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第四章 モントルビアの王宮

晩餐

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晩餐は、確かに侍る女性はいなかった。
しかし、給仕をする女性はなぜか露出の激しい女性ばかりで、偶然を装って体を押しつけてくる。

本来なら、それでも暁斗は気持ち悪くなっただろうが、リィカのことで頭が一杯になっていた暁斗は、それらの女性たちを気に掛ける余裕はなかった。


魔法師団の素晴らしさについて語っているベネット公爵の話を聞き流しながら、暁斗はできるだけ早くこの晩餐が終わる事だけを望んでいた。
そのせいで、食べるペースが早い。

新しく注がれた飲み物を飲んだ暁斗は、思わず口を押さえた。
「どういたしましたか、勇者様?」
「――これ、お酒だよね。オレ、お酒は飲まないって言っていたはずだけど」

アルカトルでも飲んでいないし、ここに来てからもそう宣言していた。
だから、昨日の王宮でも出されなかった。

「も、もちろん存じております。しかし、その酒はとてもいいものでして、どうしても勇者様に召し上がって頂きたいと……」

暁斗は、泰基に言われていた。
勇者の立場は強い。だから、多少の無茶なら押し通せる。
何かあれば、強気で攻めろ。

(だったら、この程度、言ってもいいよね)
暁斗は、ベネット公爵を真っ正面からにらみ返す。

「いいものだろうと、飲まないものは飲まないよ。――オレのいた国じゃ、お酒は二十歳になるまで飲むのが禁止なんだ。それを破る気はないから。気分悪いから、先に部屋に帰る」
「……え、あ、勇者様、お待ちを……!」
引き留めようとする声を無視して、暁斗はその場から離れた。


(ここまで来て、開き直ってきたな)
出て行く息子を見送りながら、泰基が苦笑する。
けれど、このモントルビアでは、それでいい。
少しくらい強気に出なければ、相手に呑まれてしまう。

「……その、申し訳ありません」
頭を下げるベネット公爵を、泰基は冷ややかに見つめる。
「俺に謝られてもな。暁斗の言った事を無視したのは、そっちだ。許して欲しかったら、暁斗に直接言ってくれ」

「……本当にそのような決まりがあるのでしょうか?」
「疑うのか? 確かにあるぞ。法律で決められている。破ったからといって罰則があるわけではないが、二十歳前の飲酒は体に悪いと言われているから、守る奴は結構多いんじゃないか?」
うつむいたベネット公爵を気にとめることなく、泰基は食事を再開する。

「体に悪いというのは、本当ですか?」
酒を飲みながら聞くのは、ユーリだ。

「ああ。……俺も専門家じゃないから、詳しい事までは知らないが、確かアルコールの分解する力が弱い、とかそんな理由があったと思う」
「そうなんですか。いつか具体的に調べてみたいですね。……お酒を飲むの、やめておきましょう」

「……結構気にするんだな」
泰基の意外だという顔に、ユーリは少しむくれる。

「それは、そうです。神官として色々な治療をしてきましたから。体に悪いと聞かされては、気になりますよ」
「……そういうものか」
そんな会話をしている中、その知らせは突然入ってきた。

「失礼します。お館様、ご歓談中申し訳ありません!」
「何だ! 勇者様の御前だぞ!」

入ってきた使用人に対してベネット公爵が怒鳴りつけ、それに泰基たちが顔をしかめる中、しかし、その使用人はさらに頭を下げた。

「……実は、その、勇者様が外へ行くと、出て行ってしまわれまして」
「…………なに?」
ベネット公爵のつぶやきに、こればかりは泰基も同感だった。

(何やってるんだ、あいつは!)
一人で暴走するなと言われたばかりだというのに、早速破った暁斗を連れ戻そうと、泰基は立ち上がった。


※ ※ ※


晩餐の場から去った暁斗は、そのまま自分に与えられた部屋にいた。

(リィカ、どうしてる? 大丈夫?)
気になるのは、そこだけだ。窓から外を見ながら、リィカのことだけを考える。

(――あれ?)
何かが引っかかった。
窓を開けて、集中する。気配を探れば……いた。

「――リィカ!」
叫んで身を翻す。
決して近くではない。でも、この広大な公爵家の敷地内だ。
リィカが、間違いなくいる。


「勇者様、お待ち下さい! どちらへ!?」
「どいて。外に行く」
扉の前に立ち塞がる人を強引にどかして外へ出た暁斗は、リィカの気配に向かって、走り始めた。

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