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B.エンド
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婚約が済むと、彼は定期的に私の家に顔を出した。
私は女男爵になるために学ぶことが多くて、せっかく彼が来てくれても、彼と過ごす時間はなかなか取ることができなかった。
書類の整理が済んで、やっと彼の待つサロンに行った。
彼はお茶を飲みながら、静かに読書をしていた。
「お待たせして、スミマセン」
私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫だよ。お疲れ様」
彼は微笑んで、本を閉じた。
「君が頑張っていることは、分かってるから」
「スミマセン……」
謝ったものの特に話すことも無く、当たり障りのない会話をして、彼は帰って行った。
もう少し、上手に話すことが出来たら……
ある日、仕事を早めに片付けてサロンへと急いだ。
サロンから話し声と、それから笑い声が聞こえて来た。
彼は誰かと話をしているの?
私は足音をたてないように、そっとサロンの、入口に近づいた。
「異母姉様と本当に結婚するの?」
異母妹の声。
「だって、君は領地経営はできないだろ?」
「難しいし、面倒くさいでしょ?私はやりたくないわ」
「難しくて、面倒なことは異母姉にやらせて、君は美しいままでいて欲しいな」
「ねぇ、私のこと愛してる?異母姉様のこと、愛したりしない?」
「僕が異母姉を愛することはないよ、僕が愛してるのは君だけだ」
私は両手で口を押さえたまま、その場を離れた。
手を離したら、嗚咽がもれてしまうから。
継母と異母妹が初めてやって来た日の、父親の嬉しそうな顔を思い出す。
食卓でも、私に話しかける人はいない。
みんなが楽しそうに話す中で、ひとり黙って食事をする日々。
お茶会でも、舞踏会でも、男爵令嬢として扱われるのは異母妹で、私はいわゆる壁の花だった。
「みんな、異母妹を愛してる。誰も私を愛してくれない」
ポツリと涙がこぼれた。
どうして?
どうして私は誰にも愛されないの?
どうして誰も私を愛してくれないの?
彼との唯一の思い出、帽子を取られて泣いた日を思い出す。
たったひとりで泣いていた私。
これからもずっとそうなの?
がむしゃらに領地経営をやらされて、彼は異母妹を愛するの?
そんなの許せないわ。
サロンに戻ると、ふたりは少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。
「今日はいつもより早いね」
「異母姉様がお忙しそうなので、代わりにお話をしていましたの」
「そう。ありがとう。隣国の美味しいお茶が手に入ったので、飲みましょう」
私はお茶を淹れた。
気まずそうな顔をして、私が淹れたお茶を飲むふたり。
そして、血を吐き出して倒れた。
彼が私を見つめる。
エメラルドの瞳で。
B.END
私は女男爵になるために学ぶことが多くて、せっかく彼が来てくれても、彼と過ごす時間はなかなか取ることができなかった。
書類の整理が済んで、やっと彼の待つサロンに行った。
彼はお茶を飲みながら、静かに読書をしていた。
「お待たせして、スミマセン」
私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫だよ。お疲れ様」
彼は微笑んで、本を閉じた。
「君が頑張っていることは、分かってるから」
「スミマセン……」
謝ったものの特に話すことも無く、当たり障りのない会話をして、彼は帰って行った。
もう少し、上手に話すことが出来たら……
ある日、仕事を早めに片付けてサロンへと急いだ。
サロンから話し声と、それから笑い声が聞こえて来た。
彼は誰かと話をしているの?
私は足音をたてないように、そっとサロンの、入口に近づいた。
「異母姉様と本当に結婚するの?」
異母妹の声。
「だって、君は領地経営はできないだろ?」
「難しいし、面倒くさいでしょ?私はやりたくないわ」
「難しくて、面倒なことは異母姉にやらせて、君は美しいままでいて欲しいな」
「ねぇ、私のこと愛してる?異母姉様のこと、愛したりしない?」
「僕が異母姉を愛することはないよ、僕が愛してるのは君だけだ」
私は両手で口を押さえたまま、その場を離れた。
手を離したら、嗚咽がもれてしまうから。
継母と異母妹が初めてやって来た日の、父親の嬉しそうな顔を思い出す。
食卓でも、私に話しかける人はいない。
みんなが楽しそうに話す中で、ひとり黙って食事をする日々。
お茶会でも、舞踏会でも、男爵令嬢として扱われるのは異母妹で、私はいわゆる壁の花だった。
「みんな、異母妹を愛してる。誰も私を愛してくれない」
ポツリと涙がこぼれた。
どうして?
どうして私は誰にも愛されないの?
どうして誰も私を愛してくれないの?
彼との唯一の思い出、帽子を取られて泣いた日を思い出す。
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「そう。ありがとう。隣国の美味しいお茶が手に入ったので、飲みましょう」
私はお茶を淹れた。
気まずそうな顔をして、私が淹れたお茶を飲むふたり。
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彼が私を見つめる。
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