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私は聞いてしまった。
彼の本心を。

私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。

エメラルドの瞳に、薄茶色のサラサラの髪。
物腰柔らかな彼は、この辺の地方貴族の中では憧れの存在だった。

そんな彼と結婚をすることになったと聞いた時、幼い時の彼との唯一のエピソードを思い出した。

この辺の地方貴族の集まりで、領主たちが経営について話合っている間、その妻たちはお茶を飲みながら王都での流行りについて情報交換をしていた。

そして私たちは、庭を走り回ったり、花を摘んだりしていた。

人見知りな私が、ひとり花を摘んでいると、急に現れた女の子が私の帽子を奪った。
びっくりして言葉出ない私に
「この帽子、私に頂戴」
と言った。
その帽子は祖父からの贈り物で、あげるわけにはいかない。
「だ、だめ」
と勇気を振り絞って言ったが、その女の子は
「頂戴ったら頂戴!」
と言って走り出した。
慌てておいかけるが、トロい私は何もない所で躓いて転んでしまった。

父も母もいない。
祖父からの贈り物を奪われてしまったショックで、私は泣き出した。

すると、ひとりの少年が私に駆け寄って来た。
「大丈夫?どこか痛い?」
「大丈夫……でも、帽子……」
涙が止まらない私に
「これ、君の帽子だろ?」
と言って、帽子を被せてくれて、リボンを顎の下で結んでくれた。

「これで、もう取られないよ」
そう言うと少年は笑った。
「そろそろ終わるみたいだよ。一緒に行こう」
少年は私の手を取り、歩き出した。

後のことはよく覚えていない。
彼の手が柔らかくて温かくて、安心した気持ちだけを覚えている。


彼と接したのは、たったそれだけ。
でも、私の中では最高に幸せな思い出。


母が死んで、継母と義妹が来た時も、父が継母とずっと浮気をしていたと知った時も、帽子を贈ってくれた祖父が死んでしまった時も、あの手の温かさを思い出した。


そして、父から彼との結婚の話を聴いた時には、まるで夢を見ているようで、なかなか信じることができなかった。

顔合わせの席で彼は
「これから、宜しくお願いします」
と微笑んだ。
記憶の中の少年が重なる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」

私たちは、半年後に結婚することになった。
私が男爵家を継ぐことになるから、彼は婿として来てくれる。

あの少年が私の夫になる。
私は信じられないと涙が出る程に感激した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
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