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21.ちゃんと聞いて欲しい

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「あー!ママ。本当に美味しかったですっ。ごちそうさまでした!」
「本当に美味しかったよ、母さん」
「はい、ありがとう。お粗末さまでした」

「おにぎりが食べられるなら、味噌汁が飲みたいよね~」
塩にぎりに満足しつつも、さらなる願望を述べるリナに対して

「俺は昨日から、ずっと気になっていることがある」
とテオが言った。
「何?お兄ちゃん」
「味噌汁って何だ?俺は初めて聞く言葉だ。それに、今食べたごはんというやつもそうだ。そもそも、母さんもリナも事故の後は何か変だ。まるで、違う人みたいだ」

テオは真剣な顔で二人を見つめた。

リナがロナを横目で見ると、ロナはしっかりとテオを見つめて言った。

「テオ、これは信じられない話だと思うけれど、ちゃんと聞いて欲しいの」
ロナは話し始めた。


事故の後のロナとリナは、テオの母と妹ではないこと。
自分たちは別の世界の人間で、向こうの世界でも母娘であったこと。
そして、向こうの世界で自分たちは事故で死んだこと。
おそらく、テオの母と妹が死んだ時にその体に自分たちの魂が入ってしまったと思われること。
なので、こちら世界の記憶は全くないこと。
言葉は話せるが、文字は読めないこと。


「信じられないかもしれないけど、今話したことが事実なの」
「……じゃあ、母さんもリナも死んで、今ここにいるのは、全く知らない、別の世界から来た、他人ってことなんだね」

「お兄ちゃん、って言っていいのかな。テオさんの方がいいのかな」
「……どっちで呼ばれるのも、なんか…違うような…」

「ごめんね。騙してて。でも、目覚めて、違う世界に転生してて、私たちは別の魂だって言ったって、頭がおかしくなったって、そう思われるでしょ?だから、言えなかった。それに、私自身も混乱していたし」
「私たちに起きたのは、『憑依』と呼ばれる現象なの。これは、もとの世界では有名な設定でね、実際に起こるかどうかは分からないけれど、憑依を題材にした世界の作品は沢山あって、私たちはその作品たちの読者だったの」

「…母さんが言ったことは、半分も分からないけれど、二人が別な人間で、本当の家族は死んでしまったんだってことは分かった。俺は、一人になったんだね」

テオは俯き、拳をギュッと握りしめた。
ロナもリナも黙ってテオを見つめた。
俯くテオの肩が小さく震え、テオが泣いているのが分かった。

父親も亡くなり、母と妹も亡くなった。
しかも突然の事故で。
なのに、母と妹の姿をした別人がなりすまして目の前にいるのだ。

ロナもリナもテオにかける言葉が見つからなかった。
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