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108.僕のアイデンティティ-4
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次の日、ジャンとライアンと一緒に、僕たちが国語を教えることになる『寺子屋』というところに行った。
「村人に読み書きと計算を教えるところを『寺子屋』って言うのか?」
ライアンがジャンに訊くと
「どうやら、東の国の文化らしいんだよ」
とジャンは答えた。
「なんで東の国の文化?」
「ん~?今から会う校長が東の国の文化に詳しいんだよ」
「どこの貴族?何家?」
「ただの平民。ロナさんっていうんだ。おにぎり屋のオーナー」
「平民?商会を経営してんの?」
「いや。だから商会を通さないといけないところは、ウチがやらされてるよ」
「叔父さんを使うとは、ただならぬ平民だな。興味が湧くよ」
ライアンとジャンは楽しそうに話しているが、俺は平民が校長なんてできるわけが無いと思ったし、平民たちのお遊びになんで貴族の俺たちが付き合わなければならないのかと思った。
そして、ロナ校長と娘のリナは、俺が今までに会ったことのないような女性だった。
リナは俺をズケズケと批判した。
平民の女のしかも年下のくせに、貴族の男に対してなんて態度だ!俺は子爵家の息子だぞ!それなのに馬鹿にしやがって!
そう思った。思ったけど、リナの言うことは、俺にとって耳の痛いことだった。
ロナ校長はリナを窘めつつも、俺が納得していない、平民に読み書きと計算を教える意味について語り出した。
ロナ校長には、寺子屋に対して確固たる信念があった。
そして校長は、僕に西の国の言葉で話し始めた。
それは『英語』という言語の格言なのだそうだが、ロナ校長はいくつもの格言をスラスラと言った。
校長はただの平民だって……そう聞いていたのに……
そして、その格言は僕に向けてのものだった。
ライアンには分かったと思うが、西の国の言葉が分からない人には伝わらない。校長の僕に対しての配慮だろうか。
「A friend in need is a friend indeed. (苦しいときに助けてくれる友人が本当の友人)」
校長がそう言った時、僕は思わずライアンを見た。
跡継ぎを弟に奪われ、僕が呆然としている中、僕に寄り添ってくれたのは、ライアンだけだった。
今まで僕にすり寄っていた人たちのほとんどが、アルチュールに移っていった。
跡継ぎじゃない僕は、不必要な人間になったようだった。
けれど、ライアンはここに連れてきてくれた。
どうしてそれに、僕は感謝しなかったんだろう。
「すまなかった。ありがとう」
とライアンに言うと、堪えていたものが溢れ出して来た。
跡継ぎじゃなくなっても、俺は俺でいいのだと、やっと思えたのだ。
山間の小さな村の平民の言葉によって……
貴族だ、平民だというものは、教養を前にすると無意味だと思ったのだ。
そして、この人たちと働いて見たいと思ったのだった。
「村人に読み書きと計算を教えるところを『寺子屋』って言うのか?」
ライアンがジャンに訊くと
「どうやら、東の国の文化らしいんだよ」
とジャンは答えた。
「なんで東の国の文化?」
「ん~?今から会う校長が東の国の文化に詳しいんだよ」
「どこの貴族?何家?」
「ただの平民。ロナさんっていうんだ。おにぎり屋のオーナー」
「平民?商会を経営してんの?」
「いや。だから商会を通さないといけないところは、ウチがやらされてるよ」
「叔父さんを使うとは、ただならぬ平民だな。興味が湧くよ」
ライアンとジャンは楽しそうに話しているが、俺は平民が校長なんてできるわけが無いと思ったし、平民たちのお遊びになんで貴族の俺たちが付き合わなければならないのかと思った。
そして、ロナ校長と娘のリナは、俺が今までに会ったことのないような女性だった。
リナは俺をズケズケと批判した。
平民の女のしかも年下のくせに、貴族の男に対してなんて態度だ!俺は子爵家の息子だぞ!それなのに馬鹿にしやがって!
そう思った。思ったけど、リナの言うことは、俺にとって耳の痛いことだった。
ロナ校長はリナを窘めつつも、俺が納得していない、平民に読み書きと計算を教える意味について語り出した。
ロナ校長には、寺子屋に対して確固たる信念があった。
そして校長は、僕に西の国の言葉で話し始めた。
それは『英語』という言語の格言なのだそうだが、ロナ校長はいくつもの格言をスラスラと言った。
校長はただの平民だって……そう聞いていたのに……
そして、その格言は僕に向けてのものだった。
ライアンには分かったと思うが、西の国の言葉が分からない人には伝わらない。校長の僕に対しての配慮だろうか。
「A friend in need is a friend indeed. (苦しいときに助けてくれる友人が本当の友人)」
校長がそう言った時、僕は思わずライアンを見た。
跡継ぎを弟に奪われ、僕が呆然としている中、僕に寄り添ってくれたのは、ライアンだけだった。
今まで僕にすり寄っていた人たちのほとんどが、アルチュールに移っていった。
跡継ぎじゃない僕は、不必要な人間になったようだった。
けれど、ライアンはここに連れてきてくれた。
どうしてそれに、僕は感謝しなかったんだろう。
「すまなかった。ありがとう」
とライアンに言うと、堪えていたものが溢れ出して来た。
跡継ぎじゃなくなっても、俺は俺でいいのだと、やっと思えたのだ。
山間の小さな村の平民の言葉によって……
貴族だ、平民だというものは、教養を前にすると無意味だと思ったのだ。
そして、この人たちと働いて見たいと思ったのだった。
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