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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

9.公爵令嬢 レーナニア④

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ある日、わたくしは倒れました。
体調が何となく悪い感じはしていたのですが、まさか倒れるとは予想外でした。


「魔力病ですね」

我が家にいらっしゃった神官様にそう言われました。

側には父と、いつの間に来たのか、アーク様がいらっしゃいます。
魔力病? と首を傾げたら、神官様が説明して下さいました。


魔力病とは、簡単に言ってしまえば、持っている魔力量は多いのに、それを体の内側に、溜めておけるだけの器がない人がなる病気だそうです。

魔力というのは体の内側に溜められていて、魔法を使うときなどにそれが外側に出されます。

普通であれば、自らが持っている魔力を体に溜めておけないという事はありませんが、たまにそのバランスの悪い人がいるそうです。

自分の溜めておける容量以上の魔力を持っていると、それが体を蝕み、わたくしのように体調を悪くして倒れて、最悪死に至ることもあるそうです。


「魔力病を完治させる方法はありません。しかし、魔力が溜まりすぎてしまうのを防げば、体調の悪化は起きません。
 そのため、魔力病の患者には、魔道具を使って、常に余分な魔力を身体の外に出すようにするのです」

説明途中では、わたくしより顔色を悪くしていたアーク様と父ですが、最後まで話を聞いて、ホッとしたようでした。

わたくしは、自分自身のことなのに、アーク様が倒れたらどうしようか、とそればかり心配していました。


魔道具が出来上がるまで一週間ほど。
その間は、料理はしなくていいから、とアーク様に言われました。

これまで、わたくしが作ったものしか召し上がっていないのに、と思ったのですが、「頑張って食べる」と言われてしまえば、それ以上わたくしも何も言えませんでした。

そして、一週間たって魔道具が出来上がり、わたくしの体調も戻りました。

早速アーク様が家にいらっしゃいまして、何か作って、と言われました。

この一週間、吐き気と戦いながら、何とかスープを飲んだとか。

「やっぱり、レーナが作ってくれたものが、一番おいしい」
と言って下さって、とても嬉しいです。

近くを通りかかった兄が、アーク様を変なものを見るような目で見ていきましたが……、いくら何でも失礼だと思います。



そして、そこから更に月日は過ぎて。
毒殺未遂の事件があってから、一年近く経ちました。

少しずつ、アーク様はわたくし以外が作った食事も、食べられるようになってきました。

アーク様は、もうゲームの中のアーク様とは違うとはっきり言えます。

そして、もう一つ。

父から、戦争急進派の貴族が捕まった、と話をされました。
そして、それと共に、アーク様とアレクシス殿下の仲も戻ったようです。


兄に言わせると、二人とも以前ほどお互いに対しての執着は少なそうだ、と言っていましたが、正直疑問です。

アレクシス殿下に、親しいご友人ができたようなのですが、その方たちと仲良くしているのを見ると、途端に不機嫌になるんですよね……。

そして、用があるわけでもないのに、わざと呼び寄せて、アレクシス殿下がご友人方を放って駆け寄ってくるのを嬉しげにしているのを見ると、こう複雑でしかありません。


アレクシス殿下も、ゲームほどにアーク様に遠慮されている様子はありません。

良い方向に向かっているのですから、ここは喜ぶべきでしょう。そう思ってお二人を見ていたら、アレクシス殿下から声を掛けられました。

「邪魔してしまい、すいません、義姉あね上。すぐに俺は退散しますので」

あまりにもサラッと言われて、一瞬聞き逃しました。

――あねうえ……?

「待て、アレク。何だその……あねうえというのは」

アーク様がわたくしの代わりに突っ込んで下さいましたが……、何となく顔が赤くなっているのが分かります。

一方、アレクシス殿下は、不思議そうに顔を傾げます。

「兄上の婚約者ですから、別にそう呼んでもいいかと思ったのですが……?」
「……まだ早いだろう」

赤い顔のアーク様がそう言うのに、わたくしもコクコク頷きます。アレクシス殿下は、やはり不思議そうです。

「でも、兄上が他の女性と結婚される可能性はないでしょう? だったら、別に良いと思いますが」

その言葉に、わたくしは何となくアーク様と顔を合わせて……。アーク様のお顔は真っ赤ですが、きっとわたくしの顔も赤いです。

そして、気が付けばアレクシス殿下の、義姉上呼びは、定着してしまいました。

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