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希死概念

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「死が怖い」、そう言った輩が、俺の友人に居た。
「それは何故なにゆえ」と彼に訊くと、彼は酷く困ったような笑みをこちらに向けて、足元に咲く雑草の花を妙になまめかしい目つきで眺めて言った。

「俺はなぁ…ホラ、弟が殺されてんだ。だから、その、「弟の分まで生きる」とか、そんな格好つけた、洒落た事なんざ言わねぇけど、言わねぇけどさ…………」

彼は眉を下げて諦めたように軽く顔だけで笑った。そんな彼に言ってしまった。

「そんなにも辛いか。」

彼は一瞬にしてばっと、俺の顔を下から見上げた。

「そら、辛いに決まってるだろ。」
語気が強い。
「何、お前そんな薄情なヤツだったか? アシア 」
「……」

さっきまで、お前お前君アンタと呼びあっていた友人に名前を呼ばれた衝撃と、聞いた事のない語気の強さと、さりげなく食らった人格否定に、返す言葉が見つからなかった。
そうしている内、彼は何気乾いた笑い声を出した。

「まぁいいさ、どうせお前兄弟居ねぇんだ。
家族間での友情みたいなモン、到底築けるような環境じゃなかったんだから。」

彼なりの皮肉で、彼なりの励ましだった。自分はそれを聞いて腕組みをし直しただけで、
それ以降、二人でじっと黙りこくってしまった。

「……くだらない。」

暫く続いた無音のリレーに音を立てて、俺は自室へと帰ってしまった。
まさか、次彼に会うのが、彼の葬式になると知らずに。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……後追いなんて。            ………くだらない事を…」

希死概念 Fin.

初稿:7月18日
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