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第4章:辿り道
52.最強パーティーの目指す道?
しおりを挟む全知全能の智者と謳われていた賢者アクセリ・ルグランは、かつて仲間だった勇者ベナークと黒魔術師デニサによって呪術をかけられ、劣等賢者にされた。
そこから数年が経ち、力のほとんどを失くしたアクセリは偶然にもパーティーのお荷物扱いとなっていた薬師、パナセ・アウリーンに救われる。
そこからは必死にもがき、呪術をかけた魔女を滅し、勇者を世界から追い出すために頑張ったのである。
「――手記にしたとしても、大したことはしていないな……」
「何がです? そう言えばアクさま、ベナークを追い出したのですから、ご褒美を頂きたく思いますわ!」
「あ、あぁ、そうだったな……しかし」
「さぁ、お早くっ! わたくしの頬を思いきりひっ叩いて下さいませっっ!!」
最初からこんな性癖だっただろうかと、思わず躊躇してしまう。
「おっさんは変態なのか?」
「違うぞ。そしておっさんではない……アミナスから見たらそうかもしれないが、違うと断言しておく」
「でも数年以上も眠っていたと聞いたぞ」
数年以上眠っていたらおっさんになるとか、どんな呪いだ。
「あぁ、それはその通りだが……変態ではないな」
「これからどこへ行くのだ? 勇者みたいな悪い奴と魔女もいなくなったのだ」
「……帰りたいか? 召喚の岩窟に」
「分からないのだ。でも、何だかごちゃごちゃしていただけで、アミナスは活躍出来ていないのだ」
そんなことはないと言いたかったが、召喚の力を上手く出し切れないまま終えたのは事実だ。この戦いは力を取り戻した俺と、力を引き出されたルシナとパナセそして、影で活躍したロサのおかげでもある。
ストレは竜人として大いに力となってくれたが、この先において共に生きていくことを選ぶかは、ストレ自身の思いを尊重するのみだ。
「ストレは成人した。もう里に必要ない……主につく」
「移動においてはストレに頼らざるを得ないからな。これからもよろしく頼む」
「……ん」
世界を救うなどと、大それたことをしたつもりはない。
しかし賢者と勇者の概念を変え、魔王支配の世界よりも悪くしたベナークの罪は深く残った。
面倒ではあるが未だ最強と呼べないこの者たちを引き連れ、旅を続けることは果たして正しいのか。
「アクセリ、話があるんだけど」
「ルシナか。どうした?」
「……私、薬師の里に帰ることにしたから。世界平和だとかそういうのは興味無いし、自分が強くなりたいとかなったとか、そういうのよりも里で静かに暮らしたいから」
はっきりさせたいルシナらしいが、寂しい限りだ。
「そ、そうか……」
「それに――ね」
元々否定的だったルシナではあったが、傀儡で味方を、それも俺よりもパナセを傷つけたことは、ルシナの中に残るだろうとは思っていた。
こうなるとその者の意思を尊重するしかない、
「ん? 何だ?」
「それに、私と同じ目に遭った情けなくも強い人を、里で休めてあげたいから」
「まさか、オハード?」
「だ、だから、あんたは私よりも、か弱い薬師を守ってあげなさいよね!」
「……無論だ」
ルシナにはかなり助けられたな。
薬師の姉妹で姉よりもしっかりした妹だったし、これからも頼りない姉を支えて欲しいと思っていたが、意志は固いようだ。
そうなると育成するところから始めることになる。
「――ん?」
さっきからグイグイと何かに引っ張られている気がしていたが、気のせいでは無かった。
「ふぎゅぅぅぅぅ……! ひどいです、ひどいです~!!」
「何だ、お前か」
「お前か。じゃないです~~! わたしにも何か言うことがあるはずです~!!」
「何かあったか?」
「ルシナちゃんと別れるのがお辛そうじゃないですか~! す、好きなら好きって言えば――」
何を言うかと思えばルシナに抱いていた想いはそういうことではなかったのだが、意外にも鋭い所があるから下手なことは言えない。
「はぎゃっ!?」
「戯けめ。俺と永遠の契りを結んだのでは無かったのか? 何故今になって不安を抱くというのか」
「だって、だって~ルシナちゃんを見る目が優しいし、態度もお優しくてわたしと違うじゃないですか~~」
ルシナを負傷させた責任があるし、戦いに巻き込んでしまったからな。
優しくもなるだろう。
それにしてもコイツは、思いのほか嫉妬の塊のようだ。
「ほらほら、わたしの頭をぐしゃぐしゃするじゃないですか!」
「お前だからやるのであって、ルシナには出来ないぞ。お前は特別だからな」
「……はわわわ!」
「永遠のパートナーだからこその態度だ。それ以外に求めることがあるのなら、後で聞く」
「じゃ、じゃじゃじゃあ……アクセリさまのお気持ちを、わたしにくださいっ!!」
「気持ち? それはアレか? アレなのか……」
「さぁさぁさぁ! 遠慮無くくださいっ!」
不思議なパナセに救われ、最後まで予測出来ないことをされた薬師の女に、こうも操作される日が来ようとは思わなかった。
これもベナークたちに追い出されたからこそ――か。
ベナークはこの世界から消え、魔女も滅することが出来た。
気になるのは当時一緒に組んでいた魔術士たちの行方だが、魔に落とされたのかあるいは、ベナークを見限ったのかは後々に分かることだろう。
「まぁ、何だ……ここでするのはあまりよろしくないからな。外に出てからでいいか?」
「嫌です! 今がいいんです~~!!」
「し、しかしだな……」
「ふぐっ……うぐっ、グズッ……ダメでずが~?」
「な、泣くな! わ、分かった。では行くぞ」
ルシナの視線が突き刺さっていたのもあるが、泣かれてまで拒むことではない。
「――……っ! これ……これを待っていたです。これからもずっと、ずっとわたしのお傍にいてくだ……」
「も、もういいだろ」
「えいえいえいえいっ!」
「こ、こら、麻痺草を投げるな!!」
「動くから駄目なんです。アクセリさまは動かずに、わたしを受け入れて下さ~い」
動けない……の間違いだろうが、もちろん耐性はあるので動ける。
ここは黙ってパナセの優しさを受け止め、そこからこの先のことを考えて行くしか無さそうだ。
万能の薬師パナセに救われて、弱くなる前以上に能力を得たこの俺、賢者アクセリが最強パーティーをパナセと共に育てていくとしよう。
「賢者アクセリさま、永遠によろしくなのです~!」
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