ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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キュロに貰った手紙を片手に地下資料室から出て大図書館まで戻った俺は、司書と思わしき魔族に翻訳本を頼んだ。
魔族の言葉を早く覚えておくに越したことはない。
意外にもそう言った研究分野の本は多く、一番読みやすく近しい意味のものでしょうと選ばれた翻訳本は明らかに分厚かった。
城の図書室にあった本より二、三倍厚い。
これは骨が折れそうだと重い本を持ち上げて大図書館を出た。
外は元から暗かったが、朝と思われる時間よりも暗くなっている。まさか一階の探索でここまで時間がかかるとは。ほとんどキュロのところでゲームという娯楽に勤しんでいたせいなのだが。

「そろそろアルに会いに行こうか」

魔王の業務もひと段落しているだろう。
執務室には近付くなと言われていたが、仕事の邪魔をするなという意味だろうし、終わっていれば何も問題あるまい。

「えーっと執務室の場所は二階の?」

どこだ、と指で探していると地図の上でポワポワが小さくバウンドしていた。
キュロの部屋では闇に溶け込んでほとんど見えていなかったポワポワだが、廊下まで出てくるとすっかり景色と区別しやすくなっている。正直見えていないと少し不安になるので助かった。
ポワポワがいないと地図があっても目的の場所に帰れる自信がない。

「ありがとう、行こうか。ポワポワ」

毛玉の上側を人差し指で優しく撫でて、ポワポワの後を着いていく。
階段を登り、見覚えのある庭園を尻目に長い廊下を進んでいくと、地図上で執務室と明記された部屋の前に辿り着く。
最初は不安だったけど、ポワポワはいい案内役だ。
握りに手をかけ扉を開けようとする。が、その前に扉は開いた。
中からランハートが驚いた表情で此方を見ている。

「あ」

俺の口から声が出た瞬間に、風よりも音よりも早く扉を閉めてランハートが俺の前に立ち塞がった。
扉の向こうから一瞬アルの期待を含んだ声が聞こえたような気がしたが、そんなことを聞く間もなくランハートが笑顔で俺の頭を掴む。

「も~、執務室には近付くなって言いましたよねぇ?」
「言われた、のは、覚えてる」
「言われた時点で言われた理由を考えなかったんですか?いや普通考えなくても近付こうとは思わないでしょう?」
「あー、でも仕事とか終わってると思って」
「ニオさんが近付くと魔王様分かるんですよ。気配か何か知りませんが、この執務室の下の部屋。ニオさんがきた瞬間に魔王様なんて言ったと思います?」
「何か言ったのか?」
「えぇ。ニオが今近くにいる‼︎僕もニオのところに行きたい‼︎ですよ」

ランハートの似てない声真似に少し笑いそうになった。口元を急いで隠すが、もちろんバレた。おかげでランハートの額にある怒筋が一つ増える。

「ただでさえ多い業務をお一人で捌いている魔王様が、使えない色ボケになったらどうなると思います?」
「お前以外に口悪いよな」
「どう思います?」

怒りは止まることを知らず、頭を掴んだ手の力が増していく。
ギリギリと音を立てて絞められる頭蓋骨の悲鳴がなんとなく聞こえ始めた時、ランハートの背後の扉が音を立てて吹っ飛んだ。勿論扉ごと、だ。
柱をすり抜け、水の流れる東の庭園へ吹き飛ばされていくランハートを目で追っていくと、自分の腹に強い衝撃を受ける。
それが誰かと言えば一人しかいない。アルだ。
ところで、今扉を吹き飛ばした威力と同じ力で頭突きされたら普通の人間は耐えられると思うだろうか。
少なくとも俺は思わない。そしてもちろん耐えられない。

「ニオ~‼︎お仕事終わったよ~‼︎‼︎‼︎」

ランハートと同じように俺の身体は吹っ飛んでいく。
キュロから渡された紙も風に吹かれて飛んでいってしまった。見事なスライディングで表紙をガリガリと削っていく本に血の気が引いていく。借り物なのに。
肋骨が何本折れているのか、俺には想像できないがこの宙に浮いた身体の激痛から想像しても、骨は一二本やっていそうだ。
走馬灯のような記憶と共に、俺は意識を失う。
もしまた目覚めることができたなら、アルに、人間が魔族と比べてどれだけ肉体が弱いのか教えないといけないな......。
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