なのだろう。

そんな自然豊かな場所を歩きながら、暁斗の左手は聖剣の柄にかかっている。
「……魔王との誓約、だっけ?」
ポツリと、暁斗の口から言葉が漏れた。周りには誰もいない、独り言。
しかし、暁斗には返事が聞こえた。

『そうだ。代々の勇者達は、魔王と誓約を交わした。だから、人間達に魔族の情報はほとんど伝わっておらぬ』
それは、暁斗がこの世界に召喚されてからずっと聞こえている、聖剣グラムの声だ。
暁斗は、一人になったときにはこうして聖剣と話をしていた。

口に出さなくても心の中だけで会話ができる。しかし、暁斗がどうしても口にしないと考えがまとまらないため、聖剣も暁斗が一人でいるときにしか話しかけない。
旅に出てからは、その機会がグッと減ったが、それでもちょっとした隙に話をしていた。

「なんで、そんな約束をしたの?」
『言ったであろう。それは言えぬ。自らの目で見て、知らねばならない』
昨晩、泰基がしていた質問。なぜ、魔族の情報が少ないのか。それを暁斗は聖剣に問いかけていて、そして、その時にもそう言われた。

「……オレも、その誓約をしなきゃダメなの?」
『いや。それはアキト自身が判断すれば良い。別に強制されているものではないからな。ただ、代々の勇者達は誓約する事を選んだ。それだけだ』
黙る暁斗の心の内が分かる聖剣は、人の言うところの苦笑の気配を宿す。

『ずいぶん混乱しているな。現時点で気にした所で、どうにもならぬぞ。それに、その誓約には仲間たちも含まれる。別に一人で判断せずとも、相談すればよい』
「……グラムって、時々説教くさい。先生の指導を受けてる気分になる」

『我も、これまでにたくさんの勇者と接しているからな。昨今では爺臭いと言われた』
「なんか分かる。それが一番適切な表現かも」

かなり失礼な暁斗の言葉だが、聖剣は気にした様子も見せない。余裕で受け流している。
こんな事を聞いたらまた説教されるかも、と思いながら、口を開こうとしたら、聖剣に先を越された。

『カークスを倒した時の、魔力付与か?』
「……だから、勝手に心を読まないでよ」

『その方が我としては早いのだ。――説明を受けていただろう? その通りだ。我が全く力を貸さなかった、というわけではないが、微々たるものだ。ほとんどがアキト自身の力によるものだ』
次に発せられた聖剣の声は、どこか懐かしさを含んでいた。

『剣技が編み出されてからは、剣技と魔法の組み合わせはあっても、あのような魔力付与は久しぶりであった。剣技がなかった頃は、当たり前の技法であったがな』
へえ、と口の中でつぶやく。驚いた。

「もしかして、昔って魔法の無詠唱なんかも当たり前だった?」
『無詠唱は誰もがやる。それこそ、前回の勇者のシゲキや、その前のアベルもな。それができねば、魔族と対抗はできなかった。だが、詠唱すれば魔法は使える。だから、どうしても一般には浸透せず、魔王誕生までの200年の間に忘れ去られてしまうだけだ』

「ふーん、なんかもったいない」
『我も同感だ。今回、すでに無詠唱で魔法を使う者がいたことに、驚いたくらいだ』
リィカのことだ。

暁斗の頭に、先ほど見た父とリィカの二人の姿が思い浮かぶ。何となくもやもやした。
聖剣もそれは察しているだろうが、聖剣は勇者の人間関係には一切口を出さない。

『アキト、一つだけ言っておく。今までの魔族は、剣で切れぬような固い身体をしておらぬ。むしろ人間より脆いくらいだった。――あのカークスといい、早いうちから魔族と遭遇することといい、今回の魔王との戦いは今までとは何かが違うぞ』

暁斗は眉をひそめ、その表情が険しいものになった。

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