上 下
82 / 619
第三章 魔道具を作ろう

魔力病の魔道具

しおりを挟む
「……どうやって?」と、リィカ。
「……なんで?」と、暁斗。

バルやユーリ、泰基も、何故、という顔をしている。
サルマは、手をフラフラ振る。

「なにも強制する気はないよ。リィカちゃんが魔法の練習してたみたいに、やることもあるだろうし。ただ、興味持ってくれてるみたいだし、どうかと思ってさ」
なおも訝しげな顔の面々に向かって、言葉を続ける。

「他にももちろん、商品の魔道具はあるけどさ。さっき言ったように開発中のものも多い。ワタシらだけだと限界があんのさ。だけど、ただ詠唱して魔法を使うしかできない連中に、魔道具は作れない。そこに、無詠唱で魔法を使うあんたらが飛び込んできたってわけだ」

「……作れないと言うことはないでしょう? 実際、魔力病の魔道具を作った神官がいるんです。作ったのは、普通の神官ですよ」
ユーリが反論するが、それに返してきたのは、フェイだった。

「残念だけど違う。元々、魔石は魔力を吸収する性質があるから、極端な話、魔石を持ってれば余分な魔力は吸収される。それだと、ただ魔石に魔力をため込むだけで、外に出されないから、その処置が必要なだけ」

あとは分かるでしょう、と言いたげに口を閉じるフェイに、ユーリは、降参とでも言うように、両手を上に上げた。


「どういうことだ?」
聞いたのはバルだが、リィカに暁斗、泰基も不思議そうな顔をしている。

「魔物を倒してそのままの魔石に、魔法を封じようとしてもできません。浄化して、魔物の名残を消さなくてはいけません。でも、完全な浄化はしません。魔力を吸収してため込む性質も、魔物だった頃の名残ですから」

魔石の研究はだいぶ昔にされていて、今の時代は、浄化を行う神官にとっては一般的な知識だ。
どれだけの日数と時間をかければ、どのくらい魔石が浄化されるのか。完全にマニュアル化されている。

浄化していって、最初に消えるのが、魔物の強い怨念とも言うべきもの。これがあるうちに、魔法を封じようとしても、弾かれてしまう。
世間に出回っている魔石は、最初の浄化がされた状態の魔石だ。

そこからさらに浄化をかけていくと、魔力をため込む性質が消えて、最後に魔力を吸収する性質が消える。そこまで消えると魔石はただの石になる。


「……んじゃあ、魔力病の魔道具って」

「出来上がるまで一週間かかったと言っていたでしょう。世間に出回っている状態の魔石から、ため込む性質が消えるまで浄化するのに、3~4日程度掛かります。そこから、おそらく問題なく作動するかの確認と、アクセサリー化する日数を含めれば、一週間程度になるでしょうね」

確かにそれなら、無詠唱など使う必要もなく作ることはできる。
魔道具ではなく、魔石だと言ってしまっても、決して間違いではないレベルの話だ。

「だったら、できるまでの一週間、何個も魔石持たせときゃ良かったんじゃねぇの?」
思わず、バルはそう言ってしまう。

魔力病で倒れた、アレクの兄である王太子の婚約者。

当時、毒殺未遂の後遺症で、婚約者の作った食事しか食べる事のできなかった王太子が、魔道具が出来上がるまでの一週間、吐きそうになりながらも他の人が作った食事を頑張って食べようとしていた。

その様子を目撃してしまったらしいアレクが、自分を責めて、暗い顔をしていたのを思い出してしまう。

「……本当にそうですよね。魔力病には魔道具が必要だ、という思い込みがありますから、誰も気付かないんでしょうね」
ユーリの頭によぎるのも、同じく、アレクの暗い顔だ。

どうやって魔道具を作っているかなど、ユーリも知らなかった。
知っていれば、婚約者の家は、公爵家だ。魔石を大量に用意するなど、簡単だっただろうに。
知らず、ため息が零れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

処理中です...