124 / 619
第四章 モントルビアの王宮
学園の期末期テスト
しおりを挟む
一通りリィカが話を終えると、ルイス公爵は、ふむ、と言ってそのまま黙った。
リィカは、最初兵士に後ろ手に拘束され、ずっとそのままだと言った時、コッソリ暁斗の反応を確認した。しかし、何も気付いてなさそうだと安心した。
暁斗にねだられて頭を撫でて上げたあの行為が、実は痛くて辛かった、とは知って欲しくない。
しかし、代わりにそれを見ていたアレクと泰基の表情が変わったのが分かる。
暁斗には言わないで、という想いを込めて視線を送ってみたが、どうなるか。
「話してくれて感謝する。本当に辛い思いをさせてしまった。すまない。王太子たちの罪は必ず明らかにしてみせる」
ルイス公爵は頭をさげ、しかしそれにリィカが反応する前に、さらに言葉を紡ぐ。
「牢番も兵士も、手慣れている感じだ。かなりの頻度であの牢屋を使っているんだろうな」
ルイス公爵は考えをまとめるように、腕を組んで誰ともなしにつぶやく。
リィカは、恐る恐る問いかけた。
「……あの、王太子ってどうしていますか?」
王太子からしたら、衰弱させて準備万端。これから本番と言うときに、横から浚われたのだ。何かしらの報復があっても、おかしくない。
「イライラはしているね。ただ、いつものことだから気にしなくていい。何かやらかさないように監視はしているけれど、今のところ何もない。さすがに、これ以上勇者一行に手を出すことはないと思うよ」
そうであることを願いたい、と思う。
リィカは、手を握りしめた。
※ ※ ※
ルイス公爵が席を立ち、六人だけの場になる。
「――リィカは、一人で何とかするつもりだったんだな」
やりきれないようにつぶやくアレクに、リィカは笑う。
「みんなが知ってるなんて思わなかったもの。魔法が封じられることさえ防げば、何とかできるかなぁ、って」
実際には、想像以上に体が動かないから不安になっていたが、そこは言わない。
「……どうやって、みんなは知ったの?」
そこも疑問と言えば疑問だ。
アレクが、リィカにマルティン伯爵のことを説明する。
「そうだったんだ……。動けるようになったら、一度お礼に伺いたいな」
「どっちにしても、出立前には挨拶したいからな。その時一緒にお礼をしよう」
コクン、と頷いた。
※ ※ ※
順調にリィカは回復した。
泰基が「若いっていいな」とつぶやき、笑いを誘った。
次の日には、普通に動けるようになる。
そうなると、リィカはジッとしていられない。次の日に出発することを決めた。
ちなみに、リィカの荷物はルイス公爵が取り戻してくれた。
中身が全部無事、というか、お風呂の魔道具が無事であることに一同が喜んだのは、言うまでもない。
マルティン伯爵のところへも挨拶に伺った。
リィカが頭を深く下げてお礼を伝えると、マルティン伯爵は微笑ましそうに笑って、無事を喜んでくれた。
「学園で、魔法の実技試験で一位を取ったそうだね。でも勉強も頑張っていたようだから、そこだけは旅に出たことが少し残念かな」
リィカは首をすくめた。
「……頑張ってないです。筆記試験は、下から数えた方が早い順位でした」
「君は学園入学時、読み書きができなかったんだろう? だから中間期の筆記テストは最下位だった。それが、期末期には一気に順位を押し上げたんだ。見事だよ」
「……ありがとうございます。詳しいんですね」
「私の性だね。学園の平民クラスに入る子は、その辺の貴族よりよほど優秀だ。だから、情報は集めているんだよ」
リィカに穏やかに笑ったマルティン伯爵だが、アレクに意味ありげに視線を向ける。
「ところで、アレク様は筆記試験はいかがでした?」
「……知らん。興味もない」
ふいっと視線を逸らす。マルティン伯爵は、わざとらしくため息をついた。
「まったく。真面目にやればできると思うのですがね。期末期のアレク様の筆記試験の結果ですが、リィカ嬢の一つ下の順位だったのですよ。少し前まで読み書きのできなかった方に負けたのです。旅が終わりましたら、きっちり勉強なさいませ」
アレクが衝撃を受けた顔でリィカを見ると、リィカが頷いた。
「……ほんとに知らなかったの?」
「……だから、興味なかったと言っただろう」
当時、リィカの名前くらいはアレクだって知っていた。興味があって結果を気にしていれば気付いたはずだ。
興味あるなしというよりも、どうせ結果は悪いのだから、あえて気にしないようにしていた、というべきか。
アレクはガックリと肩を落とした。
リィカは、最初兵士に後ろ手に拘束され、ずっとそのままだと言った時、コッソリ暁斗の反応を確認した。しかし、何も気付いてなさそうだと安心した。
暁斗にねだられて頭を撫でて上げたあの行為が、実は痛くて辛かった、とは知って欲しくない。
しかし、代わりにそれを見ていたアレクと泰基の表情が変わったのが分かる。
暁斗には言わないで、という想いを込めて視線を送ってみたが、どうなるか。
「話してくれて感謝する。本当に辛い思いをさせてしまった。すまない。王太子たちの罪は必ず明らかにしてみせる」
ルイス公爵は頭をさげ、しかしそれにリィカが反応する前に、さらに言葉を紡ぐ。
「牢番も兵士も、手慣れている感じだ。かなりの頻度であの牢屋を使っているんだろうな」
ルイス公爵は考えをまとめるように、腕を組んで誰ともなしにつぶやく。
リィカは、恐る恐る問いかけた。
「……あの、王太子ってどうしていますか?」
王太子からしたら、衰弱させて準備万端。これから本番と言うときに、横から浚われたのだ。何かしらの報復があっても、おかしくない。
「イライラはしているね。ただ、いつものことだから気にしなくていい。何かやらかさないように監視はしているけれど、今のところ何もない。さすがに、これ以上勇者一行に手を出すことはないと思うよ」
そうであることを願いたい、と思う。
リィカは、手を握りしめた。
※ ※ ※
ルイス公爵が席を立ち、六人だけの場になる。
「――リィカは、一人で何とかするつもりだったんだな」
やりきれないようにつぶやくアレクに、リィカは笑う。
「みんなが知ってるなんて思わなかったもの。魔法が封じられることさえ防げば、何とかできるかなぁ、って」
実際には、想像以上に体が動かないから不安になっていたが、そこは言わない。
「……どうやって、みんなは知ったの?」
そこも疑問と言えば疑問だ。
アレクが、リィカにマルティン伯爵のことを説明する。
「そうだったんだ……。動けるようになったら、一度お礼に伺いたいな」
「どっちにしても、出立前には挨拶したいからな。その時一緒にお礼をしよう」
コクン、と頷いた。
※ ※ ※
順調にリィカは回復した。
泰基が「若いっていいな」とつぶやき、笑いを誘った。
次の日には、普通に動けるようになる。
そうなると、リィカはジッとしていられない。次の日に出発することを決めた。
ちなみに、リィカの荷物はルイス公爵が取り戻してくれた。
中身が全部無事、というか、お風呂の魔道具が無事であることに一同が喜んだのは、言うまでもない。
マルティン伯爵のところへも挨拶に伺った。
リィカが頭を深く下げてお礼を伝えると、マルティン伯爵は微笑ましそうに笑って、無事を喜んでくれた。
「学園で、魔法の実技試験で一位を取ったそうだね。でも勉強も頑張っていたようだから、そこだけは旅に出たことが少し残念かな」
リィカは首をすくめた。
「……頑張ってないです。筆記試験は、下から数えた方が早い順位でした」
「君は学園入学時、読み書きができなかったんだろう? だから中間期の筆記テストは最下位だった。それが、期末期には一気に順位を押し上げたんだ。見事だよ」
「……ありがとうございます。詳しいんですね」
「私の性だね。学園の平民クラスに入る子は、その辺の貴族よりよほど優秀だ。だから、情報は集めているんだよ」
リィカに穏やかに笑ったマルティン伯爵だが、アレクに意味ありげに視線を向ける。
「ところで、アレク様は筆記試験はいかがでした?」
「……知らん。興味もない」
ふいっと視線を逸らす。マルティン伯爵は、わざとらしくため息をついた。
「まったく。真面目にやればできると思うのですがね。期末期のアレク様の筆記試験の結果ですが、リィカ嬢の一つ下の順位だったのですよ。少し前まで読み書きのできなかった方に負けたのです。旅が終わりましたら、きっちり勉強なさいませ」
アレクが衝撃を受けた顔でリィカを見ると、リィカが頷いた。
「……ほんとに知らなかったの?」
「……だから、興味なかったと言っただろう」
当時、リィカの名前くらいはアレクだって知っていた。興味があって結果を気にしていれば気付いたはずだ。
興味あるなしというよりも、どうせ結果は悪いのだから、あえて気にしないようにしていた、というべきか。
アレクはガックリと肩を落とした。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる