ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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デートの準備

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しかし聞かねば。保護者、と言うか伴侶として。
この目に見えて分かる面倒ごとに巻き込まれてしまった被害者は前にいる。彼を見ないフリなんてしたら罪悪感と植物達に押し潰されて死ぬだろう。

「キュロ、これはその。聞いたままってことでいいのか」
「そうだよ聞いたままだよ」

キュロが指をヒョイっと振ればウツボカズラの身体がゆっくり捻り、苦しそうな声を上げそのまま捻じ切れる。飛び散り霧散する胃液をキュロが気にする様子はない。毒々しい色をしていても毒はないんだろう。
とはいえ食欲は減退した。手に持っていた食べかけのサンドイッチをそっと籠に戻す。

「食べといたほうがいい。多分もたなくなるから」
「えぇ......」
「ほら食べるの」

一体何がもたなくなるのか分からないが、ここで遠慮したら話がまた進まないなと小さな一口だが口に含む。パンからほんのりミルクの優しい味。普通に美味しいんだよなフォルカの料理。ゆっくりだが咀嚼して飲み込む。
食事再開した俺を見て、食欲を減退させた張本人は鼻を鳴らし話を続けた。

「......魔王様がさっきの大作戦言い出してさ。デート自体は問題ないし、勝手にすればって話だったんだけど。場所が場所だったんだよね」

背後で畝った蔦がゆっくり土人形を持ち上げると、籠から少し離れた場所に置く。テーブルの脚からじわじわ伸びる蔓は自らその身体を伸ばし絡み編まれ世界地図になった。
東西南北の大陸には葉が重なり、海には花が咲く。小さくファンシーなのに出来は書物の挿絵とほとんど変わらない。
先ほどこんなことで驚かないでと言われたから、感銘の意は視線の熱に込めた。うん。気付いていないなこれ。

「西のダラハーナ共和国。最近色んな国に喧嘩売りまくってる国民全員戦闘狂みたいな国」
「聞いたことないな」
「あの大陸は国の数が多いし、ニオ様の国とは距離があるから。貿易も盛んってわけじゃないしね」
「へー」

西側にある大陸の国は個々が強い国が多い、らしい。城の騎士達が噂しているのを耳にしたことがある。統率が取れず国家間での争いが絶えない。そのせいか他の国からは厄介者扱いで、何が起きても手を貸すことは禁じられている。大陸の問題は大陸の中だけで解決せよ、というのは西側だけの限定ルールだ。

「そのダラハーナの名所が魔王様のお眼鏡に適ったデートスポットなんだ。一緒に行きたいんだって」
「なるほど。まぁその大作戦のことはそこまで聞かないけどさ、なんでそれでキュロが」
「ニオ様に魔法を教えるためだよ」
「......なんで?」

大作戦からどうしてそうなった。
西の国は確かに危ないけど、アルがいるなら俺が怪我することはないだろう。害が降り掛かろうものなら大陸全土更地になってもおかしくない。そんな俺の考えは顔にそのまま出ていたようで。

「言いたいことは分かる。魔王様ならニオ様に怪我をさせない。それは当たり前というか、そんなことあっちゃいけないというか。でもね、この世に完全なんてものないから、心配するわけ」
「心配?」
「そう。あり得ない、必要のない心配。例えばニオ様に傷が付く。例えば......魔王様が倒されるとか」
「アルが、倒される」

そんな発想微塵もなかった。
少なくとも人間側には時を戻す魔法を使える人間はいないし、大陸全土を更地にする魔法を防げる人間もいない。

「念には念をってこと。命令だし、最低限の防護魔術は覚えてもらうから」
「そ、れは。嬉しいというか、ありがたいんだけど」

空になった籠の中に視線を落とした。
サンドイッチから崩れた小さなパン屑達が影に隠れて見えづらい。でも、見えづらいだけでそこにある。それを指につけてぺろりと舐めた。仄かな味があるだけで俺よりずっと価値がある。何もない、出来ない俺より。
キュロだって俺に魔法を教えたくないだろう。面倒臭いだろうし何より時間の無駄だ。

「申し訳ないとかそういうの思わないでよ。仕事だから命令だからやるだけ」
「うん」
「断りもしないでね。これ魔王様の決定事項だし。ニオ様はちゃんと真面目に教えられてくれればいいの」

とっくに飲み終わって空のはずのティーカップを傾けて顔を隠したキュロに、ありがとうと返す。気遣わせてしまった。魔王城に来てからの扱いには慣れてきたけれどやっぱりどうしても自分が場違いに思えてしまう時がある。根付いたコレそう簡単に払拭されてくれないらしい。

「にしてもキュロよく引き受けたな。こういうの苦手そう」
「......聞く?」
「うー......うん。一応。今回のことは俺にも責任あるし」
「じゃあ話すけど」
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