7 / 61
第7話:ベルク様をとられたくないからです
しおりを挟む
冒険者ギルドと商人ギルドは違う。
主に買取、販売をしていて、隣には、壁をぶち抜いて作ったであろう解体所がある。
俺みたいな商人からすれば安く素材が手に入る良いところだ。
わざわざ冒険者ギルドに行かなくても、ここで依頼も頼める。
何度か冒険者ギルドに行ったことはあるが、酒場が隣接しており、酔っ払いが多いのであまり好きじゃない。
レナセ―ルは物珍しそうにキョロキョロしていた。
「商人ギルドは初めてか?」
「はい。こんなに大きいとは思ってもみませんでした」
二階が吹き抜けになっていて、魔法が動力源になっている大きなファンがぐるぐるとまわっている。
これがなければ解体所の血の匂いが循環されず、とても臭いとのことだ。
それでも匂っている。
俺が初めて来たときは、初めての匂いで顔を歪めた。
だがレナセ―ルは特に気にしていないらしい。
血なまぐさい生活に慣れていたこともあるのかもしれないと、少しだけ考える。
「ベルクさん、祝日にめずらしいですね」
現れたのは、商人で受付を担当しているミュウ・リニアさん。
ピンとした犬耳が特徴的な獣人。
それ以外の見た目は人間とほとんど変わらず、丁寧な物腰の女性だ。
「助手に手伝ってもらうことになったのでそのご挨拶にと」
「このたび、ベルク様のお手伝いをさせていただくことになりました。エルフのレナセールです。至らない事も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」
「あら、凄く丁寧で可愛い助手さんですね。ミュウです。よろしくお願いします」
奴隷かそうでないかの見極め方は、魔力や魔法が使える人なら一目でわかる。
契約術の匂いがするらしい。
ミュウさんは冒険者としての資格も持ち合わせているのですぐわかっただろう。
といってもよっぽど奴隷に酷い事をしていなければわざわざ訪ねたりはしてこない。
ここで主に俺が行っていることは、ポーションの品質のチェックをしてもらった上での買取。
毎週、1ケース、つまりひと瓶24本のC級ポーションを卸している。
C級の中でも下級と中級、上級があるので細かくチェックが入る。
俺のは上級で安定しているので、卸値が変わったことは未だない。
「今後はレナセールだけが来るときもあるかもしれません。ただしお金は月末で、俺が取りにきます」
「わかりました。レナちゃん、でいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「文字は書ける?」
その言葉にハッとした。
つい忘れがちだが、この世界の学力は随分と低い。
言葉は話せても文字が書けないなんて大勢いる。
ポーションを卸す際、面倒な書類がいくつかあるのだ。
すっかりその説明を忘れていた。
だが――。
「大丈夫です。人間語もエルフ語も読み書きできます」
「そう、なら問題なさそうね。一応チェックしておきたいから、こっちに来てもらえるかしら? いいですか? ベルクさん」
「もちろんです。レナセール、確認してきてくれ」
「はい」
レナセールがミュウさんから書類の説明を受けている所を眺めながら今後について考えていた。
俺のスキルは、物作りがより良いものにできる才能とレシピを思い浮かべるものだ。
後の一つは人には言えない。
ポーションが安定してきた今、新しいものに取り掛かりたいと思っている。
ただできれば早くフェニックスの尾も手に入れたい。
口の堅い高ランク冒険者を雇えれば一番いいが、金が必要だ。
俺が次に作ろうと考えているのは、状態異常薬だ
冒険者が多いこのオストラバでは、消耗品が安定して売れる。
今より少し材料費はかかるものの、その分、利益が大きくなる。
「終わりました。ベルク様」
いつのまにかレナセールが前に立っていた。
ミュウさんから一通り聞き終わったらしく、彼女は忙しくなったのか受付として働いている。
ここでやることは終わりだ。次は行きつけの商店にいって、余った時間で飯でも食べるとしよう。
お疲れ様という意味で、レナセールの頭に手をぽんっと乗せる。
「悪いなレナセール、文字が書けるかどうか事前に尋ねておくべきだった」
「いえ、私が先にお伝えしておくべきでした。申し訳ありません。それと……質問よろしいでしょうか?」
何でも聞いていいとは伝えているがいつも不安げな顔をする。
「ああ」
「……失礼かもしれませんが、ミュウ様とはどんな間柄なんでしょうか?」
「……? ただの仕事相手だよ」
「そうですか。安心しました」
「どうした?」
ホッとしたレナセールに尋ねる。
「ベルク様をとられたくないからです」
どういう意味だろうか。
嫉妬心? いや、そんな訳はないだろう。
とはいえ詳しく尋ねる必要もない。
外に出ようとした瞬間、レナセールがぎゅっと俺の手を握った。
なんとなくだが、さっきよりも力が強かった気がする。
そうか、寒いもんな。
主に買取、販売をしていて、隣には、壁をぶち抜いて作ったであろう解体所がある。
俺みたいな商人からすれば安く素材が手に入る良いところだ。
わざわざ冒険者ギルドに行かなくても、ここで依頼も頼める。
何度か冒険者ギルドに行ったことはあるが、酒場が隣接しており、酔っ払いが多いのであまり好きじゃない。
レナセ―ルは物珍しそうにキョロキョロしていた。
「商人ギルドは初めてか?」
「はい。こんなに大きいとは思ってもみませんでした」
二階が吹き抜けになっていて、魔法が動力源になっている大きなファンがぐるぐるとまわっている。
これがなければ解体所の血の匂いが循環されず、とても臭いとのことだ。
それでも匂っている。
俺が初めて来たときは、初めての匂いで顔を歪めた。
だがレナセ―ルは特に気にしていないらしい。
血なまぐさい生活に慣れていたこともあるのかもしれないと、少しだけ考える。
「ベルクさん、祝日にめずらしいですね」
現れたのは、商人で受付を担当しているミュウ・リニアさん。
ピンとした犬耳が特徴的な獣人。
それ以外の見た目は人間とほとんど変わらず、丁寧な物腰の女性だ。
「助手に手伝ってもらうことになったのでそのご挨拶にと」
「このたび、ベルク様のお手伝いをさせていただくことになりました。エルフのレナセールです。至らない事も多々あるかと思いますが、よろしくお願いします」
「あら、凄く丁寧で可愛い助手さんですね。ミュウです。よろしくお願いします」
奴隷かそうでないかの見極め方は、魔力や魔法が使える人なら一目でわかる。
契約術の匂いがするらしい。
ミュウさんは冒険者としての資格も持ち合わせているのですぐわかっただろう。
といってもよっぽど奴隷に酷い事をしていなければわざわざ訪ねたりはしてこない。
ここで主に俺が行っていることは、ポーションの品質のチェックをしてもらった上での買取。
毎週、1ケース、つまりひと瓶24本のC級ポーションを卸している。
C級の中でも下級と中級、上級があるので細かくチェックが入る。
俺のは上級で安定しているので、卸値が変わったことは未だない。
「今後はレナセールだけが来るときもあるかもしれません。ただしお金は月末で、俺が取りにきます」
「わかりました。レナちゃん、でいいかな?」
「はい。大丈夫です」
「文字は書ける?」
その言葉にハッとした。
つい忘れがちだが、この世界の学力は随分と低い。
言葉は話せても文字が書けないなんて大勢いる。
ポーションを卸す際、面倒な書類がいくつかあるのだ。
すっかりその説明を忘れていた。
だが――。
「大丈夫です。人間語もエルフ語も読み書きできます」
「そう、なら問題なさそうね。一応チェックしておきたいから、こっちに来てもらえるかしら? いいですか? ベルクさん」
「もちろんです。レナセール、確認してきてくれ」
「はい」
レナセールがミュウさんから書類の説明を受けている所を眺めながら今後について考えていた。
俺のスキルは、物作りがより良いものにできる才能とレシピを思い浮かべるものだ。
後の一つは人には言えない。
ポーションが安定してきた今、新しいものに取り掛かりたいと思っている。
ただできれば早くフェニックスの尾も手に入れたい。
口の堅い高ランク冒険者を雇えれば一番いいが、金が必要だ。
俺が次に作ろうと考えているのは、状態異常薬だ
冒険者が多いこのオストラバでは、消耗品が安定して売れる。
今より少し材料費はかかるものの、その分、利益が大きくなる。
「終わりました。ベルク様」
いつのまにかレナセールが前に立っていた。
ミュウさんから一通り聞き終わったらしく、彼女は忙しくなったのか受付として働いている。
ここでやることは終わりだ。次は行きつけの商店にいって、余った時間で飯でも食べるとしよう。
お疲れ様という意味で、レナセールの頭に手をぽんっと乗せる。
「悪いなレナセール、文字が書けるかどうか事前に尋ねておくべきだった」
「いえ、私が先にお伝えしておくべきでした。申し訳ありません。それと……質問よろしいでしょうか?」
何でも聞いていいとは伝えているがいつも不安げな顔をする。
「ああ」
「……失礼かもしれませんが、ミュウ様とはどんな間柄なんでしょうか?」
「……? ただの仕事相手だよ」
「そうですか。安心しました」
「どうした?」
ホッとしたレナセールに尋ねる。
「ベルク様をとられたくないからです」
どういう意味だろうか。
嫉妬心? いや、そんな訳はないだろう。
とはいえ詳しく尋ねる必要もない。
外に出ようとした瞬間、レナセールがぎゅっと俺の手を握った。
なんとなくだが、さっきよりも力が強かった気がする。
そうか、寒いもんな。
359
お気に入りに追加
820
あなたにおすすめの小説
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
異世界ライフの楽しみ方
呑兵衛和尚
ファンタジー
それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。
ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。
俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。
ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。
しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!
神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。
ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。
『オンラインゲームのアバターに変化する能力』
『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』
アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。
ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。
終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。
それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。
「神様、【魂の修練】って一体何?」
そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。
しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。
おいおい、これからどうなるんだ俺達。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる