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人間に楽な死に方は用意されているのだろうか
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次の日はまた新しい入所者が入ってくることになった。
「佐藤さん、今日入所する患者さん、認知面と身体面ともにそこまで重くはないみたいだから担当してくれる?」
前もって送られてくる患者の書類に目を通した、リーダーの今井さんが私に言った。
「分かりました」
私は記入の必要な書類を取り出し、新しい患者の評価をする準備をした、身体機能と認知機能を大まかにチェックして、どんな介護が必要かを介護士に伝えるのがリハビリの役目だ。
昼前に彼女は車いすに乗って介護車で施設へやってきた。そのまま施設の相談員に車いすを押されて3階の居室フロアへ行き、私もそれを追いかけた。彼女は末期ガンを患っている80代後半の女性で、吉井といった。とても小柄で、顔や身体中に苦労をにじませた皺が刻まれていた。まるで穴の開いた風船のようにそのままシワシワと縮んで、どこかに消えてしまいそうだった。
「はじめまして、担当の理学療法士の佐藤です。よろしくお願いします」3階の広間で施設内をぼうっと見渡している吉井さんに私があいさつした。
「ああ、よろしくね」彼女も言った。
「吉井さん、施設に着いてさっそくで申し訳ないのですが、簡単に身体がどのくらい動くか見せてもらっていいでしょうか」
「はいはい。動くんだけど、痛いのよ、全身」彼女が顔をしかめて言った。
「そうなんですね。少し、立ってみてもらってもいいでしょうか」
「立つの? 大変だわ……」彼女はそう言いながらも車いすから立とうとしてくれた。「ちょっとつかまらせて」
「はい、手伝いますね」
私が前から彼女の両脇の下に手を入れて、身体を支えた。
「よいしょ……」
吉井さんも私の腕をつかんで立ち上がった。
「あいたたたた」立ってすぐ、彼女はそう呟いて車いすに座った。「膝も腰も痛いし、肩も痛いし……」彼女が弱々しく言った。
「だいぶ身体が痛むんですね。すみません、ありがとうございました」
痛みは病気のせいなのか、身体を動かさない間に全身の筋力が低下してしまったせいなのかよく分からなかったが、あまり動きの大きいリハビリはできないだろうなと私は思った。
そして周りのスタッフに日常生活の大部分で介助を要するだろうということを伝え、リハビリ計画書にサインし家族にハンコを貰った。
結局、彼女のリハビリは関節を動かすことや、筋肉のリラクゼーションが中心になった。車椅子からベッドへ移る動作すら、彼女にとってはものすごく苦痛な動作であるらしかった。この仕事をしていると、人間に楽な死に方というのは用意されているのだろかと不安になる。
「佐藤さん、今日入所する患者さん、認知面と身体面ともにそこまで重くはないみたいだから担当してくれる?」
前もって送られてくる患者の書類に目を通した、リーダーの今井さんが私に言った。
「分かりました」
私は記入の必要な書類を取り出し、新しい患者の評価をする準備をした、身体機能と認知機能を大まかにチェックして、どんな介護が必要かを介護士に伝えるのがリハビリの役目だ。
昼前に彼女は車いすに乗って介護車で施設へやってきた。そのまま施設の相談員に車いすを押されて3階の居室フロアへ行き、私もそれを追いかけた。彼女は末期ガンを患っている80代後半の女性で、吉井といった。とても小柄で、顔や身体中に苦労をにじませた皺が刻まれていた。まるで穴の開いた風船のようにそのままシワシワと縮んで、どこかに消えてしまいそうだった。
「はじめまして、担当の理学療法士の佐藤です。よろしくお願いします」3階の広間で施設内をぼうっと見渡している吉井さんに私があいさつした。
「ああ、よろしくね」彼女も言った。
「吉井さん、施設に着いてさっそくで申し訳ないのですが、簡単に身体がどのくらい動くか見せてもらっていいでしょうか」
「はいはい。動くんだけど、痛いのよ、全身」彼女が顔をしかめて言った。
「そうなんですね。少し、立ってみてもらってもいいでしょうか」
「立つの? 大変だわ……」彼女はそう言いながらも車いすから立とうとしてくれた。「ちょっとつかまらせて」
「はい、手伝いますね」
私が前から彼女の両脇の下に手を入れて、身体を支えた。
「よいしょ……」
吉井さんも私の腕をつかんで立ち上がった。
「あいたたたた」立ってすぐ、彼女はそう呟いて車いすに座った。「膝も腰も痛いし、肩も痛いし……」彼女が弱々しく言った。
「だいぶ身体が痛むんですね。すみません、ありがとうございました」
痛みは病気のせいなのか、身体を動かさない間に全身の筋力が低下してしまったせいなのかよく分からなかったが、あまり動きの大きいリハビリはできないだろうなと私は思った。
そして周りのスタッフに日常生活の大部分で介助を要するだろうということを伝え、リハビリ計画書にサインし家族にハンコを貰った。
結局、彼女のリハビリは関節を動かすことや、筋肉のリラクゼーションが中心になった。車椅子からベッドへ移る動作すら、彼女にとってはものすごく苦痛な動作であるらしかった。この仕事をしていると、人間に楽な死に方というのは用意されているのだろかと不安になる。
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