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第四章 モントルビアの王宮

VSサイクロプス①

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「……でかいな」
向き合って、アレクは改めて思う。
自分の身長は、サイクロプスの腰くらいまでしかない。


サイクロプスが棍棒を振り下ろしてきた。
一瞬受け止めようと思ったが、すぐにやめて躱す方を選ぶ。

「…………!」
その判断は正解だった。
棍棒が地面にぶつかると、地面が爆発を起こしたかのようにえぐれた。
その衝撃が自分のほうにまで来て、一瞬息が詰まる。
こんなものを受け止めていたら、確実に潰されていた。


「……とんでもねぇ力だな。どうする?」
寄ってきたバルとユーリに視線を向ける。
どうすると言われても、対抗策などない。

「……力はすごいが、動きは遅い。今のところ、棍棒を振り回すしかしてないから、棍棒を躱して攻撃を加えていくしかないな。ユーリは隙を見て攻撃を」
「分かった」
「分かりました。ですがその前に、――《広強化・力マス・ピュー・フォルテ》!」
ユーリが魔法を唱える。

「力の強化魔法です。あんな相手なら、あった方がいいでしょう。感覚が違うかも知れませんが、戦いながら慣れてください」
「「強化魔法……」」

アレクもバルも、手を見つめる。
強化魔法は初めてだ。確かに、感覚が違う。
サイクロプスが、再度棍棒を振り上げた。
余裕を持って躱して、振り下ろされた腕に剣を振るう。

「ガァァァァァァァァァァァァ!!」
「……すごいな、強化魔法」
サイクロプスが悲鳴を上げる。

アレクは口がにやけそうになる。いつだったか、必要ないと言った事が間違いだったと分かる。
サイクロプスの腕を、半ばまで切り裂いた。


アレクと反対に躱したバルは、その足に切り付ける。
剣を振るった力に驚いた。
「これなら、サイクロプスと力勝負もできそうだ」
ニヤッと笑った。


後方に下がったユーリは、戦況を見ていた。
思った通り、強化魔法がかなりいい効果を発している。
これなら勝てる。

そう思って、しかしサイクロプスの魔力の流れを見て、目を見張った。
「アレク、バル、気をつけて! 傷が回復します!」
「……何だと?」
「……まさか!」

それぞれ、自分の付けた傷を見る。
傷口が光に包まれた。そして、それが消えたときには傷は残っていなかった。

「嘘だろう!?」
「出鱈目すぎんだろ!」
思わず叫ぶのも無理はない。
かなり大きな傷を与えたのだ。それが一瞬で回復されてはたまらない。


サイクロプスが、今度は横からなぎ払うように棍棒を振るってきた。
「《輪光リング・ライト》!」
ユーリの、光の中級魔法が唱えられる。

本来なら一つの光の輪を作り出す魔法だが、それを小さく、しかし多数の輪を作り、サイクロプスに放つ。
攻撃を受けたせいで、棍棒の狙いが逸れた。

「ガァァ!!」
無茶苦茶に棍棒を振り回し、《輪光リング・ライト》はすべて消された。
その隙に、ユーリは叫ぶ。

「回復には時間差があります! だから、回復が始まる前に倒しきるのが一番です!」
「時間差と言ったって、そんなにないだろう!?」
「しかし、それしかありませんよ!」
抗議してくるアレクに、ユーリも叫び返す。

他に方法がないわけではない。回復には魔力を使っているから、魔力を使い切れば回復はしない。
とにかく傷を与えて回復させ続ければ、いつかは魔力がなくなる。
しかし、サイクロプスの魔力量から見ると、それは現実的な手ではなかった。


「……やるしかないか。バル、サイクロプスの攻撃、受けられるな?」
「ああ、任せておけ」

短いやり取りをする。
バルはサイクロプスの正面に、アレクは側面に回る。
狙い通りに、サイクロプスはバルに棍棒を振り下ろしてきた。
バルは剣技を発動させるように、剣に魔力を纏わせる。振り下ろされる棍棒を、受け止めた。

「――ぐっ……!」
想像以上に重い。だが、これなら何となる。
棍棒を受け止め、動きの止まったサイクロプスを見て叫ぶ。

「――アレク、今だ!」
アレクはジャンプをする。棍棒を振り下ろして、頭が下がっている。ジャンプをすれば届く。

「【天馬翼轟閃てんまよくごうせん】!」
放たれた風の剣技は、サイクロプスの首の後ろで振り下ろされ、炸裂する。

「ガァァァァァァァァァァァァ!!」
痛みで叫ぶサイクロプスに、ユーリが追い打ちをかけた。

「《輪光リング・ライト》!」
今度は、通常の、大きな一つの光の輪。
首元を狙って放たれたそれを、サイクロプスは左腕でガード。しかし、その左腕を《輪光リング・ライト》が切断した。

またも叫ぶかと思われたサイクロプスは、無言のまま、その一つ目が狂気の色に染まる。
棍棒を弾き飛ばし、トドメを刺すべく剣技の発動に入ったバルは、その瞬間目を疑った。

「棍棒が光ってる!?」
「バル、避けて! 《結界バリア》!」
ユーリが咄嗟に《結界バリア》を放つ。

光る棍棒は、一瞬で《結界バリア》を破壊。その一瞬で直撃だけは避けたバルだが、その衝撃で体が吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
それでも、すぐに体を起こす。

「バル!」
「――何だ、あれは?」
駆け寄ってくるユーリに聞く。バルには、何が起こったのか分からなかった。

対するユーリは、驚きと悔しさの入り交じった声で答えた。
「あれは剣技と同じです。正確には、剣技発動前の魔力を纏わせた状態。サイクロプスは、棍棒に魔力を纏わせて攻撃してきたんです」
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