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163.私の自由

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「シアはさ、今……ジャンと色々デザインしたり、打ち合わせをしたりしてるだろ?」

「えぇ。リナちゃんが王都に行くまでには、試作品でいいから、形にしたいし」

「アンドレもリナと乳製品を何か作れないか、色々試しているみたいだし」

「そうね。二人で試作をしているみたいよ?」


辺境伯領から帰ると、リナはアンドレやロナ校長と、乳製品の開発に勤しんでいる。


「俺だけが……何もしていないなぁと思って、さ」

「何もしてないことはないんじゃない?リナちゃんによく相談されているじゃない?」

「まぁ、相談はされてるけどさ……自分で何か考えているわけじゃないし」


イザックの声が小さくなる。
アリシアは小さくため息をつくと、イザックの向いに座った。


「私だって、リナちゃんと同じようにはできないわよ?それを歯がゆく思うこともあったわ。確かに……」
アリシアはゆっくりと話しはじめた。

「でも、仕方ないんじゃない?だって、私たちは、自分の好きなようには考えることすらできなかったのよ?あなただってそうでしょ?」

アリシアはまっすぐにイザックを見つめる。


「私たち、貴族の子どもは自分の好きなように考え、行動することはできなかったわ。すべて親に、家に従っていたのよ。それを、急に『あなたは自由になりました!好きに考え、行動してもいいですよ!』って言われたって、できるものではないわ。そうでしょ?」


アリシアに言われて、イザックは頷いた。


「自由って言われても、難しいわよね。いきなり、リナちゃんみたいになれって言われてもできないもの。けど、提示されたものに対して、自分の気持ちで『どっちを選ぶか。本当に自分の欲しいもの、好きなものを何なのか』を決めることができるのは、私の自由よ」

「自由……」

「今は、その『自分の気持ち』に向き合うのが楽しいわ。選んだことが間違っていることもある。でも、それに気が付ければ、またそれを元にして、自分が考えて決めることができるもの。リナちゃんや校長、ジャンやアンドレ、ムネナガさんも助けてくれるもの。もちろん、あなたもよ?イザック」

アリシアは微笑んだ。


「俺も?」

「そうよ。これから貴族を対象とした商品開発やサービスの提供を考えないといけないとき、貴族の好みや指向を問われることが多いけれど、その時、あなたが横にいて、同じような経験から答えてくれるのは、心強いもの。性別の違いもあるしね」


「男性としての意見なら、俺よりジャンやムネナガの方がしっかりしているだろ……」

「もちろん、ジャンもムネナガさんもちゃんと答えてくれるけれど、ジャンは王都で暮らしたことはないし、ムネナガさんも東の国の人だから、王都を知らないでしょ?イザックだけだもの。王都の学園に通ったのは」


イザックは、自分で言ってから、自分の価値は王都に暮らしていた貴族の息子ということだけな気がしてきて、気分が落ち込んでいくのを感じた。
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