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第4章:辿り道
44.深淵の魔窟
しおりを挟む竜と化したストレのおかげで、俺たちはいとも簡単に目的地にたどり着くことが出来た。
「ヌシさまの為に動く」
「頼むぞ、ストレ」
懐かしい響きだが、俺のことをヌシと呼ぶのを途中で思い出したらしい。
その呼び方に引っ掛かりを覚えたのは、オハードとロサだった。
「てめえなんぞにヌシさまだぁ? 全くよぉ、パナちゃんがいながら竜人だの、エルフだの……やってられねえぜ」
「……それはわたくしのこと? その身、その心臓を強制的に止めてもいいのですね?」
「エ、エルフってのはアレだ! あんたじゃねえよ! そ、そこにいるルシナちゃんもエルフ……」
「今何と……?」
「す、すまん……すみません」
もはやオハードなるかつての狂暴男は、女たちには逆らえなくなったようだ。
唯一俺だけには、強気な口調で話せるということで屈強精神を保っているらしい。
かつて俺と勇者が倒した魔王が棲む魔窟。
そこに突入した俺たちだったが、気配を感じるはずが無いのにどこからか覗かれているような気配をずっと感じている。
それにいち早く反応ではなく、いつもの愉快な娘が俺にしがみついて来た。
「ほ、ほえほえほえ……な、何なんでしょう!? ねえ、アクセリさま」
「何がだ?」
「またまたぁ! と、ととととととっくにお分かり頂けていますでしょう?」
「落ち着け」
「す、すごくすごく注目を集めておられます。さすがアクセリさまなのです」
震えまくるパナセを遠慮なく抱きしめながら、全神経を研ぎ澄ませた。
一、二、いや、三十くらいか。
確かに悪意が満ちた視線と力の注ぎを感じているが、あえて力を潜ませている俺に、そこまでするのかと思いたくなる。
パナセとルシナの二人だけは、未だに俺の力が戻ったことに気付いていない。
明かす機会を持てなかったといえば聞こえがいいが、パナセの真意を確かめるまでは己の中に封印しておくことにした。
「ド、ドド、ドラゴンがこの先にいるような気がするです!」
「ストレの妹か?」
「ち、違いますよぉ! アクセリさま、今は冗談を言っている時と場合じゃないんですよ? プンプン!」
「はははっ! 可愛いな、本当に」
「し、知らないですよ!」
――などとふざけていたが、どうやら本当らしい。
この時点で分かったのは、パナセには魔となる者の気配を読む能力も備わっていたことだ。
「ふふふ、色々とお持ちのようですわね……くれぐれも油断なきよう」
「疑うことが全て通じるとは限らん。ロサもここでは弱者を装え」
「すでにしておりますわ。していない……というより、何も考えていないのは子供だけですわ」
「それはパナセもか?」
「フフ、どうでしょうね」
パナセの言った言葉をどこまで信じ、ロサの警戒心をどれくらい思えばいいのか、ベナークの野郎に会うまでは判断のしようがない。
だがこれまでパナセにはそうした思いを抱いたことが無いだけに、いつも通りにするしか無いのが現状だ。
「おい、アクセリ。要するに、全部まとめてやりゃあいいんだよな?」
「勇者はここにはいない。目に見える獣、何なら神と崇められているモノも全てぶっ潰して構わん」
「了解だ、リーダー」
「ほぅ? 俺を認めたのか?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえ! だが、てめえについたおかげで俺にも華やかな未来が見えて来た気がしているだけだ。じゃあ、ちょっくら行ってくらあ」
「一人で行くのはやめて、召喚士を後方に控えさせておけ」
「へっ! ガキを手懐ける能力なんざ、持ち合わせてねえな」
強気な態度で突っ込みをかけようとしていたオハードだったが、パナセに睨まれたことで渋々アミナスに声をかけ、その足で奥へと進んで行った。
奥に潜んでいたのは獣と竜族が数体と悪魔族が多数いたようだが、駆け足で駆け付けた時にはほとんどが死に体となっていた。
その中には言葉を有しない獣だけが、間もなく息絶えようとしているだけだった。
「アクセリさま、敵はいなくなったです?」
「敵というより、王のいない魔窟なぞ獣の棲み処となるだけだ。だが……」
「はい。気配を感じるですよ」
「私だって気配を感じているんだからね? パナセが感じているんだから、妹にだって!」
「ああ、頼るぞ、ルシナ」
「ふ、ふん」
パナセに何かの疑いがあろうとも、俺とルシナはそう思わない。
「とうとう戻られましたか? 劣弱賢者のアクセリさま。せっかく呪いをかけて差し上げたのに、どうしてそこまでしてベナークを倒すつもりなのでしょうね」
やはり出やがった。雑魚獣など、見せかけに過ぎなかったのだ。
気配を最初から気付かせていたのは、デニサという女黒魔導士ただ一人だったらしい。
「ベナークの野郎よりも、まずはあなたを消そうと思っている。なぁ、魔女さんよ?」
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