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001 デルス魔王様
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「それでは、わたくし、アリエルめが、デルス魔王様のご命令通り、オルトラン王都の人間どもを皆殺しをしてまいります」
片膝を付きながら、おそらく僕にそう言った女性は、豊満な胸をたゆんっとさせて立ち上がる。
長い赤髪、天使のような青い目に、ぷるぷるの唇、ドレスのような純白服。
……え? なにこれ? 夢? ていうか、皆殺しって何?
「待って」
「はっ――どうされましたか、デルス様」
ん?
よく見るとこの女性、いやこのたわわなおっぱい――魔王直下六封凶のアリエル・サーシャじゃないか!?
てことは、デルスって……最凶最悪の……あの、デルス魔王!?
慌てて後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
あるのは、赤い玉座。
それに座しているのは俺。
アリエルの瞳は、俺に向けられていた。
「デルス様?」
王座の魔、アリエル、デルス――。
もしかして――。
「……アリエル、鏡魔法を」
「仰せのままに」
するとアリエルは、ゲームのように何でもないところから鏡を出現させた。
そしてそこに映っていたのは、金髪の切れ長の目、頭部に小さな二本角、外観は人間そっくりだが、これは油断させる為の外側だ。
ちなみに身長は低い。というか、ショタ。
しかしこれこそが、魔王である証明。
つまり間違いなく俺は、英雄伝説ゲーム【ベルクトル・ファンタジー】に登場する、デルス魔王だった。
「いつもながら素敵ですわ!」
いや……ちょっと待てよ。
ということは、今俺がアリエルに人間たちを殺せと命令したのか。
これは……ゲームの冒頭にあるプロローグだ。
たしかこの事をきっかけに魔族と人間の大規模戦争が起きる。
そして、壮大な物語が始まるのだ。
よりにもよってなんで魔王に……。
いやそれよりもまずやるべきことは――。
「……中止だ」
「はい? 今なんと――」
「中止だと言っている。色々と考えたのだ。人間はか弱く、それにまだ利用価値がある。俺に考えがあるのだ。もっといい方法を考えようではないか」
話し方こんな感じだったっけか。ショタのくせに喋り方はものものしいんだよな。
だがアリエルからすれば意味不明だろう。
でも皆殺しなんて……信じてもらえるのか――。
「さすがっ! 聡明なデルス様! この短時間で、人間どもを塵にする新たな作戦を思いつくなんて!」
ああ、大丈夫なんだ。
するとアリエルは、俺にゆっくりと近づいて、手の甲にキスをした。
思わず、頬が赤くなる。俺の。
俺は前世でこのゲームが好きだった。
英雄伝説ゲーム【ベルクトル・ファンタジー】。
世界を恐怖に陥れた魔王を殺す為、平民生まれである勇者が、英雄になるまでの物語。
仲間と出会い、別れ、そして人を救いながら、ついでにラブラブコメコメしていく。
だがその宿敵であるデルス魔王、いや今の俺だが、ゲーム史上でも類を見ない最悪最凶の魔王なのだ。
魔族以外の全ては消えてなくなればいいと思っている。
何より性質が悪いのは、拷問好きで、凌辱好きで、仲間に対しても酷い仕打ちをするのだ。
最終的に勇者に殺されたあげく、無限地獄という魔法をかけられる。
これは、死後もずっと地獄で拷問される最悪な状態らしい。
最後に明かされる秘密なのだが、デルス魔王は本当は人間になりたかったのだ。
過去に両親を人間に殺されて恨んでいたという悲しいエピソードがあるものの、それに至るまでの過程がゴミすぎて誰からも嫌われていた。
それが、魔王デルスなのである。
そしてアリエルは、優秀であり、残忍であり、だが最後は魔王を裏切るのだ。
その理由は、愛してくれなかったから。
つまりヤンデレみたいなものだ。
「デルス様、どうされましたか?」
「いや……今日も綺麗だなと思ってな」
するとアリエルは、たゆんたゆんさせながら、涙を流しはじめる。
「なんてもったいないお言葉……わたくしにそんな言葉を言ってくれるだなんて……ああ、嬉しすぎます! わかりましたアリエル。王都の人間だけではなく、S級冒険者を殺して献上しますわ!」
「いや、今はいい。それより、今後一切人間に危害を加えるのを――禁じる」
「な――!?」
ゲームの通りなら、魔族は全員人間たちに激しい憎悪を抱いている。
だがまだ人間たちに宣戦布告はしていない。
今ならまだ、間に合うはずだ。
「色々と考えたのだ。人間たちを蹂躙するには、もっと知らねばならぬとな」
「た、確かに!? デルス様の仰る通りでございます! そうとも知らず、差し出がましい真似を……大変申し訳ございませぬっ!!」
「良い。これからわかっていけばいいのだ」
「ありがたき幸せ!!!」
しかしこの喋り方はかなり疲れる。
普通に話してもいいが、突然変化したら洗脳魔法でもかけられたんじゃないかと疑われるかもしれない。
魔族は人間を恨んでいる。それは、魔王大好きなアリエルも例外ではない。
「恐れながら申し上げます。――ならば、ペールはどうされますでしょうか」
「ペール……」
すぐに記憶を辿る。
ペール・ストリーム。
巨大な斧を持つの使い手で、超絶最凶、最悪のツルペタ幼女魔族。
人間が大嫌いで、とにかく喧嘩が大好き。
どうされるとは……はっ、そうか。そういえば宣戦布告は同時進行だったはず。
となると、悠長に構えている場合じゃない。
「シュトラバスまで繋げ。急ぐんだ」
「はっ!」
するとアリエルは、闇の転移魔法を出現させた。
魔族だけが使える闇魔法。
魔力を非常に使うので、一日数回が限度だ。
念のため、俺はデルス魔王が愛用していた仮面を手に取る。
ご丁寧に椅子の横に置いてあったものだ。
意味があるかどうかはわからないが、まあ用心にこしたことはないだろう。
急いで転移窓をくぐる。するとそこは、今まさに総攻撃を仕掛けようとする魔王軍の行進の真っ最中だった。
急いで追いかける。
何か……足が早いな? 景色が目まぐるしく切り替わる。やっぱり俺は魔王なのか。
すると先頭、今まさに魔法をぶっぱなそうとしていたペールを見つけた。
金髪ツインテールのツルペタ幼女、服はなんか闇武装みたいな感じで露出が激しい。
急いで手を掴むと、驚いた顔をする。
「――魔王様!? どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「事情が変わった。帰るぞ」
「ふぇ!? こ、これからじゃないんですか!?」
「色々あるのだ……」
「ペール、魔王様の命令よ。聞きなさい」
「なんでアリエルも? ちぇっ、仕方ないなあ」
アリエルほどの忠誠心は感じられないが、そんなことはない。
彼女もまた、魔王を心から愛しているのだ。
原作では、デルスの為に自らの心臓をささげるほどの忠誠心がある。
まあ、ほかの面子もそのくらいはあるんだけど。
しかし良かった。これで何とか全面戦争は避けられるはず……。
「魔族たちめ、人間は決して屈せぬぞ!」
だが前を向くと、同じぐらいの軍隊が見えていた。
え? あれ? どういうこと?
「ペール、何をした」
「まだ何もしてませんよ? ただ宣戦布告で、全員殺しちゃうからねって大声で伝えただけです」
……ほっとしたような、いやしてないような。
魔王軍はアンデットモンスターの大群で、全員武器を装備している。
そして、国の前で行進していた。
これでは戦う気まんまんと思われても仕方がない。いや、実際その通りだったが。
向こうは先手必勝だと思ったのか、掛け声が聞こえはじめる。
「決して屈するな、行くぞ!!」
「「「うおおおお」」」
全軍突撃、いやもう少し様子見しろよ……。
するとペールが笑みを浮かべる。
横にいたアリエルもだ。
まずい、これは――。
俺は急いで前に出て、地面に手を触れる。
「――断裂」
次の瞬間、魔王軍の人間軍の間の地面に亀裂がはしる。
地割れと共に穴は広がっていき、人間たちが落ちそうになる。
「ひ、ひぃ!?」
「おい大丈夫かよ!?」
「まるで天変地異だ……あれが、魔王なのか……」
頼む、落ちないで、落ちないでくれよ。
「クソ! 俺たちを孤立させるつもりか!」
いや、違う。全然違う。止めたんだよ、止めたの。
「……ふん、これは警告だ。私たちに近づくなよ」
後ろを振り返る。よし、これで何とかなった。
誰も傷つけていない。
「行くぞ、ペール、アリエル。ひとまずこれで終わりだ」
「はっ、デルス様」
「はーい」
いや、これで本当に終わりなんだけどね。
そして俺たちはふたたび魔王城に戻った。
懐かしの我が家でもないのに、なんだかホッとするのは気のせいだろうか。
落ち着く暇もなかった。
だが最高の選択をしたはずだ。
あのまま行けば俺はいつか勇者に殺され、無限地獄を味わっていた。
しかし――。
「デルス様、敵国に忍び込ませていた伝令から連絡が入りました。人間族は、魔王様の宣戦布告を受け取り、戦うことを決意したそうです。そして、魔王様の力に驚き、恐れているらしいです。それによって、四つの大国が手を組んだとのことです。――さすがデルス様、これを見通していたんですね! あえて殺さずに脅威を与えることで敵を増やす……このアリエル気づきませんでした」
「ペールもわからなかった。さすが魔王様だね」
……駄々をこねたいが、現状を受け入れるしかない。
俺はこのゲームが好きだ。この世界が好きだ。
殺してもいいと思えるほどの人間もいるが、無差別に人間を殺したくはない。
だが俺は魔王、この部下たちを束ねる王だ。
すべてを放って逃げたり、全員を解雇すれば、きっと悪さをするだろう。
人間を恨んでいる理由もそれぞれあったはずだが、基本的には本能なのだ。
蜘蛛が生まれてすぐに罠を張るのと同じで、彼らに罪はない。
つまり俺が、何とか導いてあげるしかない。
しかしどうする……。
そうか――。
「アリエル、これからの方針を決めた。まずはこの魔王城を主軸とし、領地を広げることにする」
「はっ、全員に通達致します」
魔王城の周りに人間はいない。
領土を広げていけば、人間たちもおいそれと手を出せなくなるだろう。いずれ迫りくるかもしれない勇者ですら手出しができなくなるほど大国を創ればいい。
これなら将来的に誰かを傷つけることもないし、自給自足もできるようになれば最高だ。
部下たちも、もしかしたら農業とかに目覚めるかもしれない。
だがその為には、世界のことも知らなきゃいけない。
他国へ行かないといけないこともあるだろう。
だが目指すところは、最強建設国スローライフ。
そうなれば何に怯えることもないし、人を傷つけることがない。
これ、最適解じゃないか?
「何と素晴らしいお言葉! 畏まりました。兵力を増強し、まずは戦いに備えるのですね。人間たちも恐れるでしょう」
……また勘違いしているみたいだが……いや、やってやる、俺はやってみせる。
誰も傷つけず(多分)、部下たちと幸せになってみせる。
「デルス様。先日、魔王城付近に迷い込んでいた人間はどうされますか? 拷問して土の肥料にしますか?」
「……丁重に家まで送り届けなさい」
「はっ仰せのままに」
……本当にできるかなあ。
片膝を付きながら、おそらく僕にそう言った女性は、豊満な胸をたゆんっとさせて立ち上がる。
長い赤髪、天使のような青い目に、ぷるぷるの唇、ドレスのような純白服。
……え? なにこれ? 夢? ていうか、皆殺しって何?
「待って」
「はっ――どうされましたか、デルス様」
ん?
よく見るとこの女性、いやこのたわわなおっぱい――魔王直下六封凶のアリエル・サーシャじゃないか!?
てことは、デルスって……最凶最悪の……あの、デルス魔王!?
慌てて後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
あるのは、赤い玉座。
それに座しているのは俺。
アリエルの瞳は、俺に向けられていた。
「デルス様?」
王座の魔、アリエル、デルス――。
もしかして――。
「……アリエル、鏡魔法を」
「仰せのままに」
するとアリエルは、ゲームのように何でもないところから鏡を出現させた。
そしてそこに映っていたのは、金髪の切れ長の目、頭部に小さな二本角、外観は人間そっくりだが、これは油断させる為の外側だ。
ちなみに身長は低い。というか、ショタ。
しかしこれこそが、魔王である証明。
つまり間違いなく俺は、英雄伝説ゲーム【ベルクトル・ファンタジー】に登場する、デルス魔王だった。
「いつもながら素敵ですわ!」
いや……ちょっと待てよ。
ということは、今俺がアリエルに人間たちを殺せと命令したのか。
これは……ゲームの冒頭にあるプロローグだ。
たしかこの事をきっかけに魔族と人間の大規模戦争が起きる。
そして、壮大な物語が始まるのだ。
よりにもよってなんで魔王に……。
いやそれよりもまずやるべきことは――。
「……中止だ」
「はい? 今なんと――」
「中止だと言っている。色々と考えたのだ。人間はか弱く、それにまだ利用価値がある。俺に考えがあるのだ。もっといい方法を考えようではないか」
話し方こんな感じだったっけか。ショタのくせに喋り方はものものしいんだよな。
だがアリエルからすれば意味不明だろう。
でも皆殺しなんて……信じてもらえるのか――。
「さすがっ! 聡明なデルス様! この短時間で、人間どもを塵にする新たな作戦を思いつくなんて!」
ああ、大丈夫なんだ。
するとアリエルは、俺にゆっくりと近づいて、手の甲にキスをした。
思わず、頬が赤くなる。俺の。
俺は前世でこのゲームが好きだった。
英雄伝説ゲーム【ベルクトル・ファンタジー】。
世界を恐怖に陥れた魔王を殺す為、平民生まれである勇者が、英雄になるまでの物語。
仲間と出会い、別れ、そして人を救いながら、ついでにラブラブコメコメしていく。
だがその宿敵であるデルス魔王、いや今の俺だが、ゲーム史上でも類を見ない最悪最凶の魔王なのだ。
魔族以外の全ては消えてなくなればいいと思っている。
何より性質が悪いのは、拷問好きで、凌辱好きで、仲間に対しても酷い仕打ちをするのだ。
最終的に勇者に殺されたあげく、無限地獄という魔法をかけられる。
これは、死後もずっと地獄で拷問される最悪な状態らしい。
最後に明かされる秘密なのだが、デルス魔王は本当は人間になりたかったのだ。
過去に両親を人間に殺されて恨んでいたという悲しいエピソードがあるものの、それに至るまでの過程がゴミすぎて誰からも嫌われていた。
それが、魔王デルスなのである。
そしてアリエルは、優秀であり、残忍であり、だが最後は魔王を裏切るのだ。
その理由は、愛してくれなかったから。
つまりヤンデレみたいなものだ。
「デルス様、どうされましたか?」
「いや……今日も綺麗だなと思ってな」
するとアリエルは、たゆんたゆんさせながら、涙を流しはじめる。
「なんてもったいないお言葉……わたくしにそんな言葉を言ってくれるだなんて……ああ、嬉しすぎます! わかりましたアリエル。王都の人間だけではなく、S級冒険者を殺して献上しますわ!」
「いや、今はいい。それより、今後一切人間に危害を加えるのを――禁じる」
「な――!?」
ゲームの通りなら、魔族は全員人間たちに激しい憎悪を抱いている。
だがまだ人間たちに宣戦布告はしていない。
今ならまだ、間に合うはずだ。
「色々と考えたのだ。人間たちを蹂躙するには、もっと知らねばならぬとな」
「た、確かに!? デルス様の仰る通りでございます! そうとも知らず、差し出がましい真似を……大変申し訳ございませぬっ!!」
「良い。これからわかっていけばいいのだ」
「ありがたき幸せ!!!」
しかしこの喋り方はかなり疲れる。
普通に話してもいいが、突然変化したら洗脳魔法でもかけられたんじゃないかと疑われるかもしれない。
魔族は人間を恨んでいる。それは、魔王大好きなアリエルも例外ではない。
「恐れながら申し上げます。――ならば、ペールはどうされますでしょうか」
「ペール……」
すぐに記憶を辿る。
ペール・ストリーム。
巨大な斧を持つの使い手で、超絶最凶、最悪のツルペタ幼女魔族。
人間が大嫌いで、とにかく喧嘩が大好き。
どうされるとは……はっ、そうか。そういえば宣戦布告は同時進行だったはず。
となると、悠長に構えている場合じゃない。
「シュトラバスまで繋げ。急ぐんだ」
「はっ!」
するとアリエルは、闇の転移魔法を出現させた。
魔族だけが使える闇魔法。
魔力を非常に使うので、一日数回が限度だ。
念のため、俺はデルス魔王が愛用していた仮面を手に取る。
ご丁寧に椅子の横に置いてあったものだ。
意味があるかどうかはわからないが、まあ用心にこしたことはないだろう。
急いで転移窓をくぐる。するとそこは、今まさに総攻撃を仕掛けようとする魔王軍の行進の真っ最中だった。
急いで追いかける。
何か……足が早いな? 景色が目まぐるしく切り替わる。やっぱり俺は魔王なのか。
すると先頭、今まさに魔法をぶっぱなそうとしていたペールを見つけた。
金髪ツインテールのツルペタ幼女、服はなんか闇武装みたいな感じで露出が激しい。
急いで手を掴むと、驚いた顔をする。
「――魔王様!? どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「事情が変わった。帰るぞ」
「ふぇ!? こ、これからじゃないんですか!?」
「色々あるのだ……」
「ペール、魔王様の命令よ。聞きなさい」
「なんでアリエルも? ちぇっ、仕方ないなあ」
アリエルほどの忠誠心は感じられないが、そんなことはない。
彼女もまた、魔王を心から愛しているのだ。
原作では、デルスの為に自らの心臓をささげるほどの忠誠心がある。
まあ、ほかの面子もそのくらいはあるんだけど。
しかし良かった。これで何とか全面戦争は避けられるはず……。
「魔族たちめ、人間は決して屈せぬぞ!」
だが前を向くと、同じぐらいの軍隊が見えていた。
え? あれ? どういうこと?
「ペール、何をした」
「まだ何もしてませんよ? ただ宣戦布告で、全員殺しちゃうからねって大声で伝えただけです」
……ほっとしたような、いやしてないような。
魔王軍はアンデットモンスターの大群で、全員武器を装備している。
そして、国の前で行進していた。
これでは戦う気まんまんと思われても仕方がない。いや、実際その通りだったが。
向こうは先手必勝だと思ったのか、掛け声が聞こえはじめる。
「決して屈するな、行くぞ!!」
「「「うおおおお」」」
全軍突撃、いやもう少し様子見しろよ……。
するとペールが笑みを浮かべる。
横にいたアリエルもだ。
まずい、これは――。
俺は急いで前に出て、地面に手を触れる。
「――断裂」
次の瞬間、魔王軍の人間軍の間の地面に亀裂がはしる。
地割れと共に穴は広がっていき、人間たちが落ちそうになる。
「ひ、ひぃ!?」
「おい大丈夫かよ!?」
「まるで天変地異だ……あれが、魔王なのか……」
頼む、落ちないで、落ちないでくれよ。
「クソ! 俺たちを孤立させるつもりか!」
いや、違う。全然違う。止めたんだよ、止めたの。
「……ふん、これは警告だ。私たちに近づくなよ」
後ろを振り返る。よし、これで何とかなった。
誰も傷つけていない。
「行くぞ、ペール、アリエル。ひとまずこれで終わりだ」
「はっ、デルス様」
「はーい」
いや、これで本当に終わりなんだけどね。
そして俺たちはふたたび魔王城に戻った。
懐かしの我が家でもないのに、なんだかホッとするのは気のせいだろうか。
落ち着く暇もなかった。
だが最高の選択をしたはずだ。
あのまま行けば俺はいつか勇者に殺され、無限地獄を味わっていた。
しかし――。
「デルス様、敵国に忍び込ませていた伝令から連絡が入りました。人間族は、魔王様の宣戦布告を受け取り、戦うことを決意したそうです。そして、魔王様の力に驚き、恐れているらしいです。それによって、四つの大国が手を組んだとのことです。――さすがデルス様、これを見通していたんですね! あえて殺さずに脅威を与えることで敵を増やす……このアリエル気づきませんでした」
「ペールもわからなかった。さすが魔王様だね」
……駄々をこねたいが、現状を受け入れるしかない。
俺はこのゲームが好きだ。この世界が好きだ。
殺してもいいと思えるほどの人間もいるが、無差別に人間を殺したくはない。
だが俺は魔王、この部下たちを束ねる王だ。
すべてを放って逃げたり、全員を解雇すれば、きっと悪さをするだろう。
人間を恨んでいる理由もそれぞれあったはずだが、基本的には本能なのだ。
蜘蛛が生まれてすぐに罠を張るのと同じで、彼らに罪はない。
つまり俺が、何とか導いてあげるしかない。
しかしどうする……。
そうか――。
「アリエル、これからの方針を決めた。まずはこの魔王城を主軸とし、領地を広げることにする」
「はっ、全員に通達致します」
魔王城の周りに人間はいない。
領土を広げていけば、人間たちもおいそれと手を出せなくなるだろう。いずれ迫りくるかもしれない勇者ですら手出しができなくなるほど大国を創ればいい。
これなら将来的に誰かを傷つけることもないし、自給自足もできるようになれば最高だ。
部下たちも、もしかしたら農業とかに目覚めるかもしれない。
だがその為には、世界のことも知らなきゃいけない。
他国へ行かないといけないこともあるだろう。
だが目指すところは、最強建設国スローライフ。
そうなれば何に怯えることもないし、人を傷つけることがない。
これ、最適解じゃないか?
「何と素晴らしいお言葉! 畏まりました。兵力を増強し、まずは戦いに備えるのですね。人間たちも恐れるでしょう」
……また勘違いしているみたいだが……いや、やってやる、俺はやってみせる。
誰も傷つけず(多分)、部下たちと幸せになってみせる。
「デルス様。先日、魔王城付近に迷い込んでいた人間はどうされますか? 拷問して土の肥料にしますか?」
「……丁重に家まで送り届けなさい」
「はっ仰せのままに」
……本当にできるかなあ。
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