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第四章 モントルビアの王宮
偶然の産物
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「うわぁ、美味しそう! ありがとうございます!」
「いつもすいません」
暁斗の元気な声が響き、泰基が頭を下げる。
「……す、すいません」
リィカが恐縮したように身体を固くする。
勇者一行にお茶を出すときの、光景だ。
執事はにこやかに笑う。
本来は、お礼も謝罪も必要ないのだ。
だが、最初お茶を出したとき、何も言わずに手を伸ばした暁斗を泰基が叱るのを見て、必要ないと言うのをやめた。
彼らには彼らの有り様がある。だが何よりも、言われて悪い気はしない、というのが、実は言わない一番の理由だった。
※ ※ ※
「そういえばアキト、魔力の付与、できるんですね」
お茶を飲みながら、ユーリが思い出したように、話を切り出した。
「わたしも思った。暁斗できるようになったんだなぁって」
リィカが同意する。腰に回された手はそのままで、思わず身を乗り出したら引き戻された。横目で睨むが、アレクはまるで頓着しない。
「……え? ……何が?」
当の暁斗は、訳が分かっていない顔だ。
「カークスにトドメを刺すとき、土のエンチャントに、さらに水の魔力を付与していただろ? あれ、魔石にする魔力付与と同じだぞ?」
泰基が解説するが、暁斗は首をかしげる。
「……そんな事したっけ?」
ユーリとリィカ、そして泰基が押し黙る。
代わりに、アレクとバルがフォローを試みる。
「土のエンチャントが、水のそれみたいに鋭くなっていたぞ?」
「あれ、狙ってやったんじゃねぇのか?」
魔力を見るなんて真似はできない二人だが、土のエンチャントは目でも見やすい。その変化は、しっかり捉えていた。
それでもなお考えていた暁斗だが、ややあって声を上げた。
「…………思い出した! うん、強度と鋭さが欲しいなぁって思ったんだ。そしたら、思った通りに土のエンチャントが変化してくれて、助かったって思った。――でも、水の付与ってなに?」
先ほど押し黙った三人が、順番に口を開いた。
「……つまり、無意識にやったという事ですか?」
「……偶然とか、まぐれ、とか?」
「……火事場の馬鹿力か?」
三人同時にため息をついて、次いで笑い出した。
「まあ、アキトらしいですよ」
「そうだね。最初から色々規格外だった暁斗だもんね」
「本人が何も分かってない、というのが、どうしようもないな」
「なんで笑うの!? ちゃんと説明してよ!」
暁斗が抗議するが、泰基の返事はあっさりだ。
「どうせ説明したって理解できないだろ。気にするな」
「父さん、ひどい!」
バルは、ふと思い出して、アレクを見る。
「そういや、お前もあの剣技、何をしたんだ? 何であんなに鋭くなった?」
バルが聞いているのは、魔族の男を倒したときの事だろう。
普通に剣技を繰り出したら、あんなに細く、鋭くはならない。
とはいっても、アレクにも説明できない。どうしたものか、と思っていたら、場が静かになっていた。ユーリと泰基が興味深そうにアレクを見ている。横にいるリィカの視線も感じた。
「……何だよ?」
「アレクがどう答えるのか、興味があるだけです。アキトの無自覚よりはマシな答えであって下さいね?」
アレクは、頬がヒクッとするのを感じた。
ユーリが完全に面白がっているのが分かった。
説明できない、と素直に言うのは悔しい。頭をフル稼働させた。
「……そこまで言うんなら、ユーリには何が起こったのか分かっているんだろうな? 合っているか確かめてやるから、言ってみろ」
秘技、分かっている振り。その上で相手に答えを言わす。言われた事に、正解だと言ってやれば、ユーリも機嫌良くなるだろうし、アレク自身も答えを知ることができる。
(よし、俺にしてはよく考えた!)
自画自賛したアレクだが、ユーリの興味深そうな顔は変わらない。
「いえいえ、別に答え合わせをしたいわけじゃないですよ。アレクが何と言うかを聞きたいだけです」
手を横に振りつつユーリに切り替えされ、言葉に詰まる。
「「――ぶっ……!」」
噴き出す声が重なった。リィカと泰基だ。
「ユーリ、意地悪だ」
「アレクこそ、まぐれだろ。あれを意識してできるなら、無詠唱だってできる」
「二人とも、あっさり言わないで下さいよ。せっかく面白かったのに」
笑い出す三人にアレクは少しムッとする。
腰に回している手に力を込める。
「……ひぇっ?」
悲鳴を上げて横に倒れてきたリィカを受け止めて、その体に手を回す。
「あの……アレク……?」
アレクに後ろから抱きしめられる体勢になって、リィカはおずおずと伺う。
アレクは、その耳元に口を寄せた。
「何で俺の剣技、あんな風になったんだ?」
質問自体は至極真面目なのだが、体勢と口調が完全に裏切っている。
耳元でしゃべられたリィカは、肩を跳ねさせた。
「……アレク、教えるから、離れて……」
「教えてくれたら、離す」
「――耳元でしゃべんないで! ユーリ! 泰基でもいいから! アレクに……」
言いかけて口を塞がれて、目を白黒させる。
「……僕を巻き込まないで下さいね」
「……そういうことだから、諦めろ、リィカ」
巻き込むって何、そういうことって何。
文句を言いたいが、口を塞がれていては文句も言えない。
ユーリが立ち上がる。泰基も不満げな暁斗を促して立ち上がっている。
「おれも答えを知りたいんだが」
と言いつつバルも立ち上がる。
そのまま四人が出て行ってしまい、リビングにはリィカとアレクが残された。
「いつもすいません」
暁斗の元気な声が響き、泰基が頭を下げる。
「……す、すいません」
リィカが恐縮したように身体を固くする。
勇者一行にお茶を出すときの、光景だ。
執事はにこやかに笑う。
本来は、お礼も謝罪も必要ないのだ。
だが、最初お茶を出したとき、何も言わずに手を伸ばした暁斗を泰基が叱るのを見て、必要ないと言うのをやめた。
彼らには彼らの有り様がある。だが何よりも、言われて悪い気はしない、というのが、実は言わない一番の理由だった。
※ ※ ※
「そういえばアキト、魔力の付与、できるんですね」
お茶を飲みながら、ユーリが思い出したように、話を切り出した。
「わたしも思った。暁斗できるようになったんだなぁって」
リィカが同意する。腰に回された手はそのままで、思わず身を乗り出したら引き戻された。横目で睨むが、アレクはまるで頓着しない。
「……え? ……何が?」
当の暁斗は、訳が分かっていない顔だ。
「カークスにトドメを刺すとき、土のエンチャントに、さらに水の魔力を付与していただろ? あれ、魔石にする魔力付与と同じだぞ?」
泰基が解説するが、暁斗は首をかしげる。
「……そんな事したっけ?」
ユーリとリィカ、そして泰基が押し黙る。
代わりに、アレクとバルがフォローを試みる。
「土のエンチャントが、水のそれみたいに鋭くなっていたぞ?」
「あれ、狙ってやったんじゃねぇのか?」
魔力を見るなんて真似はできない二人だが、土のエンチャントは目でも見やすい。その変化は、しっかり捉えていた。
それでもなお考えていた暁斗だが、ややあって声を上げた。
「…………思い出した! うん、強度と鋭さが欲しいなぁって思ったんだ。そしたら、思った通りに土のエンチャントが変化してくれて、助かったって思った。――でも、水の付与ってなに?」
先ほど押し黙った三人が、順番に口を開いた。
「……つまり、無意識にやったという事ですか?」
「……偶然とか、まぐれ、とか?」
「……火事場の馬鹿力か?」
三人同時にため息をついて、次いで笑い出した。
「まあ、アキトらしいですよ」
「そうだね。最初から色々規格外だった暁斗だもんね」
「本人が何も分かってない、というのが、どうしようもないな」
「なんで笑うの!? ちゃんと説明してよ!」
暁斗が抗議するが、泰基の返事はあっさりだ。
「どうせ説明したって理解できないだろ。気にするな」
「父さん、ひどい!」
バルは、ふと思い出して、アレクを見る。
「そういや、お前もあの剣技、何をしたんだ? 何であんなに鋭くなった?」
バルが聞いているのは、魔族の男を倒したときの事だろう。
普通に剣技を繰り出したら、あんなに細く、鋭くはならない。
とはいっても、アレクにも説明できない。どうしたものか、と思っていたら、場が静かになっていた。ユーリと泰基が興味深そうにアレクを見ている。横にいるリィカの視線も感じた。
「……何だよ?」
「アレクがどう答えるのか、興味があるだけです。アキトの無自覚よりはマシな答えであって下さいね?」
アレクは、頬がヒクッとするのを感じた。
ユーリが完全に面白がっているのが分かった。
説明できない、と素直に言うのは悔しい。頭をフル稼働させた。
「……そこまで言うんなら、ユーリには何が起こったのか分かっているんだろうな? 合っているか確かめてやるから、言ってみろ」
秘技、分かっている振り。その上で相手に答えを言わす。言われた事に、正解だと言ってやれば、ユーリも機嫌良くなるだろうし、アレク自身も答えを知ることができる。
(よし、俺にしてはよく考えた!)
自画自賛したアレクだが、ユーリの興味深そうな顔は変わらない。
「いえいえ、別に答え合わせをしたいわけじゃないですよ。アレクが何と言うかを聞きたいだけです」
手を横に振りつつユーリに切り替えされ、言葉に詰まる。
「「――ぶっ……!」」
噴き出す声が重なった。リィカと泰基だ。
「ユーリ、意地悪だ」
「アレクこそ、まぐれだろ。あれを意識してできるなら、無詠唱だってできる」
「二人とも、あっさり言わないで下さいよ。せっかく面白かったのに」
笑い出す三人にアレクは少しムッとする。
腰に回している手に力を込める。
「……ひぇっ?」
悲鳴を上げて横に倒れてきたリィカを受け止めて、その体に手を回す。
「あの……アレク……?」
アレクに後ろから抱きしめられる体勢になって、リィカはおずおずと伺う。
アレクは、その耳元に口を寄せた。
「何で俺の剣技、あんな風になったんだ?」
質問自体は至極真面目なのだが、体勢と口調が完全に裏切っている。
耳元でしゃべられたリィカは、肩を跳ねさせた。
「……アレク、教えるから、離れて……」
「教えてくれたら、離す」
「――耳元でしゃべんないで! ユーリ! 泰基でもいいから! アレクに……」
言いかけて口を塞がれて、目を白黒させる。
「……僕を巻き込まないで下さいね」
「……そういうことだから、諦めろ、リィカ」
巻き込むって何、そういうことって何。
文句を言いたいが、口を塞がれていては文句も言えない。
ユーリが立ち上がる。泰基も不満げな暁斗を促して立ち上がっている。
「おれも答えを知りたいんだが」
と言いつつバルも立ち上がる。
そのまま四人が出て行ってしまい、リビングにはリィカとアレクが残された。
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