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第4章:辿り道

42.お祈り娘を召喚!?

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「ア~ク~セ~リ~さまっ!」

 ルシナと姉妹仲良く話をしていたパナセだったが、しばらくして辺りをウロウロし始めたかと思えば、後ろ手にトコトコと遠慮がちに近付いて来る姿は、何とも愛嬌がある。

 ロサの躾を済ませた後、しばらく辺りを警戒してそろそろ移動しようかと思っていた矢先だった。

「ん? パナセか。寂しくなったか?」
「そ、そんなことはないですよ~? アクセリさまこそ、パナセとお話がしたくなったのかなぁと……チラッ」

 どこで覚えたのか不明だが、パナセはチラチラと人の顔を盗み見る仕草をするようになった。

「らしくないものだな。パナセは考えるよりも行動を優先させていたはずだ。遠慮しているのか?」
「ぶ~! アクセリさまはわたしを何だとお思いですか!」
「愉快な薬師だ」
「違うです!! わたしは、賢者アクセリさまをこよなく愛する薬師なんです! プンプンプンです!」
「はははっ! 面白いな」
 
 パナセは洞窟内で起こった出来事と、俺と出会った頃の記憶を少しずつ取り戻して来た。

 そのせいか少しだけ大人びた雰囲気を感じさせるようになった。
 それだけに、俺もパナセもお互いが何となく遠慮がちになっている。

「あ~~~! そ、そうですそうです!!」
「な、何だ? いきなり何を思い出した?」
「シヤちゃんを見て、思い出してしまったんですよ!」
「何をだ?」

 やはりいつものパナセになったようで、安心を覚えた。
 会話の脈絡もないままで、急に話が進んでいるのはパナセの特徴でもあるが。

「ストレちゃんです!」
「……竜人娘のことか?」
「ですですですっ!! そろそろ大人になったのかなぁと思ったですよ!」

 デサストレというと、お祈りポーズをした後に魔力開放をして、ごろつき連中を一掃した竜の娘だ。

 力を開放すると小さな子供に戻る上、魔力が戻るまで時間がかかる。
 ――という、何とも燃費が悪い竜人だった。

 本人も子供ながらに気にしていたらしく、竜の里へ帰り鍛えて来るとか言って、姿を消してしまったわけだが。果たしてこちらの気配をたどって、合流を果たせるかは不明だ。

「それで……、ストレに会いたくなったのか?」
「会いたいですよぉ~というかですよ! 戻って来てもらって、悪の勇者がいるお城かどこかに乗せて行ってもらえたらいいなぁなんて……」
「何? 竜に乗って、敵の本拠地に突っ込むというのか? それは名案だが、パナセは勝てるのか?」
「わ、わたしじゃなくて、アクセリさまはもちろん、オハードくんで特攻なのですよ!!」
「待て、今なんて言った? オハードくん? それは誰だ?」
「だから~あそこでロサさんとお話ししている、オハードくんですよぉ」

 恋の春どころか、パナセに格下扱いされているとか、つくづく不憫な男だ。

 しかし俺以外の男に対して、嫌悪と憎悪すら抱いていたパナセが、オハードには心を開いたというのは、この先において何かしらの恩恵を受けられる可能性があるということだ。

 黒騎士との探り合いも無意味では無かったということか。

「そうか。ならば、パナセがしっかりとオハードくんをしつけてやってくれ」
「お任せ下さいなのですよ! えっへん!」
「ああ、任せたぞ」
「わぁいわぁい!! アクセリさまのご期待に物凄く応えられているです~~!」
「期待しているぞ!」

 無邪気なパナセが、手下を手に入れたか。
 パナセの言う通り、確かに勇者がいる所に手っ取り早く行くには、空から行くのが早い。

 しかし肝心の竜人は、里へついて行くのを拒んだ。
 さすがに竜人の気配までは感じ取ることなど出来ないのだが。

「おっさん、気難しい顔が増しているのだ。何を考えているのか教えて欲しいのだ」
「おっ! そうか、召喚士! アミナスに頼むとする。いいか?」
「何が何なのだ?」
「召喚士としてのスキルを期待している。アミナスよ、竜をここに呼んでくれ」

 召喚士として可能性があったからこそ連れて来た。
 ――のだが、ストレがどれくらいの強さにまで成長したかによるとはいえ、竜人を呼べるかどうかは未知数だ。

「な、何なのだ何なのだ!? 我は竜人を呼べる程の大召喚士ではないのだぞ、おっさん」
「ほう、そうなのか? おかしいな。てっきり、アミナスはエーセン族きってのエースだと思っていたのだが……それに、ミドガルズオルムを呼べるのに竜を呼べないとはおかしなことだ」

 そうは言ったものの、コイツはこの地に来るまで一度も召喚をしていない。
 
「おっさ……リルグランは、我を信じたいのだな?」
「アクセリでいい。その名は捨てたようなものだ。とにかくだ、俺は賢者としてアミナスを信じているぞ。召喚が出来るのは、アミだけだ。やってみてくれないか?」
「……むぅ~」
「この岩山地帯であれば、たとえ失敗してヤバそうなモノが来ても、何とかなる」
「ふむむむ……よ、呼んでみるのだ」

 せいぜいが拠点で飛ばせていた小竜に乗せて、遊ばせていただけだ。

 小竜は竜族とは異なり馬のように人を運ぶだけの種族に過ぎないが、竜族としての臭いが多少でもついていれば可能性が無くも無い。

「うーむむむむ……我が命ずるのだ。竜よ、来るのだ~!」
「……それがお前の詠唱か?」
「そうなのだ。これで呼べていたのだ」
「それで、それはすぐ来るのか?」
「すぐ来る時もあるし、来ない時もあるのだ! 来るときはビリビリと感じるぞ」
「感じたか?」

 やはり駄目なのか。

 今まで召喚する場を直に見ていたわけではなかったが、失敗する方が多いとなれば実戦向けではないかもしれない。

 しばらく待ったが、危険そうな気配を感じることすら無さそうだ。

 パナセたちがいる場所とは、離れて呼び出しを試みているというのに、時間がかかりすぎているせいか、待ちきれないパナセが来てしまった。

「まだかな~? アミちゃん、ストレちゃんはまだなのです?」
「まだなのだ……」
「ここは危険だ。お前に何かあってはならないのだぞ? パナセはオハードの傍で控えていろ」
「ストレちゃんは、わたしとアクセリさましか知らないのですよ~?」
「だから何だ?」
「そ、そうです!! アクセリさまとわたしでお祈りを捧げるべきなのですよ!」

 またしても変なことを言い出すものだ。

「お祈り? それをしても魔力は回復しないぞ……って、こら、パナセ」
「う~む~む~……ストレちゃん~わたしとアクセリさまはここにいますよ~」

 召喚士のアミナスも呆気に取られているが、パナセはどこかの空に向かって、お祈りポーズを始めた。

「ア、アミナスは詠唱を開始してくれ。いいな、デサストレだ」
「わ、分かったのだ」
「ほらほら、アクセリさまもご一緒にお祈りポーズをしてくださいっ!」
「それは無駄だぞ。危ない目に遭いたくなければ、この場から離れるべきだ。パナセ、ほら、俺の手を掴め!」
「いーやーでーす!」

 わがままも追加されているとは、なんて娘なのか。

「強引にでもお前を抱きかかえるぞ?」
「もう! アクセリさまはわがままです! ほらほらほら! わたしと同じことをするです!!」
「ぬ、ぬぅ……」

 こうなるとパナセも妙な意地を張り、てこでも動かなくなる。
 普段の愉快なパナセは、一体どこで眠っているのかと思うばかりだ。

「姿を知らないから仕方が無いかもしれないが、いいか? 竜の名はデサストレ・ナトゥルだ。その名を加えて、もう一度詠唱してくれ」
「むむ? それっぽい名前なのだ」

 首を傾げながらも、アミナスは再び詠唱を始めた。

「我はアミナス。彼の地に潜む、デサストレ~! 我と賢者と薬師の願いを聞き届けるのだ~!」

 どうやら真面目に詠唱してもその程度のようだ。
 恐らく、まともな詠唱を師事されなかったのだろう。

「ストレちゃん~! パナセはここですよ~」
「ストレ、俺だ。俺もここにいるぞ。お前が必要だ……召喚士に呼ばれるのが嫌ならば、俺の前に姿を現してみろ!!」

 そうして夕刻になろうとするまで、空をめがけて祈り続けていた時だった。

「むにゃむにゃ……アクセリさま~わたしはもう食べられませんよぉ~」
「こら、祈っていたはずなのに何故眠っている……」
「ねむねむなのだ……ふわぁぁ……」

 恥ずかしさを忍んで祈り続けていたというのに、いつからか分からないが、パナセは夢の中へ旅立っていた。

 離れて様子を見ていたルシナやロサたちは、飽きたのか岩陰で休んでいるようだ。
 仲間想いの無い者たちだが、致し方無いことか。

「何……している……の? アクセリ?」

(ん? どこからか声が聞こえて来たが、いよいよ幻聴が聞こえて来たのか)

「力を取り戻したアクセリ、お帰り?」

「む? お前、いつからそこにいた? ストレ……か?」
「呼んでくれた……だから来た。アクセリ、パナセ……と、不思議な力」
「あ、あぁ、確かに呼んだが、その姿は成長の証か?」
「――そう。ストレは成竜。この姿、人でいうといくつ?」
「話し方は変わっていなくて何よりだが、ロサよりも大人びているように見えるな……驚いた」

 大人になっても基本は変わっていないようだが、素直に驚いてしまった。

「大人? そう、成人、成長した竜。アクセリは嬉しい」
「そ、そうだな。嬉しいぞ」
「じゃあ乗る?」
「……ん?」

 予想に反して、ストレは気配を感じさせることなく、祈り続けていた俺の真横に立っていた。
 てっきり上空から、大きな翼でバサバサと音を鳴らしながら降りて来るかと思っていただけだ。

「アクセリ、手」
「ん? 手を差し出せばいいのか――ぬおっ!?」

 俺の手に触れたかと思えば、人の姿をしていたストレは、竜そのものの姿と化していた。
 そのまま俺は竜の翼に掴まっていて、上空にその身を置いていたようだ。

「ふ、この風の流れは久しいことだな」
「アクセリ、前に乗っていた? 誰?」
「そうだな、お前の母か父か、それくらい前に乗ったことがあるぞ。よくぞ成長してくれたな」
「……ん。アクセリの為に強く、なった。どこでも飛ぶ」
「あぁ、期待しているぞ」

 これで移動の短縮は解決した。そうなれば、残すは自分たちの成長だけだが。
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