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ニートのち魔界王
030・ニートなNEETの秘密の仕事
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~魔王城~
魔界王エイルシッドが魔王城を制圧してから、1週間が経とうとしていた。
しかし、いまだ広大な魔王城の中にいるのは、魔界王エイルシッドと 4匹の使い魔たちだけであった。
魔界王エイルシッドは、そのもてる能力を存分に発揮し・・・。
「エイルシッド王、そんなところで寝てたら風邪を引くニャン。
せめて寝室を使ってほしいニャン。」
「あ、うん。」
使い魔のポチに注意されているエイルシッドは、一日中 王座の間にある 王座の前の床にゴロゴロと横になりながら、手のひらに召喚した炎を眺めて過ごしている。
何度注意しても 気にすることなくゴロゴロとしているので、使い魔たちも 気にしなくなっているだろう。
ポチは一言だけ注意すると、エイルシッドの周囲を掃除し始めた。
そんなポチに、エイルシッドが声をかける。
「なあ、ケーン。」
「・・・俺はポチニャン。」
「ポチ、いま俺は何をしてるんだろう?」
「床にゴロゴロしながら、炎をいじってるニャン。」
「何のために?」
「さあ?
俺に聞かれても分からないニャン。」
「困ったな。」
「何が困ったのかニャン?」
「何をすればいいのか、まったく分からない。」
「・・・仕方がないニャン。
普通の悪魔は、魔王になる為に、長い年月をかけて修行して勉強して負けない自信がついてから魔王を名乗るものだニャン。
エイルシッド王は 途中のイベントを全部無視して、スタート直後にゴールしちゃったニャン。」
「それでか・・・。
よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにポチが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、定位置に寝ころんで、手のひらに召喚した炎を眺めていた。
そんなエイルシッドに、ケーンが 昼食の乗ったお膳を持ってくる。
「エイルシッド王、昼食の時間だニャン。」
「おっ、イベント発生!
わくわくするな!」
「・・・悲しい主様なんだニャン。」
昼食を食べるエイルシッドの背後に見慣れない剣を見つけたケーンが声をかける。
「エイルシッド王、その後ろにおいてある刀は、どうしたのかニャン?」
「ああ、もらったんだ。
そんなことよりも、このスープめちゃくちゃ旨いな!」
「ああ、俺の国の料理で味噌汁って言うニャン。
故郷の味が懐かしくなったときに食べるように、こっそり作っておいたニャン。」
「こっそりじゃなくって、たくさん作ったらいいじゃん。」
「そうニャンね。
エイルシッド王が喜んでくれるんなら、大々的に作り始めるニャン。」
エイルシッドは 昼食を終えると、再び立ち上がった。
「よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにケーンが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、再び定位置に寝ころび、手のひらに召喚した炎を眺めていた。
そんなエイルシッドに、エンマが 貢物の品を持ってくる。
「エイルシッド王、領土内に住む部族長からの献上品ニャン。」
「おっ、イベント発生!
って言うか、献上品・・・?」
「なんでも守ってくれた礼とか言ってたニャン。
おそらく今後とも仲良くしてもらいたいって意味の賄賂だと思うニャン。
貰えるものだし貰っておいて損はないと思うニャン。」
「・・・それもそうだな、貰えるものは貰っておくか。
エイルシッドは、献上品の品をエンマと一緒に確認する。
「ポチ、これは何かな?」
「・・・俺はエンマニャン。
これは、焼き菓子の一種で せんべいって言うニャン。」
ボリボリ、ボリボリ。
「・・・エイルシッド王、いきなり献上品を食べるのは危険ニャン。
元忍びの俺がいうのもなんだけど、献上品は毒を盛られてる危険性もあるニャン。
まず、俺らで毒見をしてからにするニャン。」
「大丈夫だろ。歯ごたえがあって美味いな。
癖になる爽快感だな。」
ボリボリ、ボリボリ。
ボリボリ、ボリボリ。
ボリボリ、ボリボリ。
「よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにエンマが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、やはり定位置に寝ころんでいた。
その手の中には、やはり召喚した炎があり、それを眺めていた。
そんなエイルシッドに、モモが 御揃いの座布団を持ってくる。
「エイルシッド様!
モモは 御揃いの座布団を編んできましたニャン!」
「おっ、イベント発生!
その座布団って、布団の仲間かな?」
モモの持ってきた座布団は全部で4つあった。
エイルシッドは座布団を受け取り不思議そうに見つめる。
「これの使い方は・・・?」
「これは、床に置いて その上に座るものニャン。
4つあるのは、エイルシッド様、ディーテ様、マリー様、最後はモモの分と家族みんなで使えるように準備したからですニャン。」
「おおお!
さすがモモ!
気が利くな。」
「褒めてもらえて光栄ですニャン。」
モモは、エイルシッドの背後においてある財宝が気になったようで、エイルシッドに質問する。
「エイルシッド様、その後ろにおいてある財宝は、どうしたのですかニャン?」
「ああ、もらったんだ。
そんなことよりも、この座布団いいな!
尻が痛くない!」
「ああああ、素晴らしい笑顔!
喜んでいただいて、モモは最高潮の幸福を迎えてますニャン!」
「よし!」
「エイルシッド様、お出かけになるのですかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにモモが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・モモも ご一緒させていただきますニャン。」
エイルシッドは、モモを連れて魔王城を出る。
「エイルシッド様、どこまで用をたしに行くんですかニャン?」
「次は 死人の沼地だな。
どうやら助けを求める者がいるみたいだ。」
エイルシッドは、飛ぶことのできないモモを抱きかかえると、2対の竜の翼を力強く羽ばたかせ、死人の沼地の方へと舞い上がった。
(はぁぁぁ、エイルシッド様に抱きかかえられるなんて至福の極みニャン!)
~死人の沼地~
死人の沼地は、底なしの沼が点在する広大な毒の沼地であり、この毒沼に住む生物は皆無と言われている。
エイルシッドが、死人の沼地にある枯れた倒木の上に降り立つと、そこには他の領土から逃げ出してきたのだろうか、一匹の使い魔がいた。
使い魔はエイルシッドの姿を見ると、怯えた表情を見せる。
「ひぃぃぃ!
申し訳ないニャン。
もう逃げないニャン。
だから、だから、許してほしいニャン。」
怯える使い魔に、モモが声をかける。
「怯えることはないニャン。
エイルシッド様は使い魔に優しいニャン。」
「ほ、ほんとうなのかニャン?」
「困ってるんなら助けよう。
それが人ってもんだ。」
「お、俺は困ってるニャン。
助けてほしいニャン。
俺は 沼地の主、魔王ビッチバックに使えてたけど、逃げ出してきたニャン。
あいつは、使い魔たちを消滅させて楽しんでるニャン。
俺が最後の生き残りニャン。
もし見つかれば・・・。」
「使い魔ちゃん、見ぃつけた!」
「ひぃぃぃ!」
使い魔の背後から、巨大なワニのような悪魔が顔を見せる。
体のほとんどを沼地の中に沈めているため、種族は分からないが、おそらく竜王種か合獣種だろう。
沼地の主、魔王ビッチバックは、エイルシッドを見つけると、エイルシッドに声をかけてきた。
「ゲヘヘ、おい小僧、お前の持っている使い魔を置いていけ、そうすれば命だけは助けてやってもいいぞ。」
「おい、お前が魔王ビッチバックなのか?」
「ゲヘヘ、なんだ、俺様も有名になってきたのか?
俺様が誰なのか分かってるなら、さっさと使い魔を置いていけ!
俺様は、あの大魔王ベルゼブイも一目置いている魔王なんだぜ!」
「・・・ベルゼブイが!?」
「ああ、お前みたいな頭の悪そうな悪魔でも、最強の大魔王ベルゼブイは知ってるだろ。
ゲヘッ、ゲヘッ、ゲヘヘッ。」
「そうか・・・。
なあ、ベルゼブイは何処に行ったか知ってるか?」
「はぁ?
何言ってやがるんだ!
大魔王ベルゼブイは魔王城に住んでるにんだから、魔王城にいるに決まってるだろ!」
「そうなのか・・・。
いや、どれだけ探しても姿が見えないんだよ。
前に会ったときから1週間も経つのに。」
「お前、大魔王ベルゼブイの配下なのか!!?」
「いや違う。
俺は俺、魔界王エイルシッドだ。」
エイルシッドの言葉に、魔王ビッチバックは安心した表情を見せる。
どうやら大魔王ベルゼブイの配下に手を出せば、自分がどうなるか心得ているのだろう。
魔王ビッチバックは、エイルシッドの事を単独行動するバカな悪魔だと感じたのか、エイルシッドを脅すように強気に発言する。
「おい、小僧!
そこの使い魔どもを置いていけ、そうすれば命だけは助け・・・。」
「断る。」
「はぁ!?
俺をなめてるのか!
俺は、死人の沼地の主、魔王ビッチバック様だぞ!」
即答するエイルシッドに魔王ビッチバックは、怒りの表情を見せ、さらに強気に暴言をはく。
「いいか 小僧!
俺様は泣く子も黙る 魔王ビッチバック様だぞ!
お前だって聞いたことがあるだろ、近隣の村々で子供たちが生贄になってるのを!
あいつらは 俺様に怯え、生贄として差し出すことを選んでんだよ!」
「お前・・・。
子供を食ってるのか・・・。」
「だから何なんだよ。
子供の肉はうめーぞ。
柔らかくて、栄養たっぷりで。
お前を ぶっ殺したら、また村に・・・。」
エイルシッドは、使い魔たちを炎の障壁で包み込む。
そのエイルシッドの表情は、殺気に満ちていて どんな悪魔よりも恐ろしく、一度見れば生涯 忘れることができない表情だった。
魔王ビッチバックは、殺気を感じ取り、恐怖に侵されていく。
「ま、待ってくれよ。
お、おい、俺が何かしたのかよ!」
「ああ、守るべき存在である・・・。
大人が命を懸けて守らないといけない、子供たちを食った。」
「じょ、冗談じゃないぜ、俺だって生きるために・・・。」
「生きるために子供を食うしかないんなら死ぬしかないな。」
「もう子供は食わないよ、なあ、頼むよ、おい、助けてくれよ!」
「お前は、命乞いする子供を助けたか?
もてあそばれ、殺されていく使い魔を助けたか?
・
・
・
子供を食うべきじゃなかったな。
お前はここで死に逝く運命だ。」
エイルシッドの体が激しく燃え上がると、周囲の沼が一気に蒸発し、干上がっていく。
「あ、あ、あ、」
魔王ビッチバックは、息をすることができなくなっているようだ。
なぜなら、エイルシッドを包み込むように燃え上がる炎は、周囲の空気さえも全て燃焼していたからだ。
その熱は、沼地の水さえも 燃えているかのような高温に達していた。
「死んで償え。」
エイルシッドは、干上がった沼地だった場所に埋もれるように立ち尽くす 魔王ビッチバックの横っ面に拳をめり込ませる。
魔王ビッチバックは、その一撃で粉砕し消え去ってしまった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅ。」
エイルシッドは 怒りを鎮め、周囲の炎と熱気を操り、自身の体内に納めていく。
周囲から完全に熱気が消え去ったのを確認し、使い魔たちの炎の障壁を解除する。
底なし沼の点在する毒の沼地は、一瞬の間に、荒野へと生まれ変わっていた。
その沼だった地層は、エイルシッドから放たれた熱で焼き固められ、地中奥深くまで続く強固な岩盤へと変化していた。
エイルシッドは、逃げてきた使い魔に声をかける。
「さあ、帰るとするかな。
・・・ところで、名前は?」
「俺は使い魔なんだニャン。
名前なんて・・・。」
「モモは、モモという名前があるニャン。
使い魔だからってエイルシッド様は差別しないニャン。」
そんな使い魔に、モモは 胸元の桃の印を自慢げに見せびらかしながら声をかけた。
自分は、エイルシッドの お気に入りと言わんばかりだ。
「お、俺はネロ。
ネロっていうニャン。
魔王エイルシッド様、これからも 宜しくお願いしますニャン。」
「ネロ。
・
・
・
語尾もニャンだし、ネコみたいで覚えやすいな。」
「モ、モモも エイルシッド様のネコになるニャン!」
エイルシッドは 意味が分かっていないのだろう。
モモに笑顔を見せ、その場をごまかす。
ネロに嫉妬したモモが、エイルシッドとネロの割って入り、ネロに声をかける。
「ネロ、エイルシッド様の事は、エイルシッド王と呼ぶニャン。
エイルシッド王は、魔王ではなく、魔界王ニャン。
あと、エイルシッド王は、モモ以外の名前を間違えることが多いけど、気にすることはないニャン。
それが運命ニャン!」
使い魔たち、モモとネロは、エイルシッドに抱きかかえれ、魔王城へと帰還する。
~魔王城・王座の間~
エイルシッドは、魔王城に帰還すると、いつものように定位置に寝ころんだ。
そんなエイルシッドの元に、半透明の見慣れない使い魔と、それを追いかけるようにして、モモたちが駆け込んでくる。
「エイルシッド!
貴様に復讐してやるニャン!」
「おっ、イベント発生!
・・・って、誰だっけ?」
「我が名は、元大魔王ベルゼブイ!
貴様に殺された恨みをはらしに戻って来たニャン!」
「・・・ベルゼブイ・・・死んでたのか。」
「き、貴様!
何を言ってるのかニャン!」
「と、いうことは・・・。」
「「「と、いうことは・・・?」」」
「俺が魔王城の主、魔界王!
エイルシッドだーーーー!」
興奮するエイルシッドを横目に使い魔たちがコソコソと話し始める。
「・・・ヒソヒソ。」
(まさか、エイルシッド王は、ベルゼブイを倒した自覚がなかったのかニャン?)
(それで、王座に座らずに床で待ってたのかもしれないニャン。)
(ありえるニャン。ほら、いま王座に座り始めたニャン。)
(エイルシッド王は、変わってるニャンね。)
「エイルシッド様!
やはり至高のあなた様には、王座が似合いますニャン!
その王座に、モモの座布団を敷いて使ってくださいニャン!」
「もちろん!座布団は快適だからな!
よーし、さっそく魔界王として命令を出しちゃうぞー!」
「「「りょ、了解ニャン!」」」
(あああああ、
愛しのエイルシッド様から命令される幸せ!
魔界の使い魔に転生できて、モモは幸せです!)
→031へ
「貴様ら!
元大魔王のベルゼブイ様を無視するなニャーン!」
魔界王エイルシッドが魔王城を制圧してから、1週間が経とうとしていた。
しかし、いまだ広大な魔王城の中にいるのは、魔界王エイルシッドと 4匹の使い魔たちだけであった。
魔界王エイルシッドは、そのもてる能力を存分に発揮し・・・。
「エイルシッド王、そんなところで寝てたら風邪を引くニャン。
せめて寝室を使ってほしいニャン。」
「あ、うん。」
使い魔のポチに注意されているエイルシッドは、一日中 王座の間にある 王座の前の床にゴロゴロと横になりながら、手のひらに召喚した炎を眺めて過ごしている。
何度注意しても 気にすることなくゴロゴロとしているので、使い魔たちも 気にしなくなっているだろう。
ポチは一言だけ注意すると、エイルシッドの周囲を掃除し始めた。
そんなポチに、エイルシッドが声をかける。
「なあ、ケーン。」
「・・・俺はポチニャン。」
「ポチ、いま俺は何をしてるんだろう?」
「床にゴロゴロしながら、炎をいじってるニャン。」
「何のために?」
「さあ?
俺に聞かれても分からないニャン。」
「困ったな。」
「何が困ったのかニャン?」
「何をすればいいのか、まったく分からない。」
「・・・仕方がないニャン。
普通の悪魔は、魔王になる為に、長い年月をかけて修行して勉強して負けない自信がついてから魔王を名乗るものだニャン。
エイルシッド王は 途中のイベントを全部無視して、スタート直後にゴールしちゃったニャン。」
「それでか・・・。
よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにポチが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、定位置に寝ころんで、手のひらに召喚した炎を眺めていた。
そんなエイルシッドに、ケーンが 昼食の乗ったお膳を持ってくる。
「エイルシッド王、昼食の時間だニャン。」
「おっ、イベント発生!
わくわくするな!」
「・・・悲しい主様なんだニャン。」
昼食を食べるエイルシッドの背後に見慣れない剣を見つけたケーンが声をかける。
「エイルシッド王、その後ろにおいてある刀は、どうしたのかニャン?」
「ああ、もらったんだ。
そんなことよりも、このスープめちゃくちゃ旨いな!」
「ああ、俺の国の料理で味噌汁って言うニャン。
故郷の味が懐かしくなったときに食べるように、こっそり作っておいたニャン。」
「こっそりじゃなくって、たくさん作ったらいいじゃん。」
「そうニャンね。
エイルシッド王が喜んでくれるんなら、大々的に作り始めるニャン。」
エイルシッドは 昼食を終えると、再び立ち上がった。
「よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにケーンが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、再び定位置に寝ころび、手のひらに召喚した炎を眺めていた。
そんなエイルシッドに、エンマが 貢物の品を持ってくる。
「エイルシッド王、領土内に住む部族長からの献上品ニャン。」
「おっ、イベント発生!
って言うか、献上品・・・?」
「なんでも守ってくれた礼とか言ってたニャン。
おそらく今後とも仲良くしてもらいたいって意味の賄賂だと思うニャン。
貰えるものだし貰っておいて損はないと思うニャン。」
「・・・それもそうだな、貰えるものは貰っておくか。
エイルシッドは、献上品の品をエンマと一緒に確認する。
「ポチ、これは何かな?」
「・・・俺はエンマニャン。
これは、焼き菓子の一種で せんべいって言うニャン。」
ボリボリ、ボリボリ。
「・・・エイルシッド王、いきなり献上品を食べるのは危険ニャン。
元忍びの俺がいうのもなんだけど、献上品は毒を盛られてる危険性もあるニャン。
まず、俺らで毒見をしてからにするニャン。」
「大丈夫だろ。歯ごたえがあって美味いな。
癖になる爽快感だな。」
ボリボリ、ボリボリ。
ボリボリ、ボリボリ。
ボリボリ、ボリボリ。
「よし!」
「どこかに出かけるのかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにエンマが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・もう好きにしてくれニャン。」
~2時間後~
エイルシッドは、やはり定位置に寝ころんでいた。
その手の中には、やはり召喚した炎があり、それを眺めていた。
そんなエイルシッドに、モモが 御揃いの座布団を持ってくる。
「エイルシッド様!
モモは 御揃いの座布団を編んできましたニャン!」
「おっ、イベント発生!
その座布団って、布団の仲間かな?」
モモの持ってきた座布団は全部で4つあった。
エイルシッドは座布団を受け取り不思議そうに見つめる。
「これの使い方は・・・?」
「これは、床に置いて その上に座るものニャン。
4つあるのは、エイルシッド様、ディーテ様、マリー様、最後はモモの分と家族みんなで使えるように準備したからですニャン。」
「おおお!
さすがモモ!
気が利くな。」
「褒めてもらえて光栄ですニャン。」
モモは、エイルシッドの背後においてある財宝が気になったようで、エイルシッドに質問する。
「エイルシッド様、その後ろにおいてある財宝は、どうしたのですかニャン?」
「ああ、もらったんだ。
そんなことよりも、この座布団いいな!
尻が痛くない!」
「ああああ、素晴らしい笑顔!
喜んでいただいて、モモは最高潮の幸福を迎えてますニャン!」
「よし!」
「エイルシッド様、お出かけになるのですかニャン?」
ふと立ち上がったエイルシッドにモモが声をかける。
「ああ、便所に行ってくる。」
「・・・モモも ご一緒させていただきますニャン。」
エイルシッドは、モモを連れて魔王城を出る。
「エイルシッド様、どこまで用をたしに行くんですかニャン?」
「次は 死人の沼地だな。
どうやら助けを求める者がいるみたいだ。」
エイルシッドは、飛ぶことのできないモモを抱きかかえると、2対の竜の翼を力強く羽ばたかせ、死人の沼地の方へと舞い上がった。
(はぁぁぁ、エイルシッド様に抱きかかえられるなんて至福の極みニャン!)
~死人の沼地~
死人の沼地は、底なしの沼が点在する広大な毒の沼地であり、この毒沼に住む生物は皆無と言われている。
エイルシッドが、死人の沼地にある枯れた倒木の上に降り立つと、そこには他の領土から逃げ出してきたのだろうか、一匹の使い魔がいた。
使い魔はエイルシッドの姿を見ると、怯えた表情を見せる。
「ひぃぃぃ!
申し訳ないニャン。
もう逃げないニャン。
だから、だから、許してほしいニャン。」
怯える使い魔に、モモが声をかける。
「怯えることはないニャン。
エイルシッド様は使い魔に優しいニャン。」
「ほ、ほんとうなのかニャン?」
「困ってるんなら助けよう。
それが人ってもんだ。」
「お、俺は困ってるニャン。
助けてほしいニャン。
俺は 沼地の主、魔王ビッチバックに使えてたけど、逃げ出してきたニャン。
あいつは、使い魔たちを消滅させて楽しんでるニャン。
俺が最後の生き残りニャン。
もし見つかれば・・・。」
「使い魔ちゃん、見ぃつけた!」
「ひぃぃぃ!」
使い魔の背後から、巨大なワニのような悪魔が顔を見せる。
体のほとんどを沼地の中に沈めているため、種族は分からないが、おそらく竜王種か合獣種だろう。
沼地の主、魔王ビッチバックは、エイルシッドを見つけると、エイルシッドに声をかけてきた。
「ゲヘヘ、おい小僧、お前の持っている使い魔を置いていけ、そうすれば命だけは助けてやってもいいぞ。」
「おい、お前が魔王ビッチバックなのか?」
「ゲヘヘ、なんだ、俺様も有名になってきたのか?
俺様が誰なのか分かってるなら、さっさと使い魔を置いていけ!
俺様は、あの大魔王ベルゼブイも一目置いている魔王なんだぜ!」
「・・・ベルゼブイが!?」
「ああ、お前みたいな頭の悪そうな悪魔でも、最強の大魔王ベルゼブイは知ってるだろ。
ゲヘッ、ゲヘッ、ゲヘヘッ。」
「そうか・・・。
なあ、ベルゼブイは何処に行ったか知ってるか?」
「はぁ?
何言ってやがるんだ!
大魔王ベルゼブイは魔王城に住んでるにんだから、魔王城にいるに決まってるだろ!」
「そうなのか・・・。
いや、どれだけ探しても姿が見えないんだよ。
前に会ったときから1週間も経つのに。」
「お前、大魔王ベルゼブイの配下なのか!!?」
「いや違う。
俺は俺、魔界王エイルシッドだ。」
エイルシッドの言葉に、魔王ビッチバックは安心した表情を見せる。
どうやら大魔王ベルゼブイの配下に手を出せば、自分がどうなるか心得ているのだろう。
魔王ビッチバックは、エイルシッドの事を単独行動するバカな悪魔だと感じたのか、エイルシッドを脅すように強気に発言する。
「おい、小僧!
そこの使い魔どもを置いていけ、そうすれば命だけは助け・・・。」
「断る。」
「はぁ!?
俺をなめてるのか!
俺は、死人の沼地の主、魔王ビッチバック様だぞ!」
即答するエイルシッドに魔王ビッチバックは、怒りの表情を見せ、さらに強気に暴言をはく。
「いいか 小僧!
俺様は泣く子も黙る 魔王ビッチバック様だぞ!
お前だって聞いたことがあるだろ、近隣の村々で子供たちが生贄になってるのを!
あいつらは 俺様に怯え、生贄として差し出すことを選んでんだよ!」
「お前・・・。
子供を食ってるのか・・・。」
「だから何なんだよ。
子供の肉はうめーぞ。
柔らかくて、栄養たっぷりで。
お前を ぶっ殺したら、また村に・・・。」
エイルシッドは、使い魔たちを炎の障壁で包み込む。
そのエイルシッドの表情は、殺気に満ちていて どんな悪魔よりも恐ろしく、一度見れば生涯 忘れることができない表情だった。
魔王ビッチバックは、殺気を感じ取り、恐怖に侵されていく。
「ま、待ってくれよ。
お、おい、俺が何かしたのかよ!」
「ああ、守るべき存在である・・・。
大人が命を懸けて守らないといけない、子供たちを食った。」
「じょ、冗談じゃないぜ、俺だって生きるために・・・。」
「生きるために子供を食うしかないんなら死ぬしかないな。」
「もう子供は食わないよ、なあ、頼むよ、おい、助けてくれよ!」
「お前は、命乞いする子供を助けたか?
もてあそばれ、殺されていく使い魔を助けたか?
・
・
・
子供を食うべきじゃなかったな。
お前はここで死に逝く運命だ。」
エイルシッドの体が激しく燃え上がると、周囲の沼が一気に蒸発し、干上がっていく。
「あ、あ、あ、」
魔王ビッチバックは、息をすることができなくなっているようだ。
なぜなら、エイルシッドを包み込むように燃え上がる炎は、周囲の空気さえも全て燃焼していたからだ。
その熱は、沼地の水さえも 燃えているかのような高温に達していた。
「死んで償え。」
エイルシッドは、干上がった沼地だった場所に埋もれるように立ち尽くす 魔王ビッチバックの横っ面に拳をめり込ませる。
魔王ビッチバックは、その一撃で粉砕し消え去ってしまった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅ。」
エイルシッドは 怒りを鎮め、周囲の炎と熱気を操り、自身の体内に納めていく。
周囲から完全に熱気が消え去ったのを確認し、使い魔たちの炎の障壁を解除する。
底なし沼の点在する毒の沼地は、一瞬の間に、荒野へと生まれ変わっていた。
その沼だった地層は、エイルシッドから放たれた熱で焼き固められ、地中奥深くまで続く強固な岩盤へと変化していた。
エイルシッドは、逃げてきた使い魔に声をかける。
「さあ、帰るとするかな。
・・・ところで、名前は?」
「俺は使い魔なんだニャン。
名前なんて・・・。」
「モモは、モモという名前があるニャン。
使い魔だからってエイルシッド様は差別しないニャン。」
そんな使い魔に、モモは 胸元の桃の印を自慢げに見せびらかしながら声をかけた。
自分は、エイルシッドの お気に入りと言わんばかりだ。
「お、俺はネロ。
ネロっていうニャン。
魔王エイルシッド様、これからも 宜しくお願いしますニャン。」
「ネロ。
・
・
・
語尾もニャンだし、ネコみたいで覚えやすいな。」
「モ、モモも エイルシッド様のネコになるニャン!」
エイルシッドは 意味が分かっていないのだろう。
モモに笑顔を見せ、その場をごまかす。
ネロに嫉妬したモモが、エイルシッドとネロの割って入り、ネロに声をかける。
「ネロ、エイルシッド様の事は、エイルシッド王と呼ぶニャン。
エイルシッド王は、魔王ではなく、魔界王ニャン。
あと、エイルシッド王は、モモ以外の名前を間違えることが多いけど、気にすることはないニャン。
それが運命ニャン!」
使い魔たち、モモとネロは、エイルシッドに抱きかかえれ、魔王城へと帰還する。
~魔王城・王座の間~
エイルシッドは、魔王城に帰還すると、いつものように定位置に寝ころんだ。
そんなエイルシッドの元に、半透明の見慣れない使い魔と、それを追いかけるようにして、モモたちが駆け込んでくる。
「エイルシッド!
貴様に復讐してやるニャン!」
「おっ、イベント発生!
・・・って、誰だっけ?」
「我が名は、元大魔王ベルゼブイ!
貴様に殺された恨みをはらしに戻って来たニャン!」
「・・・ベルゼブイ・・・死んでたのか。」
「き、貴様!
何を言ってるのかニャン!」
「と、いうことは・・・。」
「「「と、いうことは・・・?」」」
「俺が魔王城の主、魔界王!
エイルシッドだーーーー!」
興奮するエイルシッドを横目に使い魔たちがコソコソと話し始める。
「・・・ヒソヒソ。」
(まさか、エイルシッド王は、ベルゼブイを倒した自覚がなかったのかニャン?)
(それで、王座に座らずに床で待ってたのかもしれないニャン。)
(ありえるニャン。ほら、いま王座に座り始めたニャン。)
(エイルシッド王は、変わってるニャンね。)
「エイルシッド様!
やはり至高のあなた様には、王座が似合いますニャン!
その王座に、モモの座布団を敷いて使ってくださいニャン!」
「もちろん!座布団は快適だからな!
よーし、さっそく魔界王として命令を出しちゃうぞー!」
「「「りょ、了解ニャン!」」」
(あああああ、
愛しのエイルシッド様から命令される幸せ!
魔界の使い魔に転生できて、モモは幸せです!)
→031へ
「貴様ら!
元大魔王のベルゼブイ様を無視するなニャーン!」
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