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171.試す覚悟

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「そのシンデレラっていう娘は不幸な方がいいの?」
アンドレはリナに訊いた。

「そうだね。まずは実の母が病気で死んじゃうでしょ?そして、継母がいじわるでしょ?義姉ふたりもいじわるでしょ?いじわるのせいでお城のパーティに行けないんだよ?かわいそうじゃない?しかもさ、唯一のドレスを義姉たちに破かれちゃってさぁ。本当にあのクソ継母とクソ義姉たち、ムカつくよ」
リナはプンスカと怒っている。

何に対して?
『シンデレラ』の登場人物に対して。

イザックも、アリシアも『シンデレラ』という物語は知らないと言っていた。
ふたりが知らないということは、王都にも存在しない物語なのだ。

じゃぁ、どこの物語だ?

あらすじだけじゃない、細かい内容までスラスラと話しているリナは、この物語を読んだことがあって、詳しく覚えているのだ。


「でも、シンデレラはパーティにいけるんでしょ?どうやって?ドレスは破かれちゃったのに」
アンドレは更にリナに訊いた。

「ドレスはね、フェアリーゴッドマザーが現れてねボロボロのドレスを直してくれるのよ。魔法で」

「魔法で直してくれるなんて、素敵だわ」

「そしてね、フェアリーゴッドマザーはね、カボチャを馬車に、ネズミを馬に変えてね、シンデレラはお城のパーティに行くの」

「ちょっと待って!ここで全部聞いちゃったら、イザックが書く『シンデレラ』を読む楽しみがなくなっちゃう!あとはリナが直接イザックに話してよ」

アリシアがリナにそういうと

「結局俺なわけ?そこまで細かく話が決まってるなら、いっそリナが書けばいいじゃないか」

イザックがリナに言った。

「えー、私に文才がないからイザックさんにお願いしてるんじゃん」
「お願いには思えないけど」

リナとイザックがギャンギャンと言い合っている。


(リナはその話、どこで知ったの?)
アンドレはたったそれだけを訊けばいいのだ。
そうすれば、リナはなんというだろうか……

仮に西の国の物語だとして、リナが知り得ることができるとは思えず、東の国の物語だとして……
宗長がそんなに事細かに話すとは思えない。


「リナはその話……」
アンドレはリナに言った。

「ん?シンデレラ?がどうしたの?」
リナはアンドレを見て微笑んだ。


「……好きなの?」

「うん!ヒロイン物の頂点はやっぱりシンデレラじゃない?ギャフンって言わせるのも気持ちいいしね」


「……そう、なんだ。イザックさんに書いてもらったら、僕にも読ませて」

「女の子向けだけど、いいよ」

リナの笑顔を見て、この笑顔を失うことが怖いとアンドレは思ったのだった。


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