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2.チンチラ奴隷、魔女の庵に入る

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 急に娘の声を聞いたことに驚き、オーウェンは箒を止めた。そして、自分はこの娘の声すら聞かずに彼女を買い上げたのだと気が付いて二度驚いた。

「名前を、頂戴……? ああ、教えろってことか……。オーウェン。アタシの名前はオーウェン。魔女だよ」
「オーウェン様。それではオーウェン様とお呼びするのでよろしいですか?」

 止まった箒の上で、彼女は背を向けていた体をよいしょとオーウェンの方に向き直らすために膝を立てる。めくれ上がった服の裾から中がちらりと見えた。まばゆいばかりに白い、ぴっちりと合わさった陰部が剝き出しでそこに存在していた。突然のことにオーウェンは思わず大きな声で叫ぶ。

「は!!!? あんた、なんで下着を穿いてないんだい!!!」

 言い放った後に我に返って辺りを見回す。運よく、街のはずれだったためか誰にも聞かれてはいなかったようだった。

「奴隷になったとき、主人の許しなく下着をつけてはいけないといわれました」
「あ、ああ。そうか。奴隷だものな……。いや、奴隷だってべつに下着くらい穿いても……」

 そこまで言って、オーウェンは己の裸足の足と、箒の穂に紐で括りつけてある黒い靴を見比べた。

「そうか。まあ、人には人の事情、奴隷には奴隷の決まりがあるだろうからな……」
「下着を穿けということがご命令でしたら、ザジは下着を持っていないのでお情けをいただけますようお願いいたします」
「わかったわかった、なんとかするから前を向いておくれ。あと少しでうちに着くから……」

 オーウェンは熱くなった顔を手で押さえて、ザジから隠した。エウェンの手伝いでお産の現場にいたことが何度もあるので女の陰部がどんなものか知ってはいるが、こういうタイミングで突然見るのは初めてだったせいか、ザジのそれを見た記憶が頭に残って離れなかった。
 前を向いたザジがそんなオーウェンの様子をどんなふうに思ったかはその背中からはわからない。買ってきた奴隷が相手であるが、知り合ったばかりの娘が己に対して抱く最初の印象がスケベ野郎になるのは勘弁してほしいとオーウェンは思った。

「着いたよ」

 それ以上何か話すこともなく、魔女の庵のある森にたどり着いた。

「ここから先はアタシの許可を得た者しか入れない呪いがかかってる。あんたにも許可を出すからね」

 裸足の二人を乗せた箒は、静かに森の奥へ入っていく。ほどなくして、少し開けた場所に出た。人為的に木を切って開いた場所なのだろう。そこここにひこばえが生えているのが見える。箒は小さな畑や、鶏や山羊の声のする畜舎などのそばを通り過ぎ、木造の家の入り口の前で止まった。

「もう戻ってこない者の部屋だし……あんたはそこの部屋を使いな。アタシの姉弟子の部屋だ。服は……アタシのかあさんの服が合いそうだね。待ってな……」

 襤褸をまとった娘を部屋に置き、今はあまり開けることのない母の部屋に入るオーウェン。かつて勝手に開けると怒られたクローゼットを開けて、捨てられずにいた女物の衣類を物色する。

「下穿きはわかるが……そのほかの下着はわからないな……まあ、それらしいものはみんな渡すか……」

 適当な袋に必要なものを入れてザジに与えた部屋に行くと、ザジは机に登ってぴょんぴょんとジャンプしながら、天井にいる大きな蜘蛛を捕まえようとしていた。

「何してるんだい……」
「あ、だんな様! 大きな蜘蛛がいましたので、捕まえて晩のおかずにしようかと……」
「やめとくれ。そいつはアタシの話相手なんだよ……。それに、机に足を乗せるんじゃない」
「わかりました。気を付けます」
「それより服を持ってきたから好きなように着な。いつまでもそんな襤褸を着ているもんじゃないよ」

 母を喪い、一人で暮らすようになったオーウェンは何かを決める時などに、姉弟子の部屋に巣くう蜘蛛に話しかけるようになっていた。本当の同居人ができたとはいえ、それなりに愛着のある蜘蛛なので食われてはたまらない。
 オーウェンは箒を浮き上がらせて天井まで飛び、蜘蛛を自分の肩に乗せた。

「今日からはアタシの部屋に巣を張りな……」

 服を着替えてもらったら今度は何をしようか……身の回りの仕事でもしてもらったら道具の開発やら自分の勉強が捗るかもな……などと思いながら床に降りたオーウェンが振り返ると、ザジはオーウェンのほうを見つめて立ち尽くしていた。全部服を脱いだ素っ裸で。

「はーッ!!!?????」

 オーウェンの素っ頓狂な叫び声に驚いて、窓の外にいた野鳥がばさばさと飛び去る。
 目の前につまびらかにされているザジの裸体は、子供のようなサイズながらふくよかなラインも有しており、丸く膨らんだ乳房、ふっくらとしたベビーピンクの乳首、髪と同じ青灰色の陰毛が生えた下腹部は、それが女であることを如実に主張していた。へその下に拡がるなだらかでつるりとした腹に、奴隷の証なのであろう入れ墨が入っており、彼女のやさしい体の中でそれだけがいかがわしい形をしていた。

「な、何? なんで? なんでぼくがまだいるのに脱いだ!?」
「いつまでも襤褸を着ているものではないと言われましたので……」
「だからって男がいる部屋でいきなり全部脱ぐ奴があるかい!!」

 今日は何度驚かされるのか。驚きのあまり子供のころにしていた喋り方になってしまったオーウェンの側に、白い小さな体が近づいてくる。

「先ほどは飛んでいる最中だったので言葉だけでご挨拶をしましたが……ちゃんとした奴隷の挨拶がまだでしたので」
「ど、奴隷の挨拶?」
「はい。ザジは玩具奴隷ですので、お買い上げいただいただんな様のおちんぽ様にご挨拶がてら、喉まんこの奥でだんな様の形をしっかり覚えないといけないと教わりました」
「なに……? あんたは何を言ってるんだ? 玩具……? 喉……ま……? 何?」

 同じ言葉を話しているはずなのに、聞きなれない言葉ばかりが飛び出してくるザジの可愛い唇。オーウェンはただただ混乱するばかりだった。

「オーウェン様はザジを慰み物にするために買ってくださったのではないのですか?」
「そ、そんなわけ、ないだろ……」
「ではなぜ玩具奴隷をお買い上げに?」

 なぜ? それはオーウェン自身にもわからないことだ。ザジを一目見た一瞬の間に、他の誰にも渡したくない、自分が連れて帰りたいという今まで覚えたことのない欲に駆られ、衝動的に買ってしまったのだ。彼女を連れて帰って何をどうするなど、まだ考えてもいなかった。

「ザジは男の方に喜んでいただく手管以外は言葉しか教えられていないので、オーウェン様が求めていただかないとなると、どうしたらいいかわからなくなってしまうのですが……」
「だ、だからって。別にアタシはそんなつもりでアンタを買ったわけじゃ……」
「そんなに、ローブの前を膨らませているのに、ですか?」
「え?」

 可愛い爪が生えそろった小さな白い手が、いつの間にかカチコチに固くなってローブの前をテントのような形に変えてしまっているオーウェンの陰茎にそっと触れた。

「こんなに固くして……苦しいでしょう? ザジが鎮めてさしあげます」
「鎮める……って。何を、どうやって? あったばかりの男に……嫌じゃないのかい?」
「ご安心を。ザジは男の方のおちんぽ様を見ただけで、とろとろほかほかのやる気まんこになるように躾けられております♡」

 媚びるように見上げながら、ザジはオーウェンの陰茎をローブ越しにすりすりと擦る。自分で握って擦る時と違う甘苦しい感覚がオーウェンの背骨に登ってきた。

「オーウェン様……後生です……♡ ザジにご挨拶させてください♡」
「わ……わかったよ……! す、好きにすればいいだろっ!!!」

 そんなつもりではない。そんなつもりではなかったのだが、オーウェンは彼自身の23歳の青年らしい性欲と好奇心に敗北した。
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