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銀河系地球人
028・その歩みが止まるとき
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~死人の荒野~
司令艦が墜落し、その残骸から人間たちは死者の遺体を回収していく。
司令艦に乗っていた乗組員の生存は絶望的であった。
暗い表情の人間たちを少しでも元気づけようと、ジャスは笑顔を振りまく。
本当は、エリーゼの一件もあり、辛く悲しい気持ちだったのだが、生き残った人間たちの前で自分だけ悲しい表情はできない。
ジャスは そう感じていたのだ。
そんなジャスに人間の老人が声をかけてきた。
「天使様、これから我々はどうなるのでしょうか。」
「そうですね。この地に住むのはどうでしょうか。」
「しかし・・・。」
「何か問題でもありましたか?」
「わしら人間も しっかりと大地に足を着け、草木のように根を張るがごとく永住できる場所を探していたのは事実です。
ただ、わしらは支配者である魔王マリー様に反旗を翻しております。
いくら上層部からの命令とはいえ、何も自分たちで考えることもせずに行動に起こしたのは間違いであったと痛感しております。」
もし許されることがないのであれば、母艦や司令艦を捨て、戦艦のみで広大な宇宙を彷徨わなければならなくなってしまう。
もしそうなれば、食料や水の問題。他の艦との連携作戦の問題など、多くの問題を抱えることになる。
たとえ、無事に天魔界を抜け出たとしても、人間たちは 長く生きることはできないだろう。
そんな話をしていると、周囲の人間たちもジャスの周りに集まっていた。
ジャスの回答次第では、覚悟を決め、すぐに逃げ出さなければならない状況であったからだ。
人間たちの 不安が極限に達している。
もしジャスの回答が、
人間を追放すべき・・・。
人間は滅びるべき・・・。
人間と戦争になる・・・。
人間に報復措置を・・・。
人間たちは悪い想像を働かせていく。
そんな極限の不安の中、ジャスが優しい表情を見せ、答えを出す。
「マリーさんは、そんな人じゃありませんよ。
きっと皆さんを導いてくれます。」
「し、しかし、途中で心変わりしてしまったら・・・。」
「そうですね。
皆さんが心変わりをしなければ大丈夫です。
実は 悪魔って あまり嘘をつかないんです。
それに寿命も長いですから、人間の皆さんが何世代も世代交代をしても ずっとマリーさんの統治下にあるはずですよ。
ここにいる全員が天寿をまっとうしても、マリーさんの寿命からすれば、人間の感覚で数週間程度の些細なことですからね。」
人間たちの不安を和らげようと、ジャスは楽しそうに話をする。
「もし、それでも不安なら、私が直接 マリーさんに聞いてきてあげますよ。
これから人間の町を 住みやすい町にする方法を。」
「本当ですか!?」
「はい。もちろん。
ちなみに、魔界天使も嘘をつきませんから。」
人間たちから不安の表情が和らいでいく。
それは、ジャスの優しさが不安を取り除いてくれたからだろう。
ジャスたちは、人間たちに周囲の片づけを任せ、魔王城へと引き返していった。
~魔王城・正門前~
ジャスや ハン、魔王城の戦士たちが魔王城に帰ってくると、使い魔たちが忙しそうに走り回っていた。
そんな走り回っている使い魔にハンが声をかける。
「何かあったッスか?」
「あっ、ハン!
ちょうどよかったニャン。
マリー様が祝福の儀を行ってるニャン。」
「それで準備に走り回ってるッスね。
マリー様なら、そうすると思ってたッス。」
「ハンさん、祝福の儀って何ですか?」
「祝福の儀っていうのは 名前のとおり 祝福を与える儀式なんスけど、魔界では裏切者には死の制裁を与えるって知ってるッスか?」
「あ、はい。
それは知ってますけど、結局、使い魔として生まれ変わるから、あまり意味がないですよね。」
「ジャスさん、その認識が間違いッス。
魔界で主を裏切って死んでしまった場合や、他の悪魔に魂を食べられた場合は、使い魔となって生まれ変われないッス。
・・・消滅してしまうってことッス。」
「なるほど・・・。
ん?
そうすると、宇宙戦艦の乗組員は、どうなるんですかね。
人間だから免除されるとかでしょうか?」
「免除されるとかはないと思うッス、けど実際には 前例がないから分からないッス。
だから、マリー様は祝福の儀を行ってるッス。
祝福の儀をすることで祝福される。ようするに、裏切って命を落とした者を許してあげるって儀式ッス。」
「なるほど。
最後は やっぱり助けてあげるんですよね。
マリーさんらしくって素敵ですね。」
ジャスは、マリーの計らいに 少し笑顔を取り戻す。
人間たちに見せた作られた笑顔ではなく、心の底からの美しい笑顔だった。
そんなジャスに、使い魔のネロが駆け寄ってきて声をかけた。
「ジャスさん、いい笑顔ニャンね。
ところで、ジャスさんには 暗黒のリッチのところに行ってほしいニャン。」
「暗黒のリッチさんのところですか?」
「そうニャン。
マリー様からの命令を聞いているみたいニャン。
ハンも ジャスさんと一緒に行くニャン。」
「分かったッス。」
ジャスと ハンは、暗黒のリッチの執務室に向かった。
暗黒のリッチの執務室に入ると、部屋の中には、暗黒のリッチだけではなく、ドン・キホーテ、ナオアキ、ノーサも待っていた。
部屋に入ったジャスに、嬉しそうに暗黒のリッチが駆け寄ってきた。
「ジャス様、おめでとうございます。」
「リッチさん、いったいどうしたんですか?」
「マリー様から、ジャス様への任務を承っております。
ジャス様には、今後 マリー様と同等に近い権限を与えられます。
そして、その権限を使い、地球人種の住む区域を・・・町を作り上げる任務が与えられました。」
「私がですか?
・
・
・
いえいえいえ、私よりハンさんたちの方が適任だと思いますよ!」
「そんなことないッス。
俺はマリー様のサポートや 魔王城の管理があるから町づくりは無理ッス。
それに、ジャスさんは 人間たちに人気があるッス、適任だと思うッス。
マリー様の英断ッス。それに、さっきのやり取りも素晴らしかったッス。」
ハンの言葉に、笑顔のノーサも後押しする。
「ジャス、引き受けた方がいいに決まってるの。
それに ジャスが引き受けてくれたら、私もジャスのサポートとして魔王の仕事を勉強できるの。
ちょっとくらい失敗して 人間が絶滅したとしても、マリーなら許してくれそうなの。」
「ノーサさん、絶滅とかさせませんよ!」
ジャスの返事に、ノーサが声を出して笑う。
ジャスもノーサにつられて笑ってしまう。
そんな2人に、ドン・キホーテが声をかけてきた。
「ジャス様、わしとナオアキ殿が、ジャス様の作る町の護衛を任されましたゾイ。
もし、ジャス様の作る町が争いに巻き込まれようものなら、わしらで敵を成敗するので、安心してもらいたいのですゾイ。」
「俺も 専用の飛竜を貰ったニャン。
これで、どこにでもお使いに行けるニャン!
だけど、エン横に行くときは、マリー様も一緒に連れて行くニャン!
・・・エン横は魔界でも有数な危険スポットだったニャン。」
ナオアキは、エン横での事件がトラウマになっているようだった・・・。
「・・・で、でも。」
なかなか首を縦に振らないジャスに、ハンが声をかける。
「ジャスさん、俺が人間を保護する為、死人の荒野に行く前に マリー様は言ってたッス。
もし、ジャスさんが マリー様の元に来たときは、いままでと変わらずにマリー様が全てを管理し支配する。
だけど、ジャスさんが マリー様の元に来ず、残された人間を救う為に行動したときは、ジャスさんに人間の町を任せる。
マリー様は ジャスさんに人間の町を任せたいって言ってたッス。」
「私にできるかな・・・。」
「大丈夫ッス!
それに、町づくりって言っても、人間は寿命が短く何世代にも渡り作ったり壊したりを繰り返しているッス。
悪魔以上に ノウハウがあるッス。
ほっといても、自分たちで快適で立派な町を作り上げる技術があるッス。
人間の町づくりで、一番大事なのは、人間たちの弱い心を管理してあげることッス。
たぶん、ジャスさんが一番得意な分野なはずッス。」
「・
・
・
はい!
それなら、私でも出来そうです!」
「ジャスさん、まずは人間の所に領主として 挨拶にいって、戻ってきてからマリー様に報告すればいいッス。
戻ってくる頃には、祝福の儀も終わってると思うッス。」
「それなら、俺の飛竜に乗って、全員で挨拶しに行くニャン!」
こうして、領主に任命されたジャスと その一行は、2頭の小型の飛竜に分かれて乗り、死人の荒野へと移動していった。
~死人の荒野~
ジャスたちの乗った飛竜たちが舞い降りると、周囲に人だかりができた。
人間たちは、心配そうにジャスを見つめている。
ジャスは、人間たちを集め、人間たちの耳によく聞こえる 透き通った声で話を始めた。
「えーと、さっきの件ですけど、私が人間の町の領主に任命されちゃいました。
これから一緒に町を作り上げていきましょう。」
ジャスがそれだけ話すと、人間たちは互いに抱き合って喜んでいる。
そんな人間たちに、ジャスは領地を守るドン・キホーテやナオアキの紹介をして、魔界で生きていくために覚えておかなければならない5つの重大事項を説明し始めた。
1つ、主君への裏切りは死の制裁が与えられ、消滅してしまうこと。
2つ、使い魔に転生してしまった場合、魔王城を目指してほしいこと。また魔王城で従事すること。
3つ、万が一、悪魔に絡まれた場合は、魔王マリーの配下と名乗ること。自ら悪魔を挑発しないこと。
4つ、悪魔は嘘をつかないが、答えを歪曲し解釈する為、悪魔と契約、約束をしないこと。
5つ、人間の住む区画を超えて出ていかないこと。出る場合は自己責任になること。
以上の重大事項を説明し終えると、人間から質問が上がり始める。
その様子を見ていたハンが、最後に付け加える。
「俺も元人間だったから質問したいのは分かるッスけど、あまり質問をしても意味がないッス。
決定事項は決定事項ッス。悪魔はバカバカしく生きているッスから気分次第で回答が変わるッス。それが悪魔のルールッス。
それに、知っててもらいたいのは、人間の武器程度では悪魔に傷をつけることも出来ないッス。」
パン!
パン!
パン!
バババババババ!
ハンは、そういうと拾ってきた拳銃とマシンガンでノーサを撃った。
集まった人間は、驚きの表情を隠せない。
それは・・・。
「なに?
ハン、いま何をしたの?
なにか豆みたいのが、たくさん飛んできたんだけど・・・。」
「ノーサさん、申し訳ないッス。
いまのが人間の武器ッス。」
「人間って可愛いと思うの。
豆を飛ばしあって決着をつけてるの?」
「違うッス。人間はアレで死ぬッス。
俺らより紙装甲ッスから。」
「・・・繊細なのね。
人間の扱いは、思ったより面倒なの。」
人間は まったく無傷のノーサに言葉を失う。
そんな人間に、ハンは続けて言う。
「悪魔は不死身ではないッス。
でも、人間が悪魔に攻撃を加える手段はないッス。
先の戦争でも、魔王ドランサー・・・ドラゴンの悪魔の配下は 人間の攻撃では誰も死んでないッス。
死んでしまった悪魔は 翼を撃たれ、バランスを崩して落下してしまったからッス。これが事実ッス。
人間の死は無駄死にだったッス。
そんな弱い人間を守る為の5つの重大事項ッスから、必ず守るようにするッス。」
「ちょ、ちょっとハンさん、言いすぎですよ。
無駄死にだなんて・・・。」
「でも最初に知っておく必要があるッス。
これが力の違いッス。これを知らなければ、他国の悪魔に襲われて抵抗し、皆殺しに合うッス。」
ハンの言葉に、人間たちが暗い表情になる。
そんな人間たちにドン・キホーテが声をかける。
「大丈夫ですゾイ。
わしは、人間でありながら、鍛錬をし魔王ドラニコフを倒しました。
人間は鍛錬を積めば強くなれる生き物ですゾイ。
まあ、悪魔たちは人間に興味があまりないので、こちらから仕掛けなければ安心ですゾイ。」
「そうだニャン。
悪魔は見た目で判断しないんだニャン。
マリー様も人間と同じ姿だけど、誰も気にしてないニャン。」
「そうよね。
マダム・オカミの施設でも、魔界に迷い込んできた人間が働いてたの。
まだ80年しか生きてないって笑いながら言ってたのに、しわくちゃだったから覚えてるの。」
(高齢者の労働・・・可愛そうニャン。)
暗い表情の人間に対し、悪魔たちは明るく楽しそうである。
そんな違いを感じていた人間に、ノーサが言う。
「魔界で生きるんなら、地球人種の人間も悪魔と同じなの。
人間は、ちょっと弱すぎるだけ。
悪魔なら もっとバカバカしく生きればいいの。」
「「「バカバカしく・・・。」」」
「そう、バカバカしく。
人間の寿命は300年くらいってマリーから聞いてるの。
そんな短い人生なら、なおさらバカバカしく生きないと損すると思うの。」
(・・・人間は100年も生きないニャン)
「そうですね。ノーサさんの言う通りですよ。
この何もない荒地を 魔界で一番素晴らしい町にしてみませんか?
水路を引いて、花を植えたり、食物を育てたり、人間の技術でしか作れない物を作って商売をするのも楽しいかもしれませんよ。
これから楽しい未来が待ってるんですから!
楽しく、バカバカしく、元気よく!
みんなで協力して未来につながる町を作りましょう!」
「・・・そ、それもそうですよね。」
「くよくよしたって、変わらないし・・・。」
「バカバカしく・・・。」
「なんだか楽しそうよね。」
ノーサやジャスの意見に人間たちが賛同し始める。
そんな中、一人の負傷兵が声をあげる。
「そうだ、やろう!
魔王マリー様、領主ジャス様が驚くほどの町を作り上げよう!
そうすることで、死んでいった仲間たちも、これから生まれてくる子供たちも、みんなが誇れるような町を作り上げよう!」
人間たちは希望が見えたのか、いままでの不安な表情から一変し、その表情は明るく変わっていた。
ジャスとノーサは、人間たちに当面の住居を構えるように指示し、マリーの待つ魔王城へと引き返すことにした。
ハンが操縦する飛竜に乗り込み、空へと飛び立つ。
「ドン・キホーテさん、町の護衛をお願いしておきます!」
「ジャス様、任されましたゾイ!」
「行ってらっしゃいニャーン!」
こうして、3人は魔王城を目指したのだが、ジャスが ある異変に気付く。
「あの、ハンさん。」
「んっ、忘れ物でもしたッスか?」
「いえ、あそこ見てください。」
ジャスは 魔王城の先、世界樹の丘の方向を指さす。
その方向の上空には、空の亀裂が入っていた。
「空の亀裂・・・。
またベルゼブイが攻めてきたッスかね。
こりない奴ッス!」
「違います!
樹が・・・。
世界樹が無くなってます!」
ジャスの言葉に、ハンは世界樹を確認する。
世界樹は、ジャスの言葉通り、切り取られていて、その姿を消し去っていた・・・。
「不味いことになったッス。
ジャスさん、ノーサさん、急いで魔王城に帰還するッス!」
ハンは、動揺しているのか、飛竜を急かすように飛ばし魔王城に帰還する。
魔王城に着いたハンは、飛竜の手綱を投げ出し、場内へと駆けこんでいった。
そんなハンの様子に不安を感じたジャスとノーサも急いで飛竜を下り、後を追う。
魔王城に入ると 暗黒のリッチが待っていたようで、ハンに駆け寄り話し始めた。
「ハン様、不味いことになりました。
マリー様の意識が戻りません。
おそらく・・・。」
「分かってるッス。
世界樹が切られてるッス。
犯人はベルゼブイの奴ッス。
クソが!
あの時、殺しておくべきだったッス!」
「ハンさん、マリーさんの意識が戻らないって、どうしたんですか!?」
「ジャスさん、マリー様は・・・。」
銀河系地球人(完)
司令艦が墜落し、その残骸から人間たちは死者の遺体を回収していく。
司令艦に乗っていた乗組員の生存は絶望的であった。
暗い表情の人間たちを少しでも元気づけようと、ジャスは笑顔を振りまく。
本当は、エリーゼの一件もあり、辛く悲しい気持ちだったのだが、生き残った人間たちの前で自分だけ悲しい表情はできない。
ジャスは そう感じていたのだ。
そんなジャスに人間の老人が声をかけてきた。
「天使様、これから我々はどうなるのでしょうか。」
「そうですね。この地に住むのはどうでしょうか。」
「しかし・・・。」
「何か問題でもありましたか?」
「わしら人間も しっかりと大地に足を着け、草木のように根を張るがごとく永住できる場所を探していたのは事実です。
ただ、わしらは支配者である魔王マリー様に反旗を翻しております。
いくら上層部からの命令とはいえ、何も自分たちで考えることもせずに行動に起こしたのは間違いであったと痛感しております。」
もし許されることがないのであれば、母艦や司令艦を捨て、戦艦のみで広大な宇宙を彷徨わなければならなくなってしまう。
もしそうなれば、食料や水の問題。他の艦との連携作戦の問題など、多くの問題を抱えることになる。
たとえ、無事に天魔界を抜け出たとしても、人間たちは 長く生きることはできないだろう。
そんな話をしていると、周囲の人間たちもジャスの周りに集まっていた。
ジャスの回答次第では、覚悟を決め、すぐに逃げ出さなければならない状況であったからだ。
人間たちの 不安が極限に達している。
もしジャスの回答が、
人間を追放すべき・・・。
人間は滅びるべき・・・。
人間と戦争になる・・・。
人間に報復措置を・・・。
人間たちは悪い想像を働かせていく。
そんな極限の不安の中、ジャスが優しい表情を見せ、答えを出す。
「マリーさんは、そんな人じゃありませんよ。
きっと皆さんを導いてくれます。」
「し、しかし、途中で心変わりしてしまったら・・・。」
「そうですね。
皆さんが心変わりをしなければ大丈夫です。
実は 悪魔って あまり嘘をつかないんです。
それに寿命も長いですから、人間の皆さんが何世代も世代交代をしても ずっとマリーさんの統治下にあるはずですよ。
ここにいる全員が天寿をまっとうしても、マリーさんの寿命からすれば、人間の感覚で数週間程度の些細なことですからね。」
人間たちの不安を和らげようと、ジャスは楽しそうに話をする。
「もし、それでも不安なら、私が直接 マリーさんに聞いてきてあげますよ。
これから人間の町を 住みやすい町にする方法を。」
「本当ですか!?」
「はい。もちろん。
ちなみに、魔界天使も嘘をつきませんから。」
人間たちから不安の表情が和らいでいく。
それは、ジャスの優しさが不安を取り除いてくれたからだろう。
ジャスたちは、人間たちに周囲の片づけを任せ、魔王城へと引き返していった。
~魔王城・正門前~
ジャスや ハン、魔王城の戦士たちが魔王城に帰ってくると、使い魔たちが忙しそうに走り回っていた。
そんな走り回っている使い魔にハンが声をかける。
「何かあったッスか?」
「あっ、ハン!
ちょうどよかったニャン。
マリー様が祝福の儀を行ってるニャン。」
「それで準備に走り回ってるッスね。
マリー様なら、そうすると思ってたッス。」
「ハンさん、祝福の儀って何ですか?」
「祝福の儀っていうのは 名前のとおり 祝福を与える儀式なんスけど、魔界では裏切者には死の制裁を与えるって知ってるッスか?」
「あ、はい。
それは知ってますけど、結局、使い魔として生まれ変わるから、あまり意味がないですよね。」
「ジャスさん、その認識が間違いッス。
魔界で主を裏切って死んでしまった場合や、他の悪魔に魂を食べられた場合は、使い魔となって生まれ変われないッス。
・・・消滅してしまうってことッス。」
「なるほど・・・。
ん?
そうすると、宇宙戦艦の乗組員は、どうなるんですかね。
人間だから免除されるとかでしょうか?」
「免除されるとかはないと思うッス、けど実際には 前例がないから分からないッス。
だから、マリー様は祝福の儀を行ってるッス。
祝福の儀をすることで祝福される。ようするに、裏切って命を落とした者を許してあげるって儀式ッス。」
「なるほど。
最後は やっぱり助けてあげるんですよね。
マリーさんらしくって素敵ですね。」
ジャスは、マリーの計らいに 少し笑顔を取り戻す。
人間たちに見せた作られた笑顔ではなく、心の底からの美しい笑顔だった。
そんなジャスに、使い魔のネロが駆け寄ってきて声をかけた。
「ジャスさん、いい笑顔ニャンね。
ところで、ジャスさんには 暗黒のリッチのところに行ってほしいニャン。」
「暗黒のリッチさんのところですか?」
「そうニャン。
マリー様からの命令を聞いているみたいニャン。
ハンも ジャスさんと一緒に行くニャン。」
「分かったッス。」
ジャスと ハンは、暗黒のリッチの執務室に向かった。
暗黒のリッチの執務室に入ると、部屋の中には、暗黒のリッチだけではなく、ドン・キホーテ、ナオアキ、ノーサも待っていた。
部屋に入ったジャスに、嬉しそうに暗黒のリッチが駆け寄ってきた。
「ジャス様、おめでとうございます。」
「リッチさん、いったいどうしたんですか?」
「マリー様から、ジャス様への任務を承っております。
ジャス様には、今後 マリー様と同等に近い権限を与えられます。
そして、その権限を使い、地球人種の住む区域を・・・町を作り上げる任務が与えられました。」
「私がですか?
・
・
・
いえいえいえ、私よりハンさんたちの方が適任だと思いますよ!」
「そんなことないッス。
俺はマリー様のサポートや 魔王城の管理があるから町づくりは無理ッス。
それに、ジャスさんは 人間たちに人気があるッス、適任だと思うッス。
マリー様の英断ッス。それに、さっきのやり取りも素晴らしかったッス。」
ハンの言葉に、笑顔のノーサも後押しする。
「ジャス、引き受けた方がいいに決まってるの。
それに ジャスが引き受けてくれたら、私もジャスのサポートとして魔王の仕事を勉強できるの。
ちょっとくらい失敗して 人間が絶滅したとしても、マリーなら許してくれそうなの。」
「ノーサさん、絶滅とかさせませんよ!」
ジャスの返事に、ノーサが声を出して笑う。
ジャスもノーサにつられて笑ってしまう。
そんな2人に、ドン・キホーテが声をかけてきた。
「ジャス様、わしとナオアキ殿が、ジャス様の作る町の護衛を任されましたゾイ。
もし、ジャス様の作る町が争いに巻き込まれようものなら、わしらで敵を成敗するので、安心してもらいたいのですゾイ。」
「俺も 専用の飛竜を貰ったニャン。
これで、どこにでもお使いに行けるニャン!
だけど、エン横に行くときは、マリー様も一緒に連れて行くニャン!
・・・エン横は魔界でも有数な危険スポットだったニャン。」
ナオアキは、エン横での事件がトラウマになっているようだった・・・。
「・・・で、でも。」
なかなか首を縦に振らないジャスに、ハンが声をかける。
「ジャスさん、俺が人間を保護する為、死人の荒野に行く前に マリー様は言ってたッス。
もし、ジャスさんが マリー様の元に来たときは、いままでと変わらずにマリー様が全てを管理し支配する。
だけど、ジャスさんが マリー様の元に来ず、残された人間を救う為に行動したときは、ジャスさんに人間の町を任せる。
マリー様は ジャスさんに人間の町を任せたいって言ってたッス。」
「私にできるかな・・・。」
「大丈夫ッス!
それに、町づくりって言っても、人間は寿命が短く何世代にも渡り作ったり壊したりを繰り返しているッス。
悪魔以上に ノウハウがあるッス。
ほっといても、自分たちで快適で立派な町を作り上げる技術があるッス。
人間の町づくりで、一番大事なのは、人間たちの弱い心を管理してあげることッス。
たぶん、ジャスさんが一番得意な分野なはずッス。」
「・
・
・
はい!
それなら、私でも出来そうです!」
「ジャスさん、まずは人間の所に領主として 挨拶にいって、戻ってきてからマリー様に報告すればいいッス。
戻ってくる頃には、祝福の儀も終わってると思うッス。」
「それなら、俺の飛竜に乗って、全員で挨拶しに行くニャン!」
こうして、領主に任命されたジャスと その一行は、2頭の小型の飛竜に分かれて乗り、死人の荒野へと移動していった。
~死人の荒野~
ジャスたちの乗った飛竜たちが舞い降りると、周囲に人だかりができた。
人間たちは、心配そうにジャスを見つめている。
ジャスは、人間たちを集め、人間たちの耳によく聞こえる 透き通った声で話を始めた。
「えーと、さっきの件ですけど、私が人間の町の領主に任命されちゃいました。
これから一緒に町を作り上げていきましょう。」
ジャスがそれだけ話すと、人間たちは互いに抱き合って喜んでいる。
そんな人間たちに、ジャスは領地を守るドン・キホーテやナオアキの紹介をして、魔界で生きていくために覚えておかなければならない5つの重大事項を説明し始めた。
1つ、主君への裏切りは死の制裁が与えられ、消滅してしまうこと。
2つ、使い魔に転生してしまった場合、魔王城を目指してほしいこと。また魔王城で従事すること。
3つ、万が一、悪魔に絡まれた場合は、魔王マリーの配下と名乗ること。自ら悪魔を挑発しないこと。
4つ、悪魔は嘘をつかないが、答えを歪曲し解釈する為、悪魔と契約、約束をしないこと。
5つ、人間の住む区画を超えて出ていかないこと。出る場合は自己責任になること。
以上の重大事項を説明し終えると、人間から質問が上がり始める。
その様子を見ていたハンが、最後に付け加える。
「俺も元人間だったから質問したいのは分かるッスけど、あまり質問をしても意味がないッス。
決定事項は決定事項ッス。悪魔はバカバカしく生きているッスから気分次第で回答が変わるッス。それが悪魔のルールッス。
それに、知っててもらいたいのは、人間の武器程度では悪魔に傷をつけることも出来ないッス。」
パン!
パン!
パン!
バババババババ!
ハンは、そういうと拾ってきた拳銃とマシンガンでノーサを撃った。
集まった人間は、驚きの表情を隠せない。
それは・・・。
「なに?
ハン、いま何をしたの?
なにか豆みたいのが、たくさん飛んできたんだけど・・・。」
「ノーサさん、申し訳ないッス。
いまのが人間の武器ッス。」
「人間って可愛いと思うの。
豆を飛ばしあって決着をつけてるの?」
「違うッス。人間はアレで死ぬッス。
俺らより紙装甲ッスから。」
「・・・繊細なのね。
人間の扱いは、思ったより面倒なの。」
人間は まったく無傷のノーサに言葉を失う。
そんな人間に、ハンは続けて言う。
「悪魔は不死身ではないッス。
でも、人間が悪魔に攻撃を加える手段はないッス。
先の戦争でも、魔王ドランサー・・・ドラゴンの悪魔の配下は 人間の攻撃では誰も死んでないッス。
死んでしまった悪魔は 翼を撃たれ、バランスを崩して落下してしまったからッス。これが事実ッス。
人間の死は無駄死にだったッス。
そんな弱い人間を守る為の5つの重大事項ッスから、必ず守るようにするッス。」
「ちょ、ちょっとハンさん、言いすぎですよ。
無駄死にだなんて・・・。」
「でも最初に知っておく必要があるッス。
これが力の違いッス。これを知らなければ、他国の悪魔に襲われて抵抗し、皆殺しに合うッス。」
ハンの言葉に、人間たちが暗い表情になる。
そんな人間たちにドン・キホーテが声をかける。
「大丈夫ですゾイ。
わしは、人間でありながら、鍛錬をし魔王ドラニコフを倒しました。
人間は鍛錬を積めば強くなれる生き物ですゾイ。
まあ、悪魔たちは人間に興味があまりないので、こちらから仕掛けなければ安心ですゾイ。」
「そうだニャン。
悪魔は見た目で判断しないんだニャン。
マリー様も人間と同じ姿だけど、誰も気にしてないニャン。」
「そうよね。
マダム・オカミの施設でも、魔界に迷い込んできた人間が働いてたの。
まだ80年しか生きてないって笑いながら言ってたのに、しわくちゃだったから覚えてるの。」
(高齢者の労働・・・可愛そうニャン。)
暗い表情の人間に対し、悪魔たちは明るく楽しそうである。
そんな違いを感じていた人間に、ノーサが言う。
「魔界で生きるんなら、地球人種の人間も悪魔と同じなの。
人間は、ちょっと弱すぎるだけ。
悪魔なら もっとバカバカしく生きればいいの。」
「「「バカバカしく・・・。」」」
「そう、バカバカしく。
人間の寿命は300年くらいってマリーから聞いてるの。
そんな短い人生なら、なおさらバカバカしく生きないと損すると思うの。」
(・・・人間は100年も生きないニャン)
「そうですね。ノーサさんの言う通りですよ。
この何もない荒地を 魔界で一番素晴らしい町にしてみませんか?
水路を引いて、花を植えたり、食物を育てたり、人間の技術でしか作れない物を作って商売をするのも楽しいかもしれませんよ。
これから楽しい未来が待ってるんですから!
楽しく、バカバカしく、元気よく!
みんなで協力して未来につながる町を作りましょう!」
「・・・そ、それもそうですよね。」
「くよくよしたって、変わらないし・・・。」
「バカバカしく・・・。」
「なんだか楽しそうよね。」
ノーサやジャスの意見に人間たちが賛同し始める。
そんな中、一人の負傷兵が声をあげる。
「そうだ、やろう!
魔王マリー様、領主ジャス様が驚くほどの町を作り上げよう!
そうすることで、死んでいった仲間たちも、これから生まれてくる子供たちも、みんなが誇れるような町を作り上げよう!」
人間たちは希望が見えたのか、いままでの不安な表情から一変し、その表情は明るく変わっていた。
ジャスとノーサは、人間たちに当面の住居を構えるように指示し、マリーの待つ魔王城へと引き返すことにした。
ハンが操縦する飛竜に乗り込み、空へと飛び立つ。
「ドン・キホーテさん、町の護衛をお願いしておきます!」
「ジャス様、任されましたゾイ!」
「行ってらっしゃいニャーン!」
こうして、3人は魔王城を目指したのだが、ジャスが ある異変に気付く。
「あの、ハンさん。」
「んっ、忘れ物でもしたッスか?」
「いえ、あそこ見てください。」
ジャスは 魔王城の先、世界樹の丘の方向を指さす。
その方向の上空には、空の亀裂が入っていた。
「空の亀裂・・・。
またベルゼブイが攻めてきたッスかね。
こりない奴ッス!」
「違います!
樹が・・・。
世界樹が無くなってます!」
ジャスの言葉に、ハンは世界樹を確認する。
世界樹は、ジャスの言葉通り、切り取られていて、その姿を消し去っていた・・・。
「不味いことになったッス。
ジャスさん、ノーサさん、急いで魔王城に帰還するッス!」
ハンは、動揺しているのか、飛竜を急かすように飛ばし魔王城に帰還する。
魔王城に着いたハンは、飛竜の手綱を投げ出し、場内へと駆けこんでいった。
そんなハンの様子に不安を感じたジャスとノーサも急いで飛竜を下り、後を追う。
魔王城に入ると 暗黒のリッチが待っていたようで、ハンに駆け寄り話し始めた。
「ハン様、不味いことになりました。
マリー様の意識が戻りません。
おそらく・・・。」
「分かってるッス。
世界樹が切られてるッス。
犯人はベルゼブイの奴ッス。
クソが!
あの時、殺しておくべきだったッス!」
「ハンさん、マリーさんの意識が戻らないって、どうしたんですか!?」
「ジャスさん、マリー様は・・・。」
銀河系地球人(完)
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