オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako

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109.ジュール・ボーヴォという人

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僕は『寺子屋フジヤマ』の国語担当として開校の準備をしていた。
算術担当はリナとムネナガ。

リナはムネナガと仲が良い。
ムネナガが教える算盤を使って、掛け算や割り算の練習をふたりでよくやっている。
リナは筆算とやらをムネナガに教えて楽しそうだ。

それにしても、リナがムネナガに教えているものは何なんだ?
なぜ、こんな山間の平民が上級算術を知っているんだ?
ロナ校長も西の国語に詳しそうだし、東の国の言語もできるようだ。
なんなんだ?ここは……


「イザック君、どうだ?順調か?不足しているものはないか?」
不意にジュールさんに声をかけられる。


ジュール・ボーヴォさん。
ボーヴォ男爵家の次男。
長男は王都で王宮文官として働いているらしい。
そして、いずれは長男がボーヴォ領を継ぐらしい。
今、領地のために頑張っているのは、長男じゃなくてジュールさんなのに……

「不足しているものは特にありません。今回、僕とライアンで参考になる資料を沢山持ってきたので」
「そうか。ありがとう。でも、最初は小学部程度の読み書きからで頼むよ。本当に初めて習う人たちばかりだから」
ジュールさんは優しく微笑む。


「生徒は集まりますか?」
「ウチの領には小さな村が3つあるんだ。他の村まで、『スクール馬車』とやらを走らせることになったから、まぁ誰も来ないなんてことはないんじゃないか?」

「ジュールさんは、王都の学園には通わなかったと聞きましたが」

「そう。俺は辺境伯領の学校に通ったからな。王都の学園とは違って、貴族ばかりでは無くて、色んな人たちが集まって、広く浅く色々学んだよ。まぁ、跡継ぎでもないし、そのくらいで十分だったよ」

「王都に行ってみたいと思いませんか?」
「ん~。俺はこの南部地方が好きだからな。辺境伯領まで行けば、足りないものは特に無いし」

「僕は今回王都から、領地以外では初めて出ました」
僕はその領地ですら、数えるほどしか行ったことがないけど……

「そうか。違う領地を見るのはいいぞ。勉強になるからな。自分の領地をどう改善すればいいのか、考えられる」
「でも、跡継ぎは弟ですし……」
「俺だって、跡継ぎは兄だよ」
ジュールさんは朗らかに笑った。


どうして笑えるの?ジュールさん。
どうして頑張れるの?自分は跡継ぎじゃないのに。


「ど、どうして、ジュールさんは頑張れるんですか?跡継ぎじゃないのに」
教えて欲しい。助けて欲しい。僕を救い出して欲しい。

「領民にとっては、俺が跡継ぎかどうかは、関係ないからな。領民のおかげて暮らせてる、領主の息子。領民のために働くのは、当たり前なんだよ」
ジュールさんは事もなげに言った。


「嫌にならないんですか?」
「嫌になったら、ここを離れればいいだけだからな。領民を捨てて、領地も捨てて。自由に生きたくなったら、そうするよ」


「捨てるって……」
「俺はこの領地に領民に育ててもらったから、返したいだけなんだ。本当にそれだけ」


「それだけ……ですか」
「そう。それだけ」

ジュールさんは僕の頭をくしゃくしゃっと撫でると、昼飯を一緒に食べようと誘ってくれた。
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