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41話 普通のおじさん、興奮おじさん

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 水の都、ストラスト。
 人口はそこそこ多く、街はそれなりに栄えている、食べ物は魚が多い、治安は良好、冒険者ギルドもある。
 と、事前に調べていたあやふやの情報だったが、国が見えた瞬間、私は興奮していた。

「しゅごい……」

 入口から既に違った。
 周囲は海、というか水に囲まれている。
 小さな船の上に兵士が乗っており、冒険者の登録票を確認後、私たちは船に乗せられた。

 オールを濃ぐ兵士は、なんだかいつも見ている感じとは違って楽しい。
 海水のようだが、不思議と海っぽい香りはしない。

 水が綺麗で、底には魚がうようよしている。

「凄いですね、綺麗ー」
「触っていいかな?」
「危ないよ、エヴァちゃん」

 ククリやエヴァも同じく嬉しそうだった。
 兵士の恰好はどこかの民族衣装に思える。甲冑を着けていないが、重さとかも関係しているのだろう。

「どうぞ、ここが入口です。ご存知だとは思いますが、早めに宿を決めて連絡してくださいね」
「わかりました。ご丁寧にどうも」

 門兵はその国の顔だ。いつも通りの文言だが、物言いが丁寧だと凄く気持ちがいい。
 どの国も悪さをしないように宿泊先を決めてすぐ国の市役所みたいなところに連絡しないといけないのだ。

 といっても、冒険者の場合はギルド受付の人に頼めば手続きをしてくれるので楽だが。

 それよりも――。

「しゅごい……」

 大事なので、二回行っておこう。

 周りは水だらけだ。このあたりは観光客が多いのだろう。バックパッカーのような大きな荷物を背負ったり、手に持っている人がいる。
 家は先端が丸い宮殿のような造形が多い。色も薄い青や薄い緑が使われているみたいで、統一感が見られた。

 見た所馬車はない。全て小舟、もしくは大船で移動するみたいだ。
 小さな橋、大きな橋、とにかく水の上に国があるとは知っていたが、まさかここまでとは。

 やはりこの世界は、私の知らない未知で広がっている。

「しゅごい……」
「シガ、語彙力がない」
「エヴァちゃん、適切な言葉だとしても、言っていいことと悪い事があるの。ごめんなさいは?」
「はい、ごめんなさい……」

 どちらかというとククリの鋭いツッコミのほうが私の心には深く刺さったのだが、注意をしているので野暮なことは言わないでおこう。
 確かに三度は言い過ぎた。これではボキャブラリーが少ないおじさんだと思われてしまう。
 私は何だかんだでやはり凄いと言われたい。

 おそらく大勢の人が理解できるだろうが、チヤホヤは原動力だ。
 苦しい時、困難に立ち向かう時、それが力となる。

「水竜の串焼肉ー! 今なら300ペンスだよー!」

 な、なんだと……?

「ククリ、エヴァ、行くぞ」

 そして――。

「「「しゅごい美味しい……」」」

 結局私たちは、語彙力なんてさておき、三人で同じ言葉をずっと呟くのだった。


「――はい、宿泊先の登録も完了しました」

 ひとまず宿を決めた後、いつも通りの流れで冒険者ギルドへ。
 ギルド内は他国とそう変わらないが、所々に魚をモチーフとした絵が描かれている。
 このあたりが旅の醍醐味だな。

 依頼を受けようとしたが、それよりも気になる言葉が耳に入った。

「よっしゃあ、でけえの釣るぜえ!」
「お前には無理だよ、俺が優勝するぜ」
「はっ、去年は5センチの魚だったくせによお」

 なんだろうと思い視線を向けていたが、壁に貼られた紙に気づく。
 そこには、第四回ストラスト釣り大会と書かれていた。

 ……なんだと?

「お姉さん、これは?」
「ああ、これは本日開催されるストラストで一番盛り上がるお祭りなんですよ。内容はシンプルで、大きな魚をゲットすればいいんです。出場登録はこちらでも承っておりますが、どうされますか? 時間がもうないので、今決めてもらうことになりますが」

 私は思い出していた。つい先日の出来事を。

 まったく連れず、涙を流しながらククリとエヴァの釣った魚のお刺身を食べながらビールを飲みほしたあの出来事を。

 ……これは、リベンジマッチか?

 ここで勝てば、私の飽くなき欲求が満たされるのではないか?

「……ククリ、エヴァ、どう思う?」

 私は声を掛けた。二人は、別にどっちでもいいですよ? シガ様にお任せします、と言ったが、私には「望むところです」という顔に見えた。

 そうか、ならば受けて立とう。

 キミウチシガ、ここに勝負を宣言する!

「あ、すいません。シガ、ククリ、エヴァで登録できますでしょうか?」
「わかりました。冒険票から申請しますね」

 とはいえ受付のお姉さんには丁寧に。


「ルールは簡単、この街のどこの場所《スポット》でもいい。制限時間内にデカい魚を釣って持ち帰ってきたヤツの勝利だ! 去年は何と5メートル級だったぜえ!? さあ、今年はどうなるかなあ!? よし、スタートだ!」

 私たちは会場、というか、入口あたりに再集合し、大勢の人たちに紛れて話を聞いていた。
 説明はほとんどなく、ただもうシンプルに言われた通りだ。

 釣りはこの国ではメジャーらしく、私たちはしっかりとした釣り竿を持っているが、みんなは拙い棒のようなものを持ち抱えていた。
 先端に餌を付けるところまでは一緒みたいだが、しなりを考えると有利だろう。

 しかし5メートル級なんてどうやって釣ったのか。

 いや、それよりも急がなければ。

「ククリ、エヴァ、次に会うときは、表彰式だ」
「はい! 表彰式?」
「さらばだ、しょくん」

 日に日にエヴァの語彙力が上がっているのは今後ツッコミはやめておこう。
 だがノリノリだ。ククリもエヴァも勢いよく散る。

 こうして私たち、いや、私の小さなプライドをかけた命はかけない戦いがはじまった。
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