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第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

追憶―アレク④―

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ほんの少し、意識が浮上する。

まぶたが重い。体が重い。お腹の傷口が痛む。
しかし、暖かい光を感じると、痛む傷口が少し良くなった。

そしてまた、アレクの意識は沈んでいった。


 〔アレクシス〕

「うおっ!」
木からいきなり飛びかかるように襲ってきた蛇を見て、慌てて回避する。

「ヤクルスを見つけた! 気をつけろよ!」
「分かった!」
「早いですね。僕にはきついかも」


俺たち三人は現在、Dランクになっていた。

今の仕事は、ヤクルスの群れの討伐。

小さい羽が付いている蛇だが、木の色と同化しているために見つけにくい。
そして、木から飛んでくるように攻撃を仕掛けてくるのだが、動きがとても速い。

攻撃力と防御力は低いので、直撃されてもちょっと痛い程度だし、攻撃が当たれば一発で倒せる。

一匹とか二匹とかなら初心者でもどうにかできるのだが、これが十匹以上の群れとなってくると、なかなかに面倒だ。


「ユーリは、自分で結界はって防御してくれ。様子見て回復頼む」
「了解!」

俺が言っている間に、バルが一匹倒した。

俺も集中して気配を探る。目で探せない事は分かっている。
と、気配が二つ、左右同時に俺に向かっているのを感じて、剣を振るう。

手応えを感じて見てみると、ヤクルスが二体倒れていた。

「二匹同時か。やるな、シス!」
「のんびり俺の方見てると、お前の出番なくなるぞ。バル!」

お互いにニッと笑い合って、それぞれヤクルスに向き合った。
それから約30分後、ヤクルスの群れの討伐が終了した。


「全部で何匹?」
「……25だ」
「結構いたな」
回復の終わったバルが倒した数を確認している。


※ ※ ※


最近は、三人でいるこの空間が、ひどく心地良く感じて、戸惑う。

兄上は、未だに婚約者以外が作った食事を食べられずに苦しんでいる。
その兄上をおいて、楽しんでいる自分が嫌になる。

それなのに、三人でいられるこの場所を、手放すこともできないでいた。


※ ※ ※


ギルドに戻ったら、そこにはダスティン先生がいて、声を掛けられた。

「おお、お前らか。依頼帰りか?」
「はい。ヤクルスの群れの討伐」
「そりゃまた、面倒な依頼、受けたなあ……」

ダスティン先生に命を救われたことがある。
それ以来、先生も何かと気に掛けてくれるようになった。


Eランクに上がってすぐ、魔物の討伐依頼を受けようとしたらウィニーさんに怒られた。

最初はこっち、と言われたのが、比較的街の近くで取れる薬草の採取。

その二回目の依頼で、ゴブリンに襲われた。

ゴブリンは、子供くらいの大きさの、人型の魔物だ。強さはたいしたことはないが、武器を持っていることもあり、初心者の最初の関門とも言われている。


自分たちであれば、簡単に勝てると思っていた。
けれど現実にはそうはいかなかった。

初めての魔物との遭遇。初めての実践。命のやりとり。

手合わせなんかじゃない、ただこちらを殺そうとしてくるその魔物に、俺たちはすくんでしまった。

それでも、これまで訓練を続けてきた身体は動いてくれた。
俺とバルの剣も、ユーリの魔法も、ひどいものだったけれど、何とか倒すことに成功した。

ところがその直後、ゴブリンの群れが近づいてきて、今度こそ動けなくなった。
そこを通りかかって助けてくれたのが、ダスティン先生だったのだ。

「――魔物と遭遇したの、初めてか?」

声も出せず、ただうなずくだけの俺たちに、「そうか」とうなずく目は優しい。

「それでも、一匹倒したんだな。たいしたもんだ。それすらできずに死んでいく奴もいる。自信持てよ。お前らは、ちゃんと戦うことができたんだ」

俺たちの頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、

「いいか。初心者はみんな必ず通る道だ。初めての魔物との遭遇で勝ち残れるかどうか。
勝てた奴は先に進める。
 でも、たとえ生き残れても、勝てなかった奴は、それ以上魔物と戦えなくなる。――お前達は勝ち残ったんだよ。だから自信持て」

その言葉は、とても暖かかった。


そして、ダスティン先生が、今後必要となるだろう事を色々と教えてくれた。
先生と呼ぶようになったのも、この頃からだ。

この辺りにいる魔物の種類と倒し方。食べられる野草について。魔物の解体の仕方。
そして、ゴブリンとの戦い。

最初の頃は、やはり身体がすくんでしまったが、数をこなすうちに動けるようになってきた。

そして、問題なくゴブリンを倒せるようになった頃、ダスティン先生からこれで教えるのは終わりだと言われた。

それで、なんでこんな親切に教えてくれたのかを聞いてみた。

「勘だよ」
なんだそれは、と思ったら、付け加えてくれた。

「お前ら三人とも、将来はすごい奴になるんじゃないか、大成するんじゃないか、っていう、ただの勘だ。だから、面倒の一つも見てみようかと思ったんだよ」

「……は? いや、確かにバルやユーリは、将来すごい奴になると思うが」
少なくとも、俺はないだろう、と思う。

「またお前は、そういうことを言う……」
「自己評価、低いですよね……」

バルとユーリはそう言うが、俺が大成する姿って言うのは、想像ができない。

「シス、お前は本当に問題児だよ。冒険者なんて訳ありが多いし、あまり突っ込んで話を聞く気はないが……、少なくともバルとユーリの二人は信じてやれよ?」

「……分かっています」

困ったように言うダスティン先生に、そう返す。
信じていないわけではない、と思う。

「……そうか。それなら、いい」
優しく笑って、頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。

「さて、これが最後だ。いいか、怪我をするな、とは言わんが、無茶して死ぬような真似だけは絶対にするなよ。いつもギルドに来られるわけじゃないが、何かあったら頼ってこい」

みんなでうなずく。
信用できる人に出会えたのは、本当に良かったと思っている。


ついでに、先生が冒険者は副業だという話を聞いて、普段は何をしているのか、と聞いてみた。

「国立のアルカライズ学園って知ってるか? そこで教師をしている」
正直、驚いた。

「…………えっ! 先生って貴族!?」

「違う違う! 俺は平民だよ。平民クラスを受け持ってるんだ。貴族クラスなんぞ、受け持てるか。選民意識の塊の相手なんか、できるわけないだろ」

何も反論が思い浮かばない。

「副業っていうか、ストレス解消みたいなもんだな。そういうことで、学園が休みの日には、大体こっちに来てる。また会おうぜ」

それだけ言って、ダスティン先生は去っていった。
俺たちの入学の時には、間違いなくバレるだろうな、と思った。


※ ※ ※


「ヤクルス25匹かあ。結構いたわねえ……」
俺たちの報告と討伐証明部位を確認しながら、ウィニーさんがつぶやく。

「――はい。確認終了。これ、報酬ね。それにしても、ユーリ君は大丈夫だった? シス君とバル君はあっさり対応しそうだけど、君は大変だったんじゃない?」

「無理そうだったから、大人しく結界の中に隠れてました」

ユーリの答えに、ウィニーさんは、満足そうにうなずいた。

「若い子って、自信過剰に陥って無茶する子も多いけど、君たちは無理なものは無理ってちゃんと言えるから偉いね。これからも、無茶しないでがんばるんだからね」

明日は休めと言われて、素直にうなずいた俺たちだが、明日は騎士団に行って剣の稽古だ。

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