上 下
93 / 156
肆頁:相互成長の刻

93.魔法士、全体防御魔法をコピーする

しおりを挟む

「にぁっ!? レ、レシスが飛んで来る予感がするにぁ!」
「何を寝惚けたことを言ってる、ネコ……」

 見た目が亀の魔獣に対し魔法攻撃が通らず、それでいて物理も効かない相手に四苦八苦していた俺は、ルールイの助言を得て絶対防御を固定スキルに持つレシスを魔獣に向けて投げることを思いついた。

 属性魔法で弱点を突くことが難しい相手であれば、そんなことすら全て解除しそうな彼女に賭けるしか無い。

 普段から彼女たちの体に触れることをしていない俺だったが、この時ばかりはそうも言ってられず、恥ずかしがって誤解をしているレシスをなだめ、彼女を持ち上げながら持てる力の全てを腕に込めた。

 後で腕力を上げる魔法も覚えておかねばと思うくらい、いっぱいいっぱいだ。

「はわわわっ!? エンジさんの手が~手が~とうとうわたしも正妻に!!」

 変な期待と妄想を口にするレシスをよそに、標的に向けてレシスをぶん投げることに成功する。

『あ~れぇ~~!?!? エンジさんが遠くに見えますよ~~えぇぇぇぇ!?』

『レシス!! 君にかかっている! 素直に飛んで行ってくれ!!』

 魔獣に対し睨みを利かせていたはずのレッテだったが、どうやらまたリウと揉めているようだ。
 それも予感してルールイが向かってくれたかと思うとまた後でお礼をしなければ。

『ま、魔獣さんが目の前に見えますよぉぉぉぉぉぉ!! エンジさん、エンジさ~~~ん!?』

 多少位置がずれてしまったがその辺は向こうの彼女たちが気付くだろう。レシスを飛ばした俺もこのまま見ているだけではどうにもならないので、急いで魔獣の所に向かう。

「ほらほら、やっぱりレシスだにぁ!」
「むー! 一時休戦!! ヌシさまに任されたレッテが、魔獣を止める!」
「にぅ。リウはエンジさまの考えている通り、レシスを直さなきゃいけないにぁ」
「レッテは咆哮と同時に貫く! 邪魔するな、ネコ」

『あなたたち、アルジさまのことを大切に想うなら各々の役目を果たしてごらんなさい!』

 良かった、ルールイの言葉は二人に利いたみたいだ。

『ひいい、たーすーけーてー!』

 リウたちの手前で失速していくレシスは、手足をジタバタさせながら助けを必死に求めている。

『にぅ!』
『リ、リウちゃん!? 何をするの!?』
『こうするのにぁ!! ふんぬっ!』
『うひゃぁぁぁ!?』

 俺の投げる力が足りなかったのとあと一歩の距離にしか届かなかったレシスに対し、リウはすぐに察知して、飛んで来たレシスをさらに飛ばしてくれた。

 ほんの少しの滞空時間の微調整により、レシスの全身は魔獣に衝突した。

『ほへほへほえ~』

 ダメージこそ無いが、レシスは目を回しているようだ。
 レシスにばかり気を取られていたが、魔獣の方に目をやると沈黙している様に見える。
 そこからは素早かった。

 レッテの咆哮でさらに動きを封じられた魔獣は、手足を引っ込めて甲羅部分だけになろうとしている。その機を逃すまいとレッテは鋭い爪を現わして引っ込めさせまいと、手足部分に攻撃を始めた。

『ンギィィィ――!!!!』

 亀魔獣は喚き出していて、引っ込められずにいる手足に気を取られている。

『今ですわっ、アルジさま!』
『よしっ!』

 レシスの絶対防御によって魔獣を覆っていた見えない防御壁は破られた。そこから魔獣は自らを守ることに気を取られ、レッテの攻撃で身動きが取れなくなっている。

 その機会を待っていた俺は、無防備な魔獣に触れてイグザミンを使用。

 ガ・クオンガーディアン 強さ??? 範囲魔法防御SSS あらゆる属性を弾く
 自分を中心とした範囲魔法 トルタルをコピー 魔法士限定魔法 習得完了

 ようやくだ。
 久々に自分を含めた範囲系防御魔法をコピーすることが出来た。

「エンジさま、平気かにぁ?」
「あぁ、リウ。レシスの軌道修正をありがとう!」
「えへへにぁん」
「リウは攻撃をしないのかな?」
「レッテがうるさくなるだけなのにぁ」
「……ふむ」

 レッテとルールイは硬さを失った亀の動きを封じながら、刻み刻みにダメージを負わせ続けている。完全沈黙するのは時間の問題か。

「うきゅぅ……」

 レシスはまだ目を回しているのか、壁にもたれかかっている。
 これは俺の責任でもあるし、彼女が目覚めるまで傍にいてやらねば。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています

テツみン
ファンタジー
 二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。  七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。  しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……  なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。  当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。  そこは都市国家連合。異世界だったのだ!  彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。  彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……  ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。 *60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。  『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...