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110.『おにぎり屋フジヤマ』に掛かる絵

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僕はジュールさんと昼飯を食べに『おにぎり屋フジヤマ』にやって来た。

ロナさんが
「当面、給料は保障できないから、食事はおにぎり屋で食べて!無料で食べ放題♪」
と言ってくれているので、食事面で困ることは無い。
偶に夜、ジャンとマルタンさんとお酒を飲みに焼き鳥屋にも行く。


「今日の定食2つ!」
ジュールさんが慣れた様子で注文する。

「スタッフをな、マルタン商会から派遣してもらってるから、おにぎりだけじゃなく、色々メニューが増えたんだ」
「下町の食堂がこんな感じでした」

元々は校長とリナとテオさんで始めたおにぎり屋を、今はマルタン商会から派遣されたスタッフで運営して、経営管理はテオさんがやってる。
テオさんは俺より年下だけど、経営管理を任されるなんて、凄いな……


「ジュールさんは、お兄さんが帰って来たら、領地経営からは離れて、商会に重きを置くんですか?」
「ん~。兄次第なところもあるな。こっちに帰ってくるのかも、まだ分からないし。跡は継ぐけど、領地のことは俺や親父が今まで通りにやることになるかもだしな」

「そしたら、ジュールさんが跡を継げばいいのに……」
「俺は多分、養子だからな」
「え、えっ?」

「俺はだから、跡は継がない」
「みんな……知ってるんですか?」
「どうだろう?親父にも、お袋にも似てないから、みんな分かってるんじゃないか?言わないだけで」

「本当のご両親は……」
「ん~多分元貴族。父親は辺境伯領にいる人だと思う。俺とそっくりだから」
「どうして……」
「知らない。話したことも無い。挨拶をするだけ。向こうも何も言わないし。同じ顔のふたりが、世間話も出来ず、ただ挨拶するだけなんだ。周りの人の方が気にしちゃうよな」

「そう……なんですね……」
僕は気まずくなって、ジュールさんから目を逸らした。
すると、壁に掛けられてある絵が目に入った。

「素敵な絵ですね」
「この村の奥にある、森の絵なんだ」
「そうなんですね。滝かな?凄い!僕滝をちゃんと見たことなくて」
「今度、連れて行ってやるよ」
「ありがとうございます!」

凄いキレイな森の中の滝。神秘的だな。


「俺が子どもの頃、兄と比べて勝手に拗ねて、森で迷子になった時に」
ジュールさんが壁の絵を見ながら話す。

「もうどっちに行けばいいのかも分からなくなってさ。あの滝で、猟師に見つけてもらったんだ。親父は俺を抱きしめて泣いてさ。だから、血がつながってるとか、関係ないんだ。泥だらけになってさ、俺を探してくれた。それが事実だからな」


そう言われて僕は、改めて絵を見てみた。
この滝にひとり幼いジュールさんが立っていたら、見つけた時の父君の安堵の気持ちが想像できる。


「僕の父は、僕らを愛していたのかな?いたのだろうな。愛していたから、ふたりを平等に扱ったのかな」
「まぁ……君を大事には思っているんだろ?ウチの商会に大量の筆記用具を送り届けるくらいに」

「大量の筆記用具?」
「父君がな、『男爵領には文具店がないと聞きまして』ってな。ライアン君から聞き出したんだろ?息子思いの良いお父様じゃないか」


僕はもう一度、森の絵を見た。
父も僕のために出来ることを、探してくれたんだな。

膝を抱えて拗ねてるような、子どもじみたことは、もうやめよう。
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