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土肥温泉へ

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バス停から5分ほど歩くと目当ての旅館に着き、黒く光る旅館の玄関をくぐってフロントでチェックインをした。足元には細い水路があり、紅く大きな鯉が何匹か泳いでいた。
「すごいね、鯉までお出迎えしてくれてる。こんな豪華な旅館初めてきたんだけど」私が小声で早子に言った。
「でしょ。私も知り合いに教えてもらったんだけど、西伊豆は値段の割に良い宿が多いんだって」
仲居さんがやってきて、かわいらしいピンクの花柄の浴衣を選んでくれ、部屋まで案内してくれた。仕事も長年やっているようで、流れるように世間話をしてくれる。全館畳敷きという宿は歩いていて足元が暖かかった。
私たちは部屋に入って荷物を置いた。8畳ほどの畳の部屋で、大きな窓の向こうには深く青い海が見える。
「はい、お茶入れたよ」
早子がテーブルに座って用意されていた緑茶を入れてくれた。お茶受けにはイノシシ型の最中も用意されている。このあたりの銘菓らしい。
「じゃあ、さっそく聞いちゃおうか。彼氏とどんな感じなの?」緑茶を飲みながら彼女が言った。
私は早子に最近の宍戸の態度を説明した。
「うーん、趣味が合わないって感じかあ。お互い相手の趣味に付き合う気もないし」話を聞き終えた早子が言った。
「いや、ライブに行こうっていわれてもさ、私音がうるさいところはほんとに苦手なんだよね。それにチケット代だって1回6000円とかかかるわけでしょ」
「それはあんたの誘ってる旅行だってお金かかるじゃない」
「それはまあ……。でも、私いつも彼のしたいデートに付き合ってるんだよ?ちょっとくらい私のやりたいことに付き合ってくれてもよくない? それになんか彼、付き合った最初のころはもう少し色んなお店を調べて連れて行ってくれたり、家でご飯を作ったりもしてくれてたんだけど、最近は全くなくて。まだ付き合って半年もたってないのにもう飽きられちゃったのかな」
「そうなの。半年もたたずに飽きたってことはないだろうけど……。釣った魚にエサをやらないタイプかもね、それは」早子が神妙な顔つきで言った。
「そうなのかな。なんかもう会うのがしんどくなってきてさ。この間なんて職場で深いため息をついてたら、職場の先輩に心配されちゃった。それでこのままじゃまずいかもと思っては早子に相談したの」私が暗い声で言った。
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