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H.エンド

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婚約が済むと、彼は定期的に私の家に顔を出した。

私は女男爵になるために学ぶことが多くて、せっかく彼が来てくれても、彼と過ごす時間はなかなか取ることができなかった。

書類の整理が済んで、やっと彼の待つサロンに行った。
彼はお茶を飲みながら、静かに読書をしていた。

「お待たせして、スミマセン」
私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫だよ。お疲れ様」
彼は本を閉じると、私の鼻の頭を撫でた。

!!!

「走ってきたの?汗かいて」
私は恥ずかしくなって両手で顔を覆った。

「ほら、顔を隠さないで。僕にちゃんと顔を見せて」
エメラルドの瞳が私を見つめる。
私は顔が熱くなるのが分かった。

彼はからかうように、私の頬を親指で撫でて
「かわいいね」
と言った。

「私は、かわいいなんて言われたことないです……異母妹とは違って」
自分で口にしてしまってから、急に惨めな気持ちになってしまった。
美しく、社交的な異母妹と比べられては劣等感に押しつぶされそうだった。

「ん?異母妹?比べることないじゃないか」
彼は首を傾げて言った。
「でも……」

彼は優しく私の手を引いて、彼の膝の上に座らせた。
「どうして?」
彼が優しく訊ねる。

「だって……みんな異母妹を可愛がって、みんなに愛されて」

継母と異母妹が初めてやって来た日の、父親の嬉しそうな顔を思い出す。
食卓でも、私に話しかける人はいない。
みんなが楽しそうに話す中で、ひとり黙って食事をする日々。

お茶会でも、舞踏会でも、男爵令嬢として扱われるのは異母妹で、私はいわゆる壁の花だった。

「みんな、異母妹を愛してる。誰も私を愛してくれない」
ポツリと涙がこぼれた。


「誰も君を愛さないの?そう思うの?」
小さく頷く私のおでこに、彼が額を寄せる。

「僕は、君の異母妹を愛さない。僕が愛してるのは、君だけだ」
そう言って、彼は私の鼻先に口づけた。


私は驚いて、彼を見つめた。

「僕は、君が帽子を取られて泣いていたあの頃から、君が好きなんだ。知らなかったの?」

彼は笑う。

「君と結婚できるなんて、夢みたいだよ」
「私も、夢みたい。誰かに愛されるなんて……」
「誰かに?」
彼は私の顔を覗き込む。
エメラルドの瞳で。

「あなたに……」


「夢じゃないよ」
彼はそう言って、私にキスをした。


H.END

    
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