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間章
モントルビア王国~ルイス公爵の決意~
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「……一週間の謹慎処分、か」
ルイス公爵は、屋敷の執務室で疲れたようにつぶやいた。
Bランクの魔物二体が街中に出現してから三日。
集めようとしなくとも、目撃証言はいくらでも出てきた。
二人が、会話の中で王太子だとかベネット公爵だとか言っていた。魔物の卵だと、孵化させて平民にけしかけると叫んでいた。脅して女の子を手に入れようとしていた。
場所が貴族街だ。その中には、力を持つ平民だっている。
貴族の中にも、正義感から、あるいは追い落とす機会だと踏んで、王太子とベネット公爵を糾弾する者もいた。
そしてそれらの声をまとめ上げ、ルイス公爵が国王に二人の処分を求めたのだが、下された処分が、一週間の謹慎処分、というものだった。
生ぬるい、なんてものじゃない。
どんなに最低でも、王太子は王太子位の剥奪を。ベネット公爵は当主の座の罷免を。
事態がどれだけ大変だったか、分かっているのか。勇者達が動いてくれなければ、王都は滅びていたかもしれないのだ。
だと言うのに。
「二人は勇者の前で魔物を孵化させたのだ。である以上、勇者が動くのは当然のこと。勇者が動き、被害が最小限で食い止められたのは、二人が最初から計画していた事である」
国王がそんな暴論を繰り広げた。国王にすり寄っている大勢の貴族も賛成した。その結果、わずか一週間の謹慎処分に納まったのだ。
(分かっているのか。この国は駄目だと魔族に思われたんだぞ。この国なら簡単に落とせると、魔族に判断されたんだ)
兄が国王の座について以来、あっという間にこの国は堕ちた。こんな簡単に腐っていくのか、と信じられない思いで見てきた。
今回の件は、その最たるものだろう。
他国の大使が口出ししてくれば、また違った結果だったかもしれないが、彼らは動かなかった。
気持ちは分からなくもない。
今街道に魔物が溢れているせいで、大使たちは本国と連絡が取れない状況なのだ。その状況で、この国のトップと対立しようとは思わないだろう。
ポケットから魔石を取り出す。
行方不明の、もう一人の魔族。
モルタナにはいなそうだ、とアレクシスとバルムートが言っていた。
とは言っても、魔族に命を狙われていたと知らされれば、安心はできない。いつまた魔族が来るかなど、分からないからだ。
どうにかして《結界《バリア》》の魔石を手に入れるしかないか、と思っていたら、ユーリッヒがそれをくれた。
息子の分も合わせて二つ。
《結界《バリア》》の魔石は、値段が高いだけではなく、何か人に狙われるような後ろ暗いことがある者が購入しようとすることが多い。
そのため、購入すればそれだけで変な勘ぐりを受ける可能性が高く、頭を悩ませていたが、あっさり解決した。
そのお礼と、リィカのことと魔物のことと二重に迷惑をかけたお詫びに、その張本人達をしっかり裁きたかったのだが、できなかった。
自分がルイス公爵家に婿入りすることが決まった時、父に言われた事がある。
『お前が長男であれば、と幾度も思ったが、それは叶わぬ願いだ。長男はボードウィンだ。だから、王位はボードウィンに継がせる。お前は、できるだけ兄を手助けしてやってくれ。足りぬ所を補ってくれ。それでも、もうどうにもできぬとお前が判断したのなら、その時はお前の好きにしていい』
目を瞑る。亡き父に語りかける。
「……もういいですよね、父上。これ以上、兄に従わなくても」
それは、自身への覚悟を問う言葉でもあったかもしれない。
ふと、デスクの上に置いたままにしていた資料に気付く。
17年前、ベネット公爵がアルカトル王国の視察に回った時の資料だ。
なぜ彼女が気にしていたのか。その理由は彼女の生い立ちを思えば、想像がついた。詳細を調べようかを悩み、結局はそれどころではなくなった。
コンコン
ドアがノックされる。入ってきたのは、息子のジェラードだ。
自分一人が覚悟を決めたところで、それだけではどうすることもできない。
まず真っ先に共犯にするべきは、息子だった。
「ジェラード、お前に一つ聞きたい。――お前、この国の王太子になる気はないか?」
ジェラードが目を見張った。
口の端が、面白そうに上がるのが分かる。
「父上がそう言って下さるのを待っていましたよ。ぜひ詳しく教えて下さい。もちろん答えは『ある』ですよ」
まだ待つべきだと、懇意にしているマルティン伯爵には言われた。
「今は」動かない各国も、魔王が倒れ、魔物が去れば、その限りではない。だから今はまだ我慢の時だと、そう言われた。
だが、逆に言えば、各国から苦情が来る前に、やらかした王太子やベネット公爵、ついでに国王を処罰できる機会でもある。
この国にもまだ優秀な者はたくさんいる。今権力を牛耳っている奴らより、よほど優秀な者たちだ。その者たちを一つにまとめて対抗すれば、勝てるだけの自信はあった。
「待っていろ『兄上』。今、その座から引きずり下ろしてやる」
静かに宣言した。
この日からおおよそ一年。
ルイス公爵は、国王の座に就任する。
ルイス公爵は、屋敷の執務室で疲れたようにつぶやいた。
Bランクの魔物二体が街中に出現してから三日。
集めようとしなくとも、目撃証言はいくらでも出てきた。
二人が、会話の中で王太子だとかベネット公爵だとか言っていた。魔物の卵だと、孵化させて平民にけしかけると叫んでいた。脅して女の子を手に入れようとしていた。
場所が貴族街だ。その中には、力を持つ平民だっている。
貴族の中にも、正義感から、あるいは追い落とす機会だと踏んで、王太子とベネット公爵を糾弾する者もいた。
そしてそれらの声をまとめ上げ、ルイス公爵が国王に二人の処分を求めたのだが、下された処分が、一週間の謹慎処分、というものだった。
生ぬるい、なんてものじゃない。
どんなに最低でも、王太子は王太子位の剥奪を。ベネット公爵は当主の座の罷免を。
事態がどれだけ大変だったか、分かっているのか。勇者達が動いてくれなければ、王都は滅びていたかもしれないのだ。
だと言うのに。
「二人は勇者の前で魔物を孵化させたのだ。である以上、勇者が動くのは当然のこと。勇者が動き、被害が最小限で食い止められたのは、二人が最初から計画していた事である」
国王がそんな暴論を繰り広げた。国王にすり寄っている大勢の貴族も賛成した。その結果、わずか一週間の謹慎処分に納まったのだ。
(分かっているのか。この国は駄目だと魔族に思われたんだぞ。この国なら簡単に落とせると、魔族に判断されたんだ)
兄が国王の座について以来、あっという間にこの国は堕ちた。こんな簡単に腐っていくのか、と信じられない思いで見てきた。
今回の件は、その最たるものだろう。
他国の大使が口出ししてくれば、また違った結果だったかもしれないが、彼らは動かなかった。
気持ちは分からなくもない。
今街道に魔物が溢れているせいで、大使たちは本国と連絡が取れない状況なのだ。その状況で、この国のトップと対立しようとは思わないだろう。
ポケットから魔石を取り出す。
行方不明の、もう一人の魔族。
モルタナにはいなそうだ、とアレクシスとバルムートが言っていた。
とは言っても、魔族に命を狙われていたと知らされれば、安心はできない。いつまた魔族が来るかなど、分からないからだ。
どうにかして《結界《バリア》》の魔石を手に入れるしかないか、と思っていたら、ユーリッヒがそれをくれた。
息子の分も合わせて二つ。
《結界《バリア》》の魔石は、値段が高いだけではなく、何か人に狙われるような後ろ暗いことがある者が購入しようとすることが多い。
そのため、購入すればそれだけで変な勘ぐりを受ける可能性が高く、頭を悩ませていたが、あっさり解決した。
そのお礼と、リィカのことと魔物のことと二重に迷惑をかけたお詫びに、その張本人達をしっかり裁きたかったのだが、できなかった。
自分がルイス公爵家に婿入りすることが決まった時、父に言われた事がある。
『お前が長男であれば、と幾度も思ったが、それは叶わぬ願いだ。長男はボードウィンだ。だから、王位はボードウィンに継がせる。お前は、できるだけ兄を手助けしてやってくれ。足りぬ所を補ってくれ。それでも、もうどうにもできぬとお前が判断したのなら、その時はお前の好きにしていい』
目を瞑る。亡き父に語りかける。
「……もういいですよね、父上。これ以上、兄に従わなくても」
それは、自身への覚悟を問う言葉でもあったかもしれない。
ふと、デスクの上に置いたままにしていた資料に気付く。
17年前、ベネット公爵がアルカトル王国の視察に回った時の資料だ。
なぜ彼女が気にしていたのか。その理由は彼女の生い立ちを思えば、想像がついた。詳細を調べようかを悩み、結局はそれどころではなくなった。
コンコン
ドアがノックされる。入ってきたのは、息子のジェラードだ。
自分一人が覚悟を決めたところで、それだけではどうすることもできない。
まず真っ先に共犯にするべきは、息子だった。
「ジェラード、お前に一つ聞きたい。――お前、この国の王太子になる気はないか?」
ジェラードが目を見張った。
口の端が、面白そうに上がるのが分かる。
「父上がそう言って下さるのを待っていましたよ。ぜひ詳しく教えて下さい。もちろん答えは『ある』ですよ」
まだ待つべきだと、懇意にしているマルティン伯爵には言われた。
「今は」動かない各国も、魔王が倒れ、魔物が去れば、その限りではない。だから今はまだ我慢の時だと、そう言われた。
だが、逆に言えば、各国から苦情が来る前に、やらかした王太子やベネット公爵、ついでに国王を処罰できる機会でもある。
この国にもまだ優秀な者はたくさんいる。今権力を牛耳っている奴らより、よほど優秀な者たちだ。その者たちを一つにまとめて対抗すれば、勝てるだけの自信はあった。
「待っていろ『兄上』。今、その座から引きずり下ろしてやる」
静かに宣言した。
この日からおおよそ一年。
ルイス公爵は、国王の座に就任する。
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