41 / 50
41話 普通のおじさん、興奮おじさん
しおりを挟む
水の都、ストラスト。
人口はそこそこ多く、街はそれなりに栄えている、食べ物は魚が多い、治安は良好、冒険者ギルドもある。
と、事前に調べていたあやふやの情報だったが、国が見えた瞬間、私は興奮していた。
「しゅごい……」
入口から既に違った。
周囲は海、というか水に囲まれている。
小さな船の上に兵士が乗っており、冒険者の登録票を確認後、私たちは船に乗せられた。
オールを濃ぐ兵士は、なんだかいつも見ている感じとは違って楽しい。
海水のようだが、不思議と海っぽい香りはしない。
水が綺麗で、底には魚がうようよしている。
「凄いですね、綺麗ー」
「触っていいかな?」
「危ないよ、エヴァちゃん」
ククリやエヴァも同じく嬉しそうだった。
兵士の恰好はどこかの民族衣装に思える。甲冑を着けていないが、重さとかも関係しているのだろう。
「どうぞ、ここが入口です。ご存知だとは思いますが、早めに宿を決めて連絡してくださいね」
「わかりました。ご丁寧にどうも」
門兵はその国の顔だ。いつも通りの文言だが、物言いが丁寧だと凄く気持ちがいい。
どの国も悪さをしないように宿泊先を決めてすぐ国の市役所みたいなところに連絡しないといけないのだ。
といっても、冒険者の場合はギルド受付の人に頼めば手続きをしてくれるので楽だが。
それよりも――。
「しゅごい……」
大事なので、二回行っておこう。
周りは水だらけだ。このあたりは観光客が多いのだろう。バックパッカーのような大きな荷物を背負ったり、手に持っている人がいる。
家は先端が丸い宮殿のような造形が多い。色も薄い青や薄い緑が使われているみたいで、統一感が見られた。
見た所馬車はない。全て小舟、もしくは大船で移動するみたいだ。
小さな橋、大きな橋、とにかく水の上に国があるとは知っていたが、まさかここまでとは。
やはりこの世界は、私の知らない未知で広がっている。
「しゅごい……」
「シガ、語彙力がない」
「エヴァちゃん、適切な言葉だとしても、言っていいことと悪い事があるの。ごめんなさいは?」
「はい、ごめんなさい……」
どちらかというとククリの鋭いツッコミのほうが私の心には深く刺さったのだが、注意をしているので野暮なことは言わないでおこう。
確かに三度は言い過ぎた。これではボキャブラリーが少ないおじさんだと思われてしまう。
私は何だかんだでやはり凄いと言われたい。
おそらく大勢の人が理解できるだろうが、チヤホヤは原動力だ。
苦しい時、困難に立ち向かう時、それが力となる。
「水竜の串焼肉ー! 今なら300ペンスだよー!」
な、なんだと……?
「ククリ、エヴァ、行くぞ」
そして――。
「「「しゅごい美味しい……」」」
結局私たちは、語彙力なんてさておき、三人で同じ言葉をずっと呟くのだった。
「――はい、宿泊先の登録も完了しました」
ひとまず宿を決めた後、いつも通りの流れで冒険者ギルドへ。
ギルド内は他国とそう変わらないが、所々に魚をモチーフとした絵が描かれている。
このあたりが旅の醍醐味だな。
依頼を受けようとしたが、それよりも気になる言葉が耳に入った。
「よっしゃあ、でけえの釣るぜえ!」
「お前には無理だよ、俺が優勝するぜ」
「はっ、去年は5センチの魚だったくせによお」
なんだろうと思い視線を向けていたが、壁に貼られた紙に気づく。
そこには、第四回ストラスト釣り大会と書かれていた。
……なんだと?
「お姉さん、これは?」
「ああ、これは本日開催されるストラストで一番盛り上がるお祭りなんですよ。内容はシンプルで、大きな魚をゲットすればいいんです。出場登録はこちらでも承っておりますが、どうされますか? 時間がもうないので、今決めてもらうことになりますが」
私は思い出していた。つい先日の出来事を。
まったく連れず、涙を流しながらククリとエヴァの釣った魚のお刺身を食べながらビールを飲みほしたあの出来事を。
……これは、リベンジマッチか?
ここで勝てば、私の飽くなき欲求が満たされるのではないか?
「……ククリ、エヴァ、どう思う?」
私は声を掛けた。二人は、別にどっちでもいいですよ? シガ様にお任せします、と言ったが、私には「望むところです」という顔に見えた。
そうか、ならば受けて立とう。
キミウチシガ、ここに勝負を宣言する!
「あ、すいません。シガ、ククリ、エヴァで登録できますでしょうか?」
「わかりました。冒険票から申請しますね」
とはいえ受付のお姉さんには丁寧に。
「ルールは簡単、この街のどこの場所《スポット》でもいい。制限時間内にデカい魚を釣って持ち帰ってきたヤツの勝利だ! 去年は何と5メートル級だったぜえ!? さあ、今年はどうなるかなあ!? よし、スタートだ!」
私たちは会場、というか、入口あたりに再集合し、大勢の人たちに紛れて話を聞いていた。
説明はほとんどなく、ただもうシンプルに言われた通りだ。
釣りはこの国ではメジャーらしく、私たちはしっかりとした釣り竿を持っているが、みんなは拙い棒のようなものを持ち抱えていた。
先端に餌を付けるところまでは一緒みたいだが、しなりを考えると有利だろう。
しかし5メートル級なんてどうやって釣ったのか。
いや、それよりも急がなければ。
「ククリ、エヴァ、次に会うときは、表彰式だ」
「はい! 表彰式?」
「さらばだ、しょくん」
日に日にエヴァの語彙力が上がっているのは今後ツッコミはやめておこう。
だがノリノリだ。ククリもエヴァも勢いよく散る。
こうして私たち、いや、私の小さなプライドをかけた命はかけない戦いがはじまった。
人口はそこそこ多く、街はそれなりに栄えている、食べ物は魚が多い、治安は良好、冒険者ギルドもある。
と、事前に調べていたあやふやの情報だったが、国が見えた瞬間、私は興奮していた。
「しゅごい……」
入口から既に違った。
周囲は海、というか水に囲まれている。
小さな船の上に兵士が乗っており、冒険者の登録票を確認後、私たちは船に乗せられた。
オールを濃ぐ兵士は、なんだかいつも見ている感じとは違って楽しい。
海水のようだが、不思議と海っぽい香りはしない。
水が綺麗で、底には魚がうようよしている。
「凄いですね、綺麗ー」
「触っていいかな?」
「危ないよ、エヴァちゃん」
ククリやエヴァも同じく嬉しそうだった。
兵士の恰好はどこかの民族衣装に思える。甲冑を着けていないが、重さとかも関係しているのだろう。
「どうぞ、ここが入口です。ご存知だとは思いますが、早めに宿を決めて連絡してくださいね」
「わかりました。ご丁寧にどうも」
門兵はその国の顔だ。いつも通りの文言だが、物言いが丁寧だと凄く気持ちがいい。
どの国も悪さをしないように宿泊先を決めてすぐ国の市役所みたいなところに連絡しないといけないのだ。
といっても、冒険者の場合はギルド受付の人に頼めば手続きをしてくれるので楽だが。
それよりも――。
「しゅごい……」
大事なので、二回行っておこう。
周りは水だらけだ。このあたりは観光客が多いのだろう。バックパッカーのような大きな荷物を背負ったり、手に持っている人がいる。
家は先端が丸い宮殿のような造形が多い。色も薄い青や薄い緑が使われているみたいで、統一感が見られた。
見た所馬車はない。全て小舟、もしくは大船で移動するみたいだ。
小さな橋、大きな橋、とにかく水の上に国があるとは知っていたが、まさかここまでとは。
やはりこの世界は、私の知らない未知で広がっている。
「しゅごい……」
「シガ、語彙力がない」
「エヴァちゃん、適切な言葉だとしても、言っていいことと悪い事があるの。ごめんなさいは?」
「はい、ごめんなさい……」
どちらかというとククリの鋭いツッコミのほうが私の心には深く刺さったのだが、注意をしているので野暮なことは言わないでおこう。
確かに三度は言い過ぎた。これではボキャブラリーが少ないおじさんだと思われてしまう。
私は何だかんだでやはり凄いと言われたい。
おそらく大勢の人が理解できるだろうが、チヤホヤは原動力だ。
苦しい時、困難に立ち向かう時、それが力となる。
「水竜の串焼肉ー! 今なら300ペンスだよー!」
な、なんだと……?
「ククリ、エヴァ、行くぞ」
そして――。
「「「しゅごい美味しい……」」」
結局私たちは、語彙力なんてさておき、三人で同じ言葉をずっと呟くのだった。
「――はい、宿泊先の登録も完了しました」
ひとまず宿を決めた後、いつも通りの流れで冒険者ギルドへ。
ギルド内は他国とそう変わらないが、所々に魚をモチーフとした絵が描かれている。
このあたりが旅の醍醐味だな。
依頼を受けようとしたが、それよりも気になる言葉が耳に入った。
「よっしゃあ、でけえの釣るぜえ!」
「お前には無理だよ、俺が優勝するぜ」
「はっ、去年は5センチの魚だったくせによお」
なんだろうと思い視線を向けていたが、壁に貼られた紙に気づく。
そこには、第四回ストラスト釣り大会と書かれていた。
……なんだと?
「お姉さん、これは?」
「ああ、これは本日開催されるストラストで一番盛り上がるお祭りなんですよ。内容はシンプルで、大きな魚をゲットすればいいんです。出場登録はこちらでも承っておりますが、どうされますか? 時間がもうないので、今決めてもらうことになりますが」
私は思い出していた。つい先日の出来事を。
まったく連れず、涙を流しながらククリとエヴァの釣った魚のお刺身を食べながらビールを飲みほしたあの出来事を。
……これは、リベンジマッチか?
ここで勝てば、私の飽くなき欲求が満たされるのではないか?
「……ククリ、エヴァ、どう思う?」
私は声を掛けた。二人は、別にどっちでもいいですよ? シガ様にお任せします、と言ったが、私には「望むところです」という顔に見えた。
そうか、ならば受けて立とう。
キミウチシガ、ここに勝負を宣言する!
「あ、すいません。シガ、ククリ、エヴァで登録できますでしょうか?」
「わかりました。冒険票から申請しますね」
とはいえ受付のお姉さんには丁寧に。
「ルールは簡単、この街のどこの場所《スポット》でもいい。制限時間内にデカい魚を釣って持ち帰ってきたヤツの勝利だ! 去年は何と5メートル級だったぜえ!? さあ、今年はどうなるかなあ!? よし、スタートだ!」
私たちは会場、というか、入口あたりに再集合し、大勢の人たちに紛れて話を聞いていた。
説明はほとんどなく、ただもうシンプルに言われた通りだ。
釣りはこの国ではメジャーらしく、私たちはしっかりとした釣り竿を持っているが、みんなは拙い棒のようなものを持ち抱えていた。
先端に餌を付けるところまでは一緒みたいだが、しなりを考えると有利だろう。
しかし5メートル級なんてどうやって釣ったのか。
いや、それよりも急がなければ。
「ククリ、エヴァ、次に会うときは、表彰式だ」
「はい! 表彰式?」
「さらばだ、しょくん」
日に日にエヴァの語彙力が上がっているのは今後ツッコミはやめておこう。
だがノリノリだ。ククリもエヴァも勢いよく散る。
こうして私たち、いや、私の小さなプライドをかけた命はかけない戦いがはじまった。
12
お気に入りに追加
1,767
あなたにおすすめの小説
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
テンプレを無視する異世界生活
ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。
そんな彼が勇者召喚により異世界へ。
だが、翔には何のスキルもなかった。
翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。
これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である..........
hotランキング2位にランクイン
人気ランキング3位にランクイン
ファンタジーで2位にランクイン
※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。
※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
ただしい異世界の歩き方!
空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。
未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。
未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。
だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。
翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。
そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。
何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。
一章終了まで毎日20時台更新予定
読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる