ゴミ惑星のクズ

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名前と決意

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夜が更けるにつれ、俺は眠れないままネオアーマーの光沢をぼんやりと見つめていた。
イヴは穏やかな寝息を立てているが、その顔にはどこか儚さが漂っている。

(ネオヒューマン…か。)

「…お前は一体何者なんだ。」

俺の独り言にイヴは微かに身じろぎをした。

(まるで夢に怯える子供のようだなぁ)

「…クズ?」

不意にイヴの声が聞こえた。薄く目を開けたイヴは、眠たげな表情でこちらを見ている。

「大丈夫なのか?」

「…うん。」

そう言ってまた目覚めたイヴはキョロキョロと周りを見渡し始めた
本当におかしな奴だ⋯まぁどんな暮らしをしてのか知らないが地球にいたなら珍しいのか

「なぁ、そろそろ教えろよ、お前が思い出した事を」

俺の質問に対してイヴは困ったような顔して話始めた

「分からない⋯」

全く得られない一言を

俺はモヤモヤした気持ちを何とかしようと、デカく溜息をついたらイヴにはそれが怖かったようで、不安そうに俺を見つめてきた。

(罪悪感が半端ない⋯何なんだ本当にコイツは⋯)

「悪かったよ。イヴ。気にすんな、そのうち思い出すだろうよ」

「うん⋯クズ。でも、私少しだけ分かった事がある」

「あん?分からないって言ってたろうが⋯」

「うん、私は分からない。でもあの子は何か知ってる」

「あの子?」

俺はイヴの言葉に眉をひそめた。

「誰のことだ?」

イヴは真っ直ぐとネオアーマーを指差した。

「は?」

わけがわからなかった。

「おい、イヴ。冗談言ってる暇はねぇぞ。」

イヴは真剣な眼差しで俺を見つめたまんま

「本当だよ、クズ。あのアーマーが…話しかけてくるの。」

「アーマーが…話す?」

何言ってんだ?こいつ
思わず眉をひそめる。

「おい、イヴ。お前、疲れてるんじゃねぇのか?」

「違う!ほんとだよ!今は…静かになっちゃったけど、ずっと私に語りかけてきてた。」

イヴの言葉に、俺は戸惑いながらもアーマーを見つめ直した。確かにこのネオアーマーは異常な性能を持っていた。だが、それが意思を持ってるなんて話は――

「…何を言ってたんだ?そいつは。」

イヴは少し怯えた様子で言葉を探したあと、慎重に口を開く。

「“イヴを探せ”って。」

マジで何言ってんだコイツは?
たが待てよ⋯イヴに名前をつけたのは俺だ⋯
コイツの型番をみて

もしコイツの名前が違うなら、おかしくない話か

ただややこしいな

「おい、イヴ。話は何となく分かった。お前もイヴだとややこしいから名前を変えるぞ」

俺の名案に対してイヴは首を激しく振りながら

「絶対、いや」

反論してきやがった。

「あのなぁ⋯そもそもお前の名前はイヴじゃない可能性があって、、あー、そこのネオアーマーはお前にイヴを探せってんだろ?ややこしいだろ」

「それでも⋯クズがつけてくれた」

おっと予想外の答えだ

「……お前、そんなこと気にするタイプなのか?」

俺は思わずイヴをまじまじと見つめた。

「だって……」

イヴは視線を落とし、膝の上で手をぎゅっと握りしめる。

「私にとって、この名前は……最初にクズがくれたものだから。」

そう言ったイヴの声は、かすかに震えていた。

「お、おい……」

急にこんな感傷的になられると、どう反応していいかわかんねぇじゃねぇか。

「別に大した意味はねぇよ。お前の型番から適当に取っただけだろ?」

「あの時……私には何もなかった。何も思い出せなくて、何も持ってなくて……怖かった。でも、クズが“イヴ”って呼んでくれたとき、嬉しかった」

イヴはそう言って

「だからイヤなの。“イヴ”じゃなくなるのは……絶対イヤ。」

――チクショウ。

俺は頭をかきむしった。

「わかったよ、もう好きにしろ!」

結局、俺は折れるしかなかった。

「うん⋯!」

イヴはパッと顔を輝かせた。その笑顔を見て、俺は心の中で深く溜息をついた。

こいつがイヴでいることは、俺にとっても悪くない――そう思ってしまったからだ。

だが、問題は山積みだった。

「さて……アーマーさんよ。」

俺はネオアーマーに向かってつぶやく。

「お前が探してる“イヴ”がこいつじゃないなら。お前の探すイヴは何処にいるんだ?」

すると、アーマーから急に電子音が響いた。

「おわっ!」

『認証プロセス開始。対象データ検索中……不完全データ検出。補完プロセスの継続を推奨。』

「おい、なんだよそれ!」

俺は急に喋りだしたアーマーに詰め寄ったが、返ってきたのは機械的な応答だった。

『メインシステム再起動を推奨。補完キーは“クロノス”に存在。』

そう言ってネオアーマーはまた静かになったが

「クロノス……」

俺はアーマーの機械音声が告げた言葉を反芻した。

確かにその名前には覚えがある――いや、嫌でも忘れられねぇ名前だった。

「おい、イヴ。」

「?」

イヴは俺の方を不安げに見つめている。

「クロノスって名前、何か聞いたことは?」

イヴは首を横に振った。

「わからない……」

「感謝しろよ、俺は知ってるぞ、俺だけじゃない⋯ここに住む全員な⋯」

俺はその名を呟くたびに、胃の奥が冷たくなるのを感じた。

イヴは俺の顔を覗き込み、不安げに眉を寄せている。

「クズ、それ何?」

「お前は知らなくても当然だ。」


――知ってるとも。俺は知りすぎてる。
俺はイヴに説明してやった。

クロノス。

それは、この星に住む全員が目指す場所。

【アーマーリング】
に勝ち上がった物だけが行ける。

ネオヒューマンによって与えられた、故郷へ帰る事が許された唯一の道―それがクロノスだった。

だが、そこへ行くためには、アーマーリングで勝ち上がらなければならない。

命すら賭けた戦場。

この星に残された秩序の象徴であり、同時に絶望の象徴だ

「イヴ、お前は…行くつもりか?」

俺の問いに、イヴは迷いなく頷いた。

「うん。私、自分が何者なのかを知りたい。それに…クズと一緒なら怖くない。」

こいつ⋯
何で俺が行く話になってんだ?

行けるわけないだろ

あそこから逃げた、俺が⋯

「わりぃな。イヴ。何か俺が着いていくと思ってるみたいだが⋯俺はいかねぇぞ?」

「え⋯」

「途中までは連れていってやるよ。だけども俺はただのゴミ漁りのクズ。危険な事はできねぇよ」


「……そう」

その言葉に込められた寂しさが、俺の胸を締めつけた。

だけど、それでも俺は足を踏み入れるわけにはいかなかった。

あそこは――俺のすべてを壊した場所であり
立ち入りを禁止された場所だ

「悪いな。俺には無理だ。」

もう一度、そう繰り返した。

イヴは黙ったままうつむき、か細い声で呟いた。

「…クズがいないと、私…怖いよ。」

たった一言だった。

「わりぃな⋯」

「なんだ⋯何をいじめてる。」

俺が振り返るとジジイ⋯パッチは
睨めつけるよう俺を見つめていた

「なんだよ、ジジイ。急に出てくんなよ。」

俺はバツが悪くなって、目をそらした。
ジジイは工具を突きながら、俺とイヴを順番に見た後、鼻を鳴らした。

「…お前は変わっちゃいねぇな、クズ。」

「は?」

「逃げることばっか考えて、誰かを守る覚悟なんざこれっぽっちも持っちゃいねぇ。相変わらずのヘタレだな。」

「うるせぇ!」

俺は拳を握りしめたが、ジジイはまるで気にする様子もなく、イヴのほうをじっと見つめた。

「嬢ちゃん、本当にあいつと行きたいのか?」

イヴは不安そうに俺を見上げたが、すぐに頷いた。

「うん」

その言葉に、ジジイは低く笑った。

「ほぉ、ずいぶんと信頼されてるじゃねぇか。お前にはもったいねぇくらいだな。」

「黙れって言ってんだろ!」

俺はイラつきながらジジイを睨みつけたが、ジジイは全く怯むことなく続けた。

「お前は今、生きてて楽しいのか?」

「…は?」

ジジイは溜息をついた。

「どうせこのままじゃ、お前はどのみち破滅だ。みろ。お前だろ。盛大にゴミ山で暴れた奴を治安部隊が探してる。どの道、見つかれば終わりだ。」

「なっ!?冗談じゃねぇ…!」

「アーマーリングの競技者に戻れば、治安部隊も手出しできん、お前が一番知ってるだろう」

アーマーリングの競技者になれば、あらゆる犯罪が免除される、それは犯罪を犯した人間からすれば天国だった。
だが蓋をあけてみれば、見世物としての処刑だった。

ランカー達による、蹂躙。
観客も望み、歓喜する場

かつての俺も⋯

「はん!んな事は良く知ってんだよ⋯!」

俺はそのまま皮肉混じりに笑いジジイに返してやった

「それとな負けた奴は、勝った奴との賭けを守らないといけない事もな」

俺はアーガストに負けた
そしてクズが⋯俺が輝ける場を奪われた

命は取らない。だがお前は競技者でなく。
ゴミ漁りとして生きて貰う。

飲んださ⋯負けるはずはなかった。
自分に自信があった俺が唯一輝ける場で

だが負けた。周りの落胆する目。
ゴミを漁りだして指をさされる毎日

アーガストは俺からすべてを奪った

ネオアーマーも、プライドも、未来も—すべてを。

「クズ…」

イヴの声が耳に届いた。

俺は荒れ狂う感情を無理やり抑え込み、ふっと息をつく。

「だから言ったろ?俺は競技者じゃねぇ。ただのゴミ漁りだって。」

そう言い切る俺に、ジジイは眉をひそめた。

「それで満足か?」

「満足だよ。俺にはそれがお似合いだ。」

強がりでも何でもなかった。本当にそう思っていた。

だけど——

「それなら、なんで今もネオアーマーといる?何故見捨てなかった?」

ジジイの言葉に、俺の手は無意識にアーマーの光沢を撫でていた。

——チクショウ。

「知らねぇよ。使わなきゃ死んでたから使ってるだけだ。」

「へぇ…なら、そいつが“クロノス”へ導こうとしてるのはどう説明するんだ?」

「…!」

ジジイは鋭く言葉を突き刺してくる。

「アーマーはお前をまだ見捨てちゃいねぇよ。」

「黙れ!」

俺は思わず怒鳴った。

「俺はもう二度とあんな地獄に戻りたくねぇんだよ!」

「……お前にとっては地獄でも、嬢ちゃんにとっては希望なんだろうよ。」

ジジイはイヴを見つめる。

「そうだろ?」

イヴは小さく頷いた。

「私は……自分が何者なのか知りたい。例え怖くても、戦わなきゃいけないなら、私は—」

イヴは拳をぎゅっと握った。

「私は戦う」

その言葉に、俺は目を見開いた。

「お前」

「クズ、怖いならそれでいい。戦えないならそれでもいい。でも私はクズといたい」

そう言い切ったイヴの瞳は、まるで強い炎のように揺れていた。

ジジイはそんなイヴを見て、ニヤリと笑った。

「嬢ちゃん、いい根性してるじゃねぇか。」

「うるせぇ、ジジイ。」

俺はそう吐き捨てたが、内心では何かが崩れていくのを感じていた。

逃げることしか考えなかった俺を、イヴは真正面から頼ってくる。

「チクショウ…どうせ負け犬だよ、俺は。」

自嘲しながらも、俺はネオアーマーをもう一度見つめた。

『クロノス』

そこに行けば、またあのアーガストと向き合うことになるかもしれない。

だが—

「クズ⋯」

イヴの声が俺の背中を押した。

「賭けは絶対だ⋯でもサポートはしてやれる」

俺はゆっくりと立ち上がった。

「ジジイ。整備を頼むぞ。」

「ほぉ?ようやく決心したか。」

「こいつを放ってはおけねぇ。行くだけだ。別に立ち寄るなともいわれてねぇ。サポートをするなともな」

イヴの顔がぱっと明るくなった。

「クズ!」

俺は頭をかきむしりながら

「行くぞ、イヴ。だけど覚悟しろよ。クロノスはお前が想像してるよりよっぽどヤバい場所だ。」

「うん!」

イヴは力強く頷いた。

「アーガスト…クソ野郎。」

俺は低く呟いた。

「お前に全部奪われたままじゃ終われねぇんだよ。」

イヴのために。

そして——

俺自身のために。

再び戦場の舞台に向かう決意を固めた。
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