ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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「俺はニオ、ニオ・ムーンヴィスト。聞いてない?」
「ムーンヴィスト......北の国の王族がなんで魔王城にいるの」

警戒されている。
他の魔物達は俺のことを知っていたのに、どうしてこの人だけ知らないんだろう。情報がここまで伝わってないのか。来る途中誰の気配も感じなかったし頻繁に出入りしている者が少ないのはなんとなく分かる。

「えっと、この度というか昨日、お宅の魔王様と結婚しまして」
「は?」

結婚したという実感があまりないせいか、自分で改めて言うとなんだか小っ恥ずかしい。そもそも式もまだだし、口頭でしか婚姻を結んでいない。

「......あー、そういえば朝なんか来たような来てないような...」

壁を這っていた蔦が床を滑りそこらじゅうに散らばった紙やファイルを持ち上げる。まだ外と比べると暗い室内で、慣れたように一枚一枚チェックしていた。

「これじゃない。んーいつのだろ。だいぶ前のだなー、いいや後で覚えてたらやろ」

それはやらない常套句だ。
普通に蔦を操っているけど、そういう魔族か。なんだろう。読んだ本にあったかな、と脳内で検索をかけているうちにお目当ての紙を見つけたようだ。真面目な顔で俺の読めない文字をスラスラ読んでいる。

「魔王様、そっか結婚したんだ。へー」

目の前の青年は読み終えた紙をパッと放り投げて足を抱え、ソファに座り直した。

「奥方様こっち来てこっち」

隣をポンポン叩いていたので、言われた通り横に座る。青年はこっちに目もくれず、黒い塊を拾ってまたカチカチという音を立てる。目の前の箱からは聞き慣れない音楽と共に目に響くような映像。黙っていても話が進まないような気がしたので話しかける。

「キュロさん、ですよね」
「そうだけど......なんで敬語。奥方様なんでしょ。呼び捨てでいいよ」
「よかった。俺頼まれたもの渡しに来ただけなんだ」

ほらこれ、と魔獣達に頼まれた紙を渡す。けれど受け取ってもらえない。キュロの視線は全て目の前の色鮮やかな箱に釘付けだ。こんな暗い部屋でこんな明るい光景見てたら目に悪いのではないのか。

「な、なぁキュロ。これは何してるんだ」
「ゲーム。魔王様に頼んで別世界の娯楽を取り寄せてもらってるの」
「ゲームって、この箱の?」
「そう。別世界の人間が作ったゲーム。面白いよね。俺あんまり人間好きじゃないんだけど、こういうところだけは尊敬してもいいと思うよ」

黒い塊を少し掲げて、これがコントローラー。黒い箱を差してこれがテレビ、と知らない単語を並べられる。
城のどこにもなかった見たことがない道具を前に、俺の好奇心は爆上がりだ。頼まれた紙をすっかり忘れてゲーム、の画面?にすっかり執心してしまった。

「あ、そうだ」

何かを思いついたのか、キュロの服の中から蔦が生えてソファの足辺りを弄り始める。しばらくするとキュロがコントローラーと呼んでいた黒い塊を渡される。

「......」
「どうしたの」

顔を向けていないのに俺が困惑していたことにどう気付いたのか。目線はあいも変わらずゲーム画面なキュロが話しかけてきた。

「さっきも今も蔦が動いて」
「......俺はアルラウネ。だからこうやって蔦伸ばせる。擬態も得意だからパッと見奥方様と変わらない人間でしょ」
「そうだな」
「これ出来るの、魔王城でも凄い方なんだよ。はい、それ奥方様のコントローラー」

一緒にやろう。
ゲーム画面にはいつの間にかキュロのキャラと似たような表記にされているキャラがもう一人存在していた。

「一緒に?俺やり方全然分からないけど」
「大丈夫。教える」

上ボタン下ボタン十字キーアールエル......エービーシーデーコマンド右斜下から右上までスティックを倒して......。
一度では覚えきれない量の注文をそのままこなしていると、実感しないうちに何か凄い技が出来た。
ゲーム画面が派手になる度にすごいすごいとキュロは感情のあまりこもってないような声で褒めてくれる。手元は忙しなく動いているし、ずっと真顔のままだし、全然目も合わないけどなんとなくこういうヤツなんだなと納得できた。
しばらくすると大きな蝙蝠の翼を持った敵と思しきキャラが出てきた。キュロは慣れたように、俺は出来るだけ役に立てるようにと動かしているうちに見たことない文字が浮かんで消えて一番最初の画面に戻る。

「ゲームクリア~ていってもまだ一面のボスだけど」

コントローラーを離したキュロが足を抱えたままソファに倒れる。
先程の真面目な顔からは想像出来ないほど緩やかな表情をしていた。緊張が解れたんだろう。それだけ集中してたんだ。

「いちめん?」
「最初の雑魚。そんな強くない」
「そ、そうなのか」
「うん」

俺としては一番強いと言われても驚かないのだけど、キュロからすれば軽い掃除のようなものだったのだろう。
つまらなかったんじゃないか、楽しんでいたのは俺だけか。
少し申し訳ないなとコントローラーを置いた時、腕に細い蔦が絡んできた。

「でも誰かとするの久しぶり。......はあんまり一緒にやってくれないし......楽しかった。ここに近付いてくる人いないから」

嬉しそうに髪を弄ったキュロの周りには沢山の蔦が蠢いている。

「一人プレイもいいけど、二人プレイもやっぱいい。もしよかったらまた遊びに来てよ奥方様」
「いいのか」
「別に......俺仕事ほとんどないようなものだから。いつも暇、してる」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらう。あ、俺のことはニオでいいよ」
「ニオ、様」

打ち解けたと思ったら深くフードを深く被ってしまった。
けれどこちらを嫌っているわけではないのは分かる。
初めて知った娯楽は魅力的で、それを教えてくれた新しい友も無愛想ながら優しい。
魔族はやっぱり読んでいたあの物語の中より、悪いやつじゃないのかもしれない。



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