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零頁:追放の書記

9.書記、魔法付加を覚える

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「眠り草、麻痺草……。作った魔法がそれ?」
「そ、そういうことになるね」

 ザーリンは最初から口が利けた。いたずら好きな性格で俺を試していたらしく、今は問題なく話が出来ている。コピーで見えた性格そのままだった。

 花畑から外へと出発する直前。ザーリンは、俺がコピーした魔法を見たいと言い出した。
 覚えられたのは二種類のみで、他の花をコピーせずにいたわけだが……。

 どういうわけか不機嫌そうにしている。

「試した?」
「勇者パーティーに対しては麻痺と眠り魔法を」
「付加は?」
「えっと、眠りの方は徐々に回復効果、麻痺の方は無し」

 各魔法にはそれぞれ特性があった。
 眠り魔法に関しては時間経過で目が覚めるし、麻痺も時間経過で治る。

 麻痺させる魔法はそれ自体が強力だ。ザーリンのいう付加とは何なのだろうか。

「……ネコが来たら麻痺を放って」
「リウに? そろそろ出発するつもりなんだけど……」
「付加効果があるか見る」

 リウは岩窟内に残っている食料をかき集めている。ここへ戻って来た時は気合が入っているはず。油断をしている彼女に向けて麻痺を放つだとか、ザーリンは何を考えているのか。

「ふんふんふん~! エンジさま~~戻りましたにぁ!」

 気合いどころかのんきに戻って来た。

「放って!」
「ほ、本当に?」
「早く!」
「じゃ、じゃあ……えっと、パラリシス!」

 どうなるのか予想出来てしまうが、フェアリーに逆らうのは良くない気がする。

「あなたがつけた魔法の名前?」
「そうなるね」

 リウは何の危険も察知をしないまま、俺たちの元に近付く。
 そんな彼女に向けて手から麻痺魔法を放った。

「はみゃっ!? し、痺れるにぁ……そ、それに、何だか全身の毛がチクチク……」

 時間差というほどではないにしても、放った魔法は見事に命中。
 リウに当たってすぐに効果が出始めた。

「麻痺と毒……ケモノには程度が低い。人間には効き目が高かった?」
「そう言えばそうだった気がするけど、毒? じゃあコピーした花の毒性は、相当だったってことなんだ」
「コピー出来て魔法に編集出来るのなら、付加もイメージするべき」
「つまり、敵とか味方とかで使い分けを?」
「……それはあなたが考え、使いこなさないと」

 ザーリンは見た目だけで判断すれば、人間の女の子にしか見えない。
 翅は意思で隠せるらしく、隠した状態では大人しそうな子といった感じだ。

「うぅ、ごめん」
「それよりも、コピーの習熟度!」

 コピーのことについてかなり厳しい指導だ。
 俺のことを古代の使い手というあたり、徹底的に鍛えるつもりがあるらしい。

「ネコを元に戻すけど、私からコピーした自然治癒をネコにも共有」
「え? 出来るの?」
「ネコとはすでに何かを共有しているはず」
「あ、そうか」

 【スキル共有 自然治癒 リウ】 

「にゅにゅにゅ!? な、治ったにぁ!!」
「ネコも学んで」
「学ぶ~? エンジさま、リウも学んだのかにぁ?」
「そ、そうだね」
「ふんふん」

 やり方は自分で何とかしてということのようだ。
 ザーリンはあくまでもサポート的な存在で、それに徹するらしい。

 見た目は子供だ。しかし冷静すぎる言い方と考え方を見る限り、俺やリウよりも長く生きて来たのかもしれない。

「よし、行こうか」
「はいにぁ!」

 下流から上流の街道へ出ると、そこにいたオークの集団はすでにない。
 おかげで落ち着いて辺りを見渡すことが出来た。

「この辺りは……と」

 リウと同じスキルがあるので周辺をサーチしてみると、小さな村が点在している。
 サーチ距離を広げてみるといくつかの村と、大きめの町があることが分かった。

「村に行くにぁ?」
「そうだね、そこから行ってみよう!」
「……フェンダー。人間にはあまり見せつけないように」

 フェアリーだからなのか、獣よりも人間に対して相当警戒をしている。
 俺に対してもサポート役というだけで、そこまで親しげじゃない。




 ――すぐ近くに感じた村に繋がる街道。

 そこから人間の賊らしき気配は無い。どちらかと言えば、辺りの森や水辺から獣の気配を多く感じられた。

 この時点で分かることは、冒険者が頻繁に通る道では無いことだ。
 少なくとも勇者パーティーなんかが通る道じゃない。

 オークの集団が平気で歩いていたことも、それが関係しているはずだ。
 
 もっともログナからまともに出たことが無い俺にとって外の世界には、どれだけの国があって村や町がどこまであるのかなんて想像も出来ない。

 俺が覚えてしまった古代の力の書物である古代書。
 そのことも、いずれ分かる時が来るのだろうか。
 
「エンジさま、もうすぐ人間の村ですにぁ」
「あ……本当だね。ところで、耳と尻尾は隠せないんだよね?」
「リウはリウのままなのにぁ」

 フェアリーの翅を隠すのとはワケが違うようだ。

(とはいえ、その辺の村でネコ族は平気なのかな)

「みゅ?」
「いや、何でもないよ。リウが無理だと感じたら外で待っててもいいからね」
「むふふ~ネコなら心配ないにぁ! 人間の敵はもっと強力な獣にぁん!」

 リウの言葉にザーリンは無口を貫き、黙って俺の近くを歩き続けている。
 そうして外に出て、初めての村にたどり着いた俺たちだった。

「フェンダーはここで村人を助けること。それが始まり。そうすれば、きっと極めていける」
「助ける? どういう意味で?」
「とにかく村に行く」
「リウも俺から離れないでついて来るんだよ?」
「あい!」

 村人を助ければ、コピースキルでも上がるのだろうか。
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