上 下
53 / 58
その世界に降臨する者

050・護る者の為に

しおりを挟む
~魔王城~

ジャスたちが魔王城に帰還すると、先に帰還していた悪魔や使い魔たちが周囲を取り囲む。
そのまま、傷ついたロロノアとマダム・オカミを治療の為に、どこか別の場所へと連れて行ってしまった。
ノーサは、マダム・オカミの治療の為 そのままついていってしまった。


心配そうにハンの帰りを待つジャスに、使い魔のノブナガが声をかけてきた。


「ジャスさん、世界樹の植樹が無事に完了しそうだニャン。
 あとは、マリー様が目覚めてくれるのを待つだけニャン。
 ・
 ・
 ・
 ジャスさんには、マリー様の側にいてほしいニャン。」



「・・・はい。
 ノブナガさん、もし指標玉の場所へ転送しようと思ったらすぐにできますか。」

「うーん、魔力の充電が終わるまでは出来ないニャン。」

「魔力の充電・・・。
 どのくらいの時間がかかるんですか。」

「ざっと計算で10分から20分くらいかニャン。」


「20分・・・。
 ノブナガさん、魔力の充電を開始してもらってもいいですか?」

「ん?
 忘れ物かニャン?
 ・
 ・
 ・
 とにかく、任されたニャン。」

「ありがとうございます。」


ノブナガに精一杯の笑顔でお礼を言うと、ジャスはマリーの寝室へと急いだ。
マリーの寝室に着いたジャスは、不安から暗い表情をしている自分に気付き、再び精一杯の笑顔で部屋へと入る。
ジャスは マリーの横に座ると、マリーの手を優しく握り声をかける。


「マリーさん、朝ですよー。」


「・・・。」


しかし、マリーからの返事はない。


「マリーさん、早く起きないと魔界も天界も大変な事になっちゃいますよ。
 もう、ロロノアさんも、マダム・オカミさんも、もしかするとハンさんも・・・。
 マリーさん、ごめんなさい、わたし・・・。」

ジャスの目からは涙がこぼれている。
どうすればいいのか、どうした方がいいのか、自分が何をしたいのか、何をすればいいのか。
いろいろな不安がジャスを襲う。
そんなジャスの手を、無意識のマリーの手が弱々しくも、しっかりと握り返してきた。


ジャスは、マリーから勇気をもらったのだろうか、涙をぬぐうとニッコリと笑顔を見せ、マリーに再び声をかける。


「きっとマリーさんが目を覚ました時は、みんなで笑顔で迎えてあげますからね。
 約束ですから、楽しみに待ってて下さいね。」


ジャスは眠っているマリーの手を強く握ると、額に優しくキスをする。

「マリーさん、行ってきます。」


ジャスは部屋を飛び出し、転送の間へと駆けだした。
(ハンさん、待っててください。)






一方そのころ、天界では、狂気の天使ベルゼブイと対峙する蒼き狼ジョチ(ハン)の姿があった。

ジョチは並みの魔王より強い肉体や魔力を有しているのだが、その力は大魔王ロロノアや魔王マダム・オカミと比べると遥かに見劣りする。
だが、ジョチは懸命にベルゼブイに喰らいついていた。

しかし、そんなジョチ(ハン)も深く傷つき、いまにも倒れそうな状態であった。
倒れるほどの致命傷を受けながらも、何度も何度も立ち向かってくるジョチに、ベルゼブイは怒りの表情を見せている。

「くっ!
 うるさいイヌコロが!」


ベルゼブイの放った炎を寸前で躱すジョチだが、そのまま飛びかかってきたベルゼブイの一撃を無防備の腹部に受けてしまう。

ドン!


弾き飛ばされたジョチは、変身が解け、使い魔ハンの姿へと戻る。
倒れこむハンの方へとゆっくりと進みながら、ベルゼブイは気味の悪い笑い声をこらえながら、近寄ってくる。


「ぐふ、ぐふ、ぐふふ、おろかな。
 使い魔風情が、進化の秘宝を使い 強化されたぐらいで勝てるとでも思ったのか。」


「勝てるとか勝てないとか、そんなこと考えてないッス。
 俺は、お前を倒すことだけ考えてるッス。」


「くだらん。
 それほどの微小な魔力で、神である我に歯向かうなど笑止千万!」

「お前は、神様でもなんでもないッス。
 俺の大切な人を傷つけた、最低最悪クソ野郎ッス!」


ベルゼブイは、倒れこむハンを掴みあげると気味の悪い笑い顔を近づけてくる。

「ほれ、憎いなら殴り掛かってこい。」

使い魔ハンを挑発するように、ベルゼブイは顔を近づけてくる。
そんなベルゼブイの横っ面に、ハンは全身の力を込めて こぶしをふるう。


ぺち。
ぺち。


「ぐふふ、どうした。もう野良犬に変化する力も残っておらんのか。」

「はぁ・・はぁ・・・。」


息をするのも苦しそうなほど、生命力を消耗しているハンの瞳に何かを見たベルゼブイは、ハンをジッと見つめる。
ハンの瞳の中に何をみたのだろうか。
ベルゼブイは 笑うのを止め、真剣な面持ちで ハンに問いかける。


「その瞳の紋章は!?」


ハンは目を閉じ、顔をベルゼブイから背ける。
ベルゼブイは 左手でハンの頭を掴み、右手で瞼をこじ開け ハンの瞳の奥に刻まれる契約の紋章を再度みつめなおす。
ベルゼブイの胸の鼓動が、異常なほどに強く早くなっているのが、ハンにも伝わってくる。

ベルゼブイの見つめる先、ハンの瞳に映し出されたもの・・・。
それは、中央に瞳の描かれた三角形の背後に 天使の羽が描かれた紋章。
そう、マリーとの契約の紋章であった。


「その紋様。
 古より古文書に描かれておる、神々の紋章ピラファスなのか。
 いや、エイルシッドの紋章にも似ておる。
 ・
 ・
 ・
 貴様の契約者、エイルシッドの関係者なのか!?
 ・
 ・
 ・
 まてよ!
 そういえば、この前の小娘。
 ・
 ・
 ・
 奴に奪われた魔王城の主。
 ・
 ・
 ・
 人間と同じ容姿をしている魔王。
 ・
 ・
 ・
 魔界の民でありながら、天使の涙の秘密を・・・天界の秘密を知る者。
 ・
 ・
 ・
 ま!
 まさか!!!」


みるみると、ベルゼブイの表情から余裕が消えていく。

「その紋章!
 エイルシッドの子。
 ・
 ・
 ・
 あの小娘がエイルシッドの子だと言うのか!」


ハンは無言のまま力を溜めている。
マリーの秘密を知られた以上、何が何でもベルゼブイを止めなければならないと感じたからだ。


「ぐふ、ぐふふ、エイルシッドの娘の力を取り込めば、わしに怖いものはなくなる!
 先手必勝で 小娘の力も取り込んでくれるわ!」

「そうは、させないッス!」



ハンは ベルゼブイの手の中で、魔界の風を纏い 再び 蒼き狼ジョチへと姿を変える。
そのまま蒼き狼ジョチは、ベルゼブイの手を振りほどき、臨戦態勢を取る。

「無駄だ!
 貴様が どう足掻こうと、わしには勝てぬ。」

(わかってるッス。このままでは絶対に勝てないッス。
 なら、俺にできる最後の・・・。)


「どうした、勝てぬと分かっているから襲ってこれぬのか。
 なら、こちらから行くぞ!」

ベルゼブイが格下のジョチ目掛けて一直線に攻撃を繰り出してきた。


「アオオォォォォン!!!」


ジョチの遠吠えに、大気が呼応する。


ベルゼブイは いままでにない行動パターンに躊躇したのだろうか、一瞬だけ動きが止まってしまう。
もしかすると、ハンの瞳に マリーの紋章を見てしまったから、本能的に警戒したのかも知れない。
躊躇した理由は分からないが、その一瞬の隙をつき、ジョチは自身の体に転生の光をまとった。


「くっ!
 まさか、進化の秘宝を使用したまま転生しようというのか!?
 さ、させるか!!!」

ベルゼブイは、転生の光に包まれるジョチを攻撃しようと試みるが、その攻撃によるダメージは全て転生の光により消滅させられてしまう。


「くそが!
 まだ神々を超えるには力が足りんというのか!」


ベルゼブイは、成すすべがなくなり、ハンを纏う転生の光が収まるのを待つ。
時間にすれば ほんの数秒程度なのだが、そのわずかな時間にベルゼブイは魔力を高め、エイルシッドの炎を召喚し始める。

「ぐふふ、奴の炎も馴染んできたわい。」

ハンを・・・蒼き狼ジョチを纏っていた転生の光が消え去ると同時に、ベルゼブイは召喚していた炎でジョチを攻撃する。
ベルゼブイの手から放たれた炎は、一直線にジョチに向かって全てを飲み込むように周囲を焼き尽くしながら襲い掛かる。

ジョチは、炎の軌道を見定め、余裕をもって回避する。
ベルゼブイから放たれた炎は、ジョチのいた場所を蒸発させ、不発のまま消えてしまった。

「回避に特化しおったか!」

ジョチの動きは、残像さえも残らぬほどに早く、ベルゼブイはジョチの動きを一切把握できずにいた。
ただ、不気味なまでに壁や地面を蹴る音が響き渡る。

回避に専念するジョチを捉えることができないベルゼブイは 焦りにも似た怒りの表情を見せる。


「くそ!くそ!くそ!」


ベルゼブイの放つ炎は一撃でジョチに致命傷を与えるほどの威力だが、ジョチに当たることはない。
ジョチが接近してくれば、攻撃があたる可能性も増えるのだろうが、冷静なジョチは一定の距離を保ったまま 接近してくることはないようだ。
そんなジョチに対し、ベルゼブイの怒りが増していき攻撃が乱雑になっていく。



→51へ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇女なのに婚約破棄されること15回!最強魔力でほのぼのスローライフしてる場合でもないのですが?

三矢さくら
ファンタジー
西の帝国の第2皇女アルマ・ヴァロリアは皇女なのに15回もの婚約破棄を喰らった。というのも、婚約破棄した男たちが次々に出世するものだから、それ狙いの求婚が後を絶たないのだ。 大魔導師でもあるアルマは愛のない求婚に嫌気がさして、帝都を離れ北の流刑地で暮らし始める。 面倒臭がり屋でチョロい皇女アルマの辺境スローライフコメディ。 *サクッと読めます。 *キャラ紹介ではAI生成の挿絵を使っています。

【完結】婚約解消したら消されます。王家の秘密を知る王太子の婚約者は生き残る道を模索する

金峯蓮華
恋愛
 いっそ王太子妃が職業ならいいのに。 殿下は好きな人と結婚するとして、その相手が王太子妃としての仕事ができないのなら私が代わりにそれをする。  そうだなぁ、殿下の思い人は国母様とかって名前で呼ばれればいいんじゃないの。   閨事を頑張って子供を産む役目をすればいいんじゃないかしら?  王太子妃、王妃が仕事なら殿下と結婚しなくてもいいしね。  小さい頃から王太子の婚約者だったエルフリーデはある日、王太子のカールハインツから好きな人がいると打ち明けられる。殿下と結婚しないのは構わないが知りすぎた私は絶対消されちゃうわ。 さぁ、どうするエルフリーデ! 架空の異世界のとある国のお話です。 ファンタジーなので細かいことは気にせず、おおらかな気持ちでお読みいただけると嬉しいです。 ヒーローがなかなか登場しません。すみません。

28【完結】父と兄が居なくなり、私一人、、、助けてくれたのは好きな人

華蓮
恋愛
父と兄が当然この世からいなくなった。 どうしたらいいかわからなかったけど、 私の大好きな人が、結婚してくれて、伯爵を継ぐことになった。 大好きな人と一緒に過ごせるカルリーナは、幸せだった。 だけど、、、、

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

【魔界の第七皇子は、平穏に暮らしたい!】〜気になるあのひとは、魔族殲滅を望む復讐者でした〜

柚月 なぎ
BL
◆◇◆◇ 紅藍玉(ホンランユー)は魔界の王、魔王の第七皇子だが、幼い頃からなにをさせても標準以下の才能しかなく、武術も剣術も魔力も何もかもが底辺という、魔界中が知る " 落ちこぼれ " であった。 しかし、ある出来事をきっかけに、それが王位継承争いに関わらないようにするために、わざと実力を隠していたのだということがバレてしまう。 紅藍玉の本当の実力を知った魔王は、懸念していた通り、王位継承の「第一位」として、本人の意志など関係なく、第七皇子の名を連ねてしまう。当然それには皇子や権力者たちが反発し、訴えを起こす始末。 魔王は、ならば、と魔王候補の三人の皇子たちにある試練を与えるのだが、藍玉(ランユー)はそもそも王になる気もなければ、他の皇子たちと争う気もないため、その日の内に、魔界から姿を消すのだった。 そんな " 落ちこぼれ " 皇子の護衛であり、従者でもある碧雲(ビーユン)と翠雪(ツェイシュエ)は、呆れつつも、まったくブレない思想の主を尊敬しつつも心配し、人界について行くことを決める。 かくして、三人は魔界を離れ、人界へと身を置くことになるのだが、町に着いて早々、お金がないという現実的な問題に直面する。そんな中、とある商家の当主と偶然出会い、彼の息子が原因不明の病で床に伏せっていることを相談される。 しかし連れて行かれた立派な邸には先客がおり、それが有名な門派の道士であること知るのだった。 名を白暁狼(バイシャオラン)。彼は将来有望と謳われていた道士のひとりであったが、今は門派を破門され、野良道士として各地を旅して回っていた。 数年前、妖魔に弟を殺されたその復讐心から、妖魔や鬼に対して容赦がなく、その行き過ぎた行動が、彼の破門に繋がったらしい。 本当の名を隠し「紅玉(ホンユー)」と名乗った紅藍玉は、一緒に行動する白暁狼に対して後ろめたさを感じつつも、彼が垣間見せる優しさに惹かれ始める。 魔族であることを隠し、人として生き、人のために生きることを決めた魔界の元皇子と、復讐のために生き、魔族を殺すためだけに生きる青年の、物語。 けして交わるはずのなかったふたつの運命が、今、交差する――――。 ◆◇◆◇ ※マークが付いているものは、暴力的、性的描写を想像させるような表現がありますので、苦手な方は注意。 ※この作品は、『カクヨム』にて公開中の作品です。『小説家になろう』にも掲載中。 お気に入り登録、よろしくお願いします!

【完結】出て行ってください! 午前0時 なぜか王太子に起こされる

ユユ
恋愛
えっと……呪いですか? うちに関係ありませんよね? は? 私が掛ける訳がないじゃないですか。 っていうか、迷惑だから出て行ってください。 ある日突然 午前0時に王太子殿下が 私の部屋に現れるようになった話。 いや、本当 他所に行ってください! * 作り話です。  * 大人表現は少しあり、R指定ほどは無し。 * 完結保証あり。

処理中です...