美醜逆転獣世界

ノラ

文字の大きさ
上 下
24 / 31

24

しおりを挟む


「ルーちゃん! クーちゃん!」


 邸に帰ると母の声が聞こえ、振り向くと駆け寄って来る姿が見えた。


「フィちゃんは!?」


 いきおいよく腕の中で眠り続けるフィーリィーの顔を覗き込む。規則正しい寝息を確認すると母が安堵の息をついた。


「母上。フィが目を覚まさないのです」


「クーちゃん」


 耳と尻尾を垂らし、不安そうなアレクの頭を母が優しく撫でた。


「使いの者の手紙で事情をきいたわ。顔色も悪くないし、初めての外出にフィちゃんは疲れて眠っているだけよ。ルーちゃんもクーちゃんもお疲れ様。お帰りなさい」


 優しい笑顔で言われたアレクはホッとした表情に変わった。


「アレク、フィーリィーを頼む」


 ソッと寝ている弟を抱き渡す。スヤスヤ寝ている愛らしい姿は和む。


「母上、出迎えありがとうございます。父上はいますか」


「執務室にいるわ。ルーちゃんを待ってるみたい。フィちゃんは任せて!」


 寝てる時しか触れる事が出来ないフィーリィーを、父と母はそれでも溺愛している。


 服を毎日選び、隠れて着ている姿を見て微笑んでいる。家族全員がフィーリィーを愛している。


 大切な弟。絶対に傷付かないように守る。


 「父上、ただいま帰りました」


 執務室の扉をノックし、中を開けると書類仕事をしていた父が顔を上げた。


「お帰り、リカルド」


 感情をあまり出さない父だが家族を人一倍大切に思っているのを知っている。


 報告をするために、テーブルを挟んでソファに座る。父の執事が紅茶を置くと一息ついて話を切り出す。


「視察は問題ありませんでした。町の補助金の申請を受理して頂きたく思います」


「あぁ、分かった」


 一冊のスケッチブックを父に渡す。他にもアレクに聞いた話をまとめた書面も差し出す。


 前日、使いに簡略したフィーリィーの考案を書いた手紙を届けさせていた。


「これがフィーリィーが提案した物です。町長にはこちらで製作して祭り前に届ける旨を言い渡しておきました」


 ページをめくり一つ一つ確認している父が思案顔であごを撫でる。


「リカルド、我が領地は他領に売るほどの名産品はなかった。だがこのオモチャは他領や王都でも人気が出るだろう。質と価格を分けて量産すれば、我が領地はオモチャの生産地になる」


 売り出せば必ず人気が出る。


「大々的に我が¨アース¨領で売るのですね。フィを守るため」


「祭りは他領から来る者もいます。考案したのは誰かと噂になる前にアース領地での新しい産業とするのですね」


「あぁ、フィーリィーが望む避難所も領民のためになるだろう」


 子供も大人も逃げ込める場所。


「法を犯し捕縛した者の中には、養父母から逃げた孤児院出身の者や、家族や伴侶から逃げ、やむを得ず身を落とした者もいます」


「避難所は各村にも作ろう。後は孤児院」


 フィーリィーが作ったプリンは美味しかった。五歳のフィでも作れて材料費も安い。


「私が食べたのは一つでしたが、アレクの話では他にも種類があるみたいです。領主で雇い賃金を払うより、売上の一部を納めてもらう方が孤児院の利益になると思います」


「頼れる家族がいない者により多くの支援と利益に異論はない。だが」


 腕を組み、真剣な表情をする父。


「フィーリィーの手作りお菓子を食べたお前たちはズルい」


 心底、羨ましそうにする父に母も同じかそれ以上に責めてくるだろうと思う。


「調理室の使用許可を下さるならフィに頼みます」


 即答で許すと言われた。


「まずは試作品を製作してフィーリィーに確認して貰います。祭りまで3ヶ月、それまでに軌道にのせます」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!

ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。 弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。 後にBLに発展します。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...