ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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デートの準備

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頑張ろうか、と言われた後の特訓は地獄だった。
キュロはずっとベリハずっとやってれば慣れる慣れると言いながら俺に向かってその辺の枝を蔦で折り投げてくる。魔法を使う暇がなく、避けて隠れてを繰り返してはキュロに向かって一旦休憩と叫ぶ。もちろん聞き入れられることはなく、その後数十分。ランハートが様子を見に来るまでそんな地獄のような状況が続いた。

「ランハート、俺初めてお前に感謝したかもしれない」
「全く......キュロ様。それじゃ特訓の意味ないじゃないですか」

泣きながら勢いよく抱きつく。確実に死ぬ速度で眼前まで飛んできた枝を手刀で叩き折ったランハートは、魔族なのに天使に見えた。

「こういうのは修行の中で成長するのがいいんだよ。出来ないことはさせてない」
「ニオ様にもしものことがあったらどうなるか......」
「アンタにならともかく魔王様に喧嘩売るわけないじゃん。それにもしもが怒らないためにニオ様にあれが貼っついてるんでしょ」
「貼っついてる......?」

視線を追って肩に触れると、サラサラと手触りのいい手が指を擽る。
ポワポワだ。

「えっ、なんでそんなところに」
「もし枝が当たりそうなら、そのケセランパサランが安全装置になってくれるの」
「ポワポワにそんな力が?」
「ポワ......?」

名称にしているオノマトペにイマイチピンとこないのか、ポワ?と俺の手に挟まれたポワポワを凝視しながら名前を繰り返し呼んでいる。キュロは多分分からない言葉をわかるまで使わないタイプなんだろう。
そんなキュロを尻目にランハートはため息をついてポケットから手帳を取り出し何かを書き込んでいた。

「ランハート、このポ...ケセランパサランって、アルの名前以外にも機能あったのか?」
「そうですよ。安全装置、ニオ様の身に危険迫れば、その子がこう、ボーンとなって」
「爆発⁉︎」
「愛称をつけるほど大切なら安易な行動は控えてくださいね~」

ランハートが来なかったら、あの時ポワポワが身を挺して俺を守ってくれたのか。ありがたいよりやめてくれの感情が勝つ。
人は小さき命あれば守りたくなるものなんだ。父性や母性が働くからなのかは分からないが。
手の中で優しく撫でられる毛玉がもし、と考えるだけで胸が苦しくなる。守るものがまた一つ増えた瞬間だった。

「そういえばアンタ何しに来たの。俺は今日一日任されてたんだけど」
「ただの配達です。睨まずともすぐ戻りますよ」

ほらとキュロに向かって放ったのは、中に水の入った丸っこい瓶。コルク栓に何か焼印がされている、至って普通のもの。水分補給ようかなと思ったけれどどうやら違うらしい。
瓶を手に持ったままキュロが暫く唸ったかと思えば、急にハッと顔をあげる。

「魔王様から?」
「はい」
「あの人ほんとニオ様のことなんでも知ってるね......」

俺にはただアルが引かれているということしか分からなかった。
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