21 / 175
21.ちゃんと聞いて欲しい
しおりを挟む
「あー!ママ。本当に美味しかったですっ。ごちそうさまでした!」
「本当に美味しかったよ、母さん」
「はい、ありがとう。お粗末さまでした」
「おにぎりが食べられるなら、味噌汁が飲みたいよね~」
塩にぎりに満足しつつも、さらなる願望を述べるリナに対して
「俺は昨日から、ずっと気になっていることがある」
とテオが言った。
「何?お兄ちゃん」
「味噌汁って何だ?俺は初めて聞く言葉だ。それに、今食べたごはんというやつもそうだ。そもそも、母さんもリナも事故の後は何か変だ。まるで、違う人みたいだ」
テオは真剣な顔で二人を見つめた。
リナがロナを横目で見ると、ロナはしっかりとテオを見つめて言った。
「テオ、これは信じられない話だと思うけれど、ちゃんと聞いて欲しいの」
ロナは話し始めた。
事故の後のロナとリナは、テオの母と妹ではないこと。
自分たちは別の世界の人間で、向こうの世界でも母娘であったこと。
そして、向こうの世界で自分たちは事故で死んだこと。
おそらく、テオの母と妹が死んだ時にその体に自分たちの魂が入ってしまったと思われること。
なので、こちら世界の記憶は全くないこと。
言葉は話せるが、文字は読めないこと。
「信じられないかもしれないけど、今話したことが事実なの」
「……じゃあ、母さんもリナも死んで、今ここにいるのは、全く知らない、別の世界から来た、他人ってことなんだね」
「お兄ちゃん、って言っていいのかな。テオさんの方がいいのかな」
「……どっちで呼ばれるのも、なんか…違うような…」
「ごめんね。騙してて。でも、目覚めて、違う世界に転生してて、私たちは別の魂だって言ったって、頭がおかしくなったって、そう思われるでしょ?だから、言えなかった。それに、私自身も混乱していたし」
「私たちに起きたのは、『憑依』と呼ばれる現象なの。これは、もとの世界では有名な設定でね、実際に起こるかどうかは分からないけれど、憑依を題材にした世界の作品は沢山あって、私たちはその作品たちの読者だったの」
「…母さんが言ったことは、半分も分からないけれど、二人が別な人間で、本当の家族は死んでしまったんだってことは分かった。俺は、一人になったんだね」
テオは俯き、拳をギュッと握りしめた。
ロナもリナも黙ってテオを見つめた。
俯くテオの肩が小さく震え、テオが泣いているのが分かった。
父親も亡くなり、母と妹も亡くなった。
しかも突然の事故で。
なのに、母と妹の姿をした別人がなりすまして目の前にいるのだ。
ロナもリナもテオにかける言葉が見つからなかった。
「本当に美味しかったよ、母さん」
「はい、ありがとう。お粗末さまでした」
「おにぎりが食べられるなら、味噌汁が飲みたいよね~」
塩にぎりに満足しつつも、さらなる願望を述べるリナに対して
「俺は昨日から、ずっと気になっていることがある」
とテオが言った。
「何?お兄ちゃん」
「味噌汁って何だ?俺は初めて聞く言葉だ。それに、今食べたごはんというやつもそうだ。そもそも、母さんもリナも事故の後は何か変だ。まるで、違う人みたいだ」
テオは真剣な顔で二人を見つめた。
リナがロナを横目で見ると、ロナはしっかりとテオを見つめて言った。
「テオ、これは信じられない話だと思うけれど、ちゃんと聞いて欲しいの」
ロナは話し始めた。
事故の後のロナとリナは、テオの母と妹ではないこと。
自分たちは別の世界の人間で、向こうの世界でも母娘であったこと。
そして、向こうの世界で自分たちは事故で死んだこと。
おそらく、テオの母と妹が死んだ時にその体に自分たちの魂が入ってしまったと思われること。
なので、こちら世界の記憶は全くないこと。
言葉は話せるが、文字は読めないこと。
「信じられないかもしれないけど、今話したことが事実なの」
「……じゃあ、母さんもリナも死んで、今ここにいるのは、全く知らない、別の世界から来た、他人ってことなんだね」
「お兄ちゃん、って言っていいのかな。テオさんの方がいいのかな」
「……どっちで呼ばれるのも、なんか…違うような…」
「ごめんね。騙してて。でも、目覚めて、違う世界に転生してて、私たちは別の魂だって言ったって、頭がおかしくなったって、そう思われるでしょ?だから、言えなかった。それに、私自身も混乱していたし」
「私たちに起きたのは、『憑依』と呼ばれる現象なの。これは、もとの世界では有名な設定でね、実際に起こるかどうかは分からないけれど、憑依を題材にした世界の作品は沢山あって、私たちはその作品たちの読者だったの」
「…母さんが言ったことは、半分も分からないけれど、二人が別な人間で、本当の家族は死んでしまったんだってことは分かった。俺は、一人になったんだね」
テオは俯き、拳をギュッと握りしめた。
ロナもリナも黙ってテオを見つめた。
俯くテオの肩が小さく震え、テオが泣いているのが分かった。
父親も亡くなり、母と妹も亡くなった。
しかも突然の事故で。
なのに、母と妹の姿をした別人がなりすまして目の前にいるのだ。
ロナもリナもテオにかける言葉が見つからなかった。
11
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界生活物語
花屋の息子
ファンタジー
目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。
そんな魔法だけでどうにかなるのか???
地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー
転生幼女が魔法無双で素材を集めて物作り&ほのぼの天気予報ライフ 「あたし『お天気キャスター』になるの! 願ったのは『大魔術師』じゃないの!」
なつきコイン
ファンタジー
転生者の幼女レイニィは、女神から現代知識を異世界に広めることの引き換えに、なりたかった『お天気キャスター』になるため、加護と仮職(プレジョブ)を授かった。
授かった加護は、前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生
そして、仮職(プレジョブ)は『大魔術師(仮)』
仮職が『お天気キャスター』でなかったことにショックを受けるが、まだ仮職だ。『お天気キャスター』の職を得るため、努力を重ねることにした。
魔術の勉強や試練の達成、同時に気象観測もしようとしたが、この世界、肝心の観測器具が温度計すらなかった。なければどうする。作るしかないでしょう。
常識外れの魔法を駆使し、蟻の化け物やスライムを狩り、素材を集めて観測器具を作っていく。
ほのぼの家族と周りのみんなに助けられ、レイニィは『お天気キャスター』目指して、今日も頑張る。時々は頑張り過ぎちゃうけど、それはご愛敬だ。
カクヨム、小説家になろう、ノベルアップ+、Novelism、ノベルバ、アルファポリス、に公開中
タイトルを
「転生したって、あたし『お天気キャスター』になるの! そう女神様にお願いしたのに、なぜ『大魔術師(仮)』?!」
から変更しました。
異世界改革〜女神さまに頼まれたので味方を作って国を改革しちゃいます!!〜
ゆずこしょう
ファンタジー
北郷彩芽(30歳)は階段から滑って落ちて呆気なくこの世を去った。
去ったのだ。
しかし、目を開けると現れたのは女神と名乗る人。
なんと異世界に行ってほしいという。
しかしその世界は色々問題がある世界で…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる