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第三章 魔道具を作ろう

テントの魔道具とお風呂

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少し遅めの昼食休憩中。
サルマが出してくれた魔道具のテントに、一同驚きだ。

長さは短刀くらい。太さは手で握れる程度。
日本風に言うなら、折りたたみ傘くらいの大きさしかない。
だというのに、魔石に魔力を流した途端に、大きく広がった。

やがて広がったテントを見れば、座るだけなら六人が入っても十分。
一度に中で寝られるのは、四人程度、という感じだ。

「テントが飛ばないように、固定は自力でやって」
と言われたが、それだけなら全然大したことはない。

「……なにがどうして、こうなるんですか」
リィカの質問は、メンバー全員の質問でもあった。

「悪いけど、秘密。色々大変だったんだよ。張り切って作ってみたはいいけど、量産できる代物じゃないし、値段はバカ高く付くし、死蔵されていた品だよ」

「バカ高いって、どのくらいだ?」
アレクが聞いて返ってきた答えに、流石に唖然とした。

「……城一つ建つんじゃないか?」
金額交渉も何もない。少々安くなった所で、そんなもの買えるわけがない。

しかし、分かってると言いたげなオリーが、
「だから、この金額だったらどう?」
提示してきた金額に、さらに絶句した。

値引きというのも馬鹿馬鹿しい、元値を考えればタダ同然の値段。
店で買える、普通のテントの値段だ。

「ボクらがキミたちに報酬として提示したのって、モルタナまで馬車に乗せてあげる、ってだけだろ? 食事も出せないばかりか、代わりに肉とか出してもらっちゃってるし、魔道具のアイディアも、もらってる。
 さすがに、キミたちほど実力のある人たちに護衛してもらって、報酬がそれだけっていうのは、ないなぁと思うんだよ。だから、どうせ死蔵されていた品だし、どうかなと思ったんだけど」

アレクはさすがに迷う。しかし、素直に思ったことを言うことにした。
「……こっちは嬉しいが、本当に良いのか?」

「もちろんだよ。じゃあ、決まりだ」
こうして、彼らは魔道具のテントを手に入れた。


テントの交渉が終わった所で、ユーリはカセットコンロに目を向けた。
「……やっぱり、いいですね、これ」

「持って行くのは無理だからな」
アレクが先手を打つ。小型ではあるんだろうが、旅には不向きだ。

「どうしてもって言うんなら、魔法のバッグの魔道具を頑張って作ってくれ」
「……それこそ、無茶言わないで下さいよ」
そもそも、そんな物を作ろうと、チャレンジすらしていないのだから。


「何の魔道具を作ってんだ?」
外にいたバルは、中の様子が分からない。
なので、その質問も最もなのだが、挑戦していた四人が目を逸らし、アレクは苦笑した。

「とりあえず、リィカは成功だろう?」
「……成功なのかなぁ」

出してみろと手を出すアレクに、一応の成功品を渡す。
それがバルの手に渡り、アレクが指示を出す。

「剣技をやる時のように、魔力を流してみろ」
言われた通りにバルがやってみたら、お湯が出てくる。
しかも、魔力を通すのをやめても、出っぱなしだ。

「もう一回魔力を流せば、止まるよ」
今度は、リィカに言われた。その通りにしたら、お湯が止まった。

「……すげぇじゃねぇか」
「すごくない! そんなチョロチョロしか出なかったら、お風呂にならない!!」
思わず零れたバルの感想に、しかしリィカは不満爆発だ。

リィカの目的は、浸かるお風呂だ。
しかし、作った魔道具から出るお湯の量は、お風呂として溜めるのには少なすぎるのだ。

「Eランクの魔物の魔石だからねぇ。そんなもんだろうさ。それでも、寒い冬には喜ばれるよ。本当にこれ、ワタシらで作って売っていいの?」
サルマの言葉に、リィカは躊躇わずに頷く。

「わたしも、寒い日に冷たい水で洗濯とか辛かったし、ぜひお願いします。――でも、魔力を流さないとダメな所とか、大丈夫なんですか?」

「その辺はちょっとした調整だよ。魔石みたいに、触れればいいようにしてみるさ」
ニヒヒ、とちょっと怪しく笑って、そうだ、と一つ加える。

「リィカちゃんがやりたい事、Cランクくらいの魔物の魔石見つけたら挑戦してみなよ。それで、できるんじゃないかな」

リィカは少し目を見張る。Cランクだったら、遭遇すればきっと倒せる。
「……分かりました! やってみます」

聞いていたアレクは、あれ、と思う。
確か持ってきていたはずだ、と荷物を漁れば、やはりあった。

「リィカ、これやるから作ってみろ」
「え?」
渡されたのは、かなり大きめの魔石。

「あの時の、ライノセラスの魔石だよ。Cランクの魔石なんてそう簡単に手に入らないから、これだけ魔石の形でもらったんだよ」



魔王誕生直後に発生した、大量の魔物。
リィカたち四人は、それを倒した報酬を国からもらっていた。

ほとんどがEランクやDランクの魔物だったが、唯一いたCランクの魔物、ライノセラス
リィカがその角で貫かれそうになった所を、アレクがギリギリで助けた、その時の魔物だ。

リィカたちは後から聞いただけだが、国の方で可能な限り魔物を解体して、その肉と魔石を確保していたらしい。

食料と生活魔法用の魔石は、人々の生活にはなくてはならない代物だ。
解体した兵士たちは大変だったようだが、おかげで大量に確保できたと国王に感謝された時には、リィカは卒倒したくなった。

思い出さなくていい所まで思い出してしまって、リィカは顔をしかめた。

あの時、自分は上級魔法を連発していたのだ。
自分が倒した魔物の中で、どれだけ肉や魔石を取れるくらいに形を保っていたのか、正直怪しい。

とは思ったが、口に出せる勇気もなく、黙って報酬をもらった。
もらった報酬額を見て気を失いそうになったのも、思い出と言えば思い出だ。


リィカは、手の中の魔石を見る。
Cランクの魔石なんて、次いつ手に入るか分からない代物だ。

「……もらっていいの?」
「ああ、もちろんだ。その代わり、成功したら俺も風呂に入らせてもらうぞ」
「……うん。ありがとう、アレク」

本当に嬉しそうに笑ったリィカに、アレクは一瞬息が詰まる。
(……勘弁してくれ)
顔が赤くなるのを、抑えることができなかった。

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