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伍頁:再起の魔法士
111.ゼースヒルの洞窟 前編
しおりを挟む「なっ……!? そんなバカな……どうしてこんなことに」
「む、むぅ……ここがそうなのか? しかしこの禍々しき気配は、たとえ俺であっても入ることを躊躇うぞ。回復娘は分からぬが、勇者だったから感じなかったのか?」
「い、いや、僕らが入った時には、こんなんじゃなかった。それがどうして、勇者じゃなくなった僕にも分かるくらいの恐ろしさが漂っているというんだ……」
◆◆
元勇者ラフナンと賢者アースキンを連れ、俺たちは古代書があったとされるゼースヒル洞窟に来た。
アースキンは渋っていたが、俺のコピースキルとレシスの絶対防御の関わりが知りたい一心で、半ば強引に移動。
リウとレシスはすでに準備万端で、ルールイとレッテは驚きながらも黙ってついて来てくれた。
俺の移動魔法は、基本的に植物を介した移動。
そういう意味ではかなり不便なのだが、幸いなことに比較的近場にその洞窟はあった。
ログナに程近い村近くの森。
そこに着いた俺たちは、遠目からでもはっきり見える洞窟に向かって歩き出す。
「エンジさま、あそこに見える穴に入って行くのにぁ?」
「俺も場所は分からないんだよ。だけど、ラフナンとアースキンが様子を見て来るってことは、多分ここなんじゃないかな?」
「にぅ」
「あ、あのぅ……わたしも様子を見に行かなくてもいいんでしょうか?」
「レシスは覚えがあるのかい?」
「何となぁく……ですけど、多分そうかなぁと」
「何があるか分からないから、キミはここにいてくれ。その為にアースキンを彼につけたんだ」
「そ、そこまでわたしをお傍に!? ほええ~!!」
天然レシスは、勇者ラフナンにくっついて行動していた。
――ということは、彼が見えたもの、見てしまったものを彼女自身は見ていない。
後方支援で回復士の彼女。
レシスを傍に置きたかった彼が、わざわざ危なそうな場所に同行させるはずがないと思ってしまった。
いくら狂っていたラフナンだったとしても、レシスは安全な所に待機させていたはず。
それよりも、勇者が古代書を手に入れた後が問題だ。
レシスの話では、何かしらのタイミングで光の属性石を拾ったとも聞いている。
洞窟がすでにその役目を終えて危険が去った後なのか、それとも――。
そういう予感もあり、ラフナンとアースキンだけを洞窟付近に先行させた。
だが、
『うっうあああああああ!!!』
『ぬおおおおおお!?』
ラフナンとアースキンの叫び声が聞こえると同時に、彼らは大慌てで戻って来た。
特にラフナンの表情は、相当に深刻そうだ。
「な、何ですの!? 男二人が血相変えて逃げて来るだなんて、情けないことですわ!」
「にぁ? アースキンの方が足が早いにぁ」
「本当ですね~! さすが賢者さま」
そういうことじゃないと思うが。
「ヌシさま、何か来るです。レッテがやっつけてもいいですかー?」
「何か? 何かって、敵?」
「分からないでーす。けど、あの二人の後方から何か来ていますです」
「むむ?」
洞窟を物見させたまでは良かったが、どういうわけか大の男二人が血相を変えて全力疾走。
何かに追われているのか、一直線で戻って来る。
レッテは何かが来ていると言っているが……。
「ヌシさま! 頭を低くして屈んでくださいっ!!」
「うっ?」
「早く、早くです!! 少し失礼するでーす!」
「あわっ!?」
モフったレッテの感触と肉球が、俺の頭に触れて来た。
むぅ、これは中々……なんてひたっていると、頭上から無数の羽音が聞こえて来る。
「頭を上げては駄目でーす!! ヌシさまっ、今しばらくの辛抱です」
「わ、分かった」
「通り過ぎるまで待つです!」
何やら訳が分からないままだが、ちらりと横を見るとレシスとリウが、地面に這いつくばっていた。
ルールイは完全に翼で身を覆い隠し、何かが過ぎ去るのをジッと待っている。
◆◆
どれくらいの時間が経っただろうか。
――とはいっても、数十分程度だと思われる。
「ヌシさま、もう大丈夫でーす。お顔をお上げくださーい!」
「……んん」
柔らかな感触に優しく頭を押さえられていたせいか、不思議と不安を募らせることが無かった。
レッテに間近で守ってもらったことがなかったが、彼女にも意外な一面と力があったようだ。
「ヌシさま、あの洞窟から来たものなんですがー……」
「うん」
「キラーバグっていう虫だったでーす。アレらに触れてしまうと、全て噛みつかれてしまいには溶かされて消えてしまう恐れがあったでーす」
「む、虫!? そんなものが大量に出て来たってこと?」
「はいでーす! ですけど、ほとんど出て来たみたいですから平気でーす」
何て恐ろしい……。虫は苦手だし、敵としても出来れば戦いたくない。
そんなのがいる洞窟に、古代書があったというのだろうか。
「レッテの耳は平気かい? ほら、垂れて――」
「ウキュゥゥン!! そ、それは初めからで……ヌシさま、不意打ちズルいです」
「あ、ご、ごめん」
ついつい耳に触れてしまった。
リウといいレッテといい、ケモミミの誘いは恐ろしすぎる。
『ぬぅぅ……お、驚いた……ラフナン、無事か?』
どうやらアースキンたちも無事なようだ。
しかし、虫たちが通り過ぎた森は見るも無残に、根こそぎ溶かされ何も残っていない。
どこに飛んで行ったのか気になるが、今は無事を喜ぶことにする。
立ち上がったアースキンとラフナンが、俺の所に来た。
「みんな、ご、ごめん。まさかあんな急に襲って来るなんて予想してなくて……いや、それよりもあんな虫は見たことが無いんだ。レシス、君もそうだよね?」
「ほへ?」
「いや、いいんだ……」
「そうですか~? ラフナンさん、元気出してくださいね!」
レシスの天然にはラフナンもお手上げか。
「エンジさん。すまないけど、僕とアースキンでは洞窟の中までは入ることが難しいようだ」
「そこまでの難易度が?」
「いや、でもこれだけは言えるんだけど、あんな虫がいるような危ない洞窟では無かった。だからもしかしたら、異変が起きているかもしれない」
「ふむ……モンスターのレベルが凶悪なものになった……と?」
「……ああ。そんな所に案内してすまない! 僕とアースキンは、ログナに戻って街を守るから、だから――」
「分かった。ラフナン、それとアースキンはログナとフェルゼンを守ってくれ。後は俺たちが動く」
「本当にすまない」
どうやら相当に恐ろしい気配を、洞窟の中から感じたようだ。
物見で豹変しなくて安心ではあるが、これは心してかからなければならない。
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