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第二章 クラン
第33話 可愛いハンターたち
しおりを挟む「――こんな感じかな」
前方に見えていた魔物は沼に棲息する獣人トータス族だった。
見た目はカメそのもの。動きも鈍く基本的には草食で狂暴性は低い。
しかし近接攻撃をまともに受けると、鋭い歯で噛みつかれる危険性がある。
そうならない為にも奴らに近づかれる直前で、即全身麻痺状態に陥らせた。
ダメージこそ与えなかったものの、数時間は起き上がれない。
これなら、こちらの歩みが遅くても追いつかれる心配はないはず。
「すごいにゃ~!! バッタバタとカメが倒れていったニャ。その目は何なのニャ?」
冴眼でトータス族を倒したところで、ミュスカは嬉しそうに手を叩いた。
そのまま俺の目に迫り、何度も首を左右に振って不思議そうに眺めだす。
一応説明しておこう。
「あぁ、これは俺の力で――」
「おい、ネコ! 本当にこの先にトンネルがあんのかぁ? どう見ても行き止まりにしか見えねえぞ!」
そうかと思えば、ミディヌが激しい剣幕を見せる。
「そんなはずないニャ!! 水草に紛れたところにトンネルがあったニャ! ミルはきっとそこに……トンネルがないニャ~……どこに行ったニャ~」
ミュスカが指し示すところには、水草も無くトンネルらしきものが見当たらない。
雨が降り続いているせいか、水草は倒れきっている。
ここで見えているのはトータス族の足あとくらい。
「どこニャ~どこに行っちゃったニャ~……グスングスン…………」
あああ、泣いちゃった。
「お、おい、ルカス……」
背中のミディヌも何も言えなくなってるな。
こうなったら手っ取り早い方法で会わせるしかないか。
「……ミューちゃん。他の子たちの名前を教えてくれないかな?」
「ニャ……? ミルの他~? それならフィーユとクプルニャ。あの子たちは東に行ってるはずニャ」
――名前が分かれば後はミュスカと似た気配を探れば……。
セデラ沼からだと広範囲に探さなくても見つかるはず。
一度目を閉じ、黒色のネコを思い浮かべる。後は遠くを広範囲で見回す。
ネコたちの強さに関しては不明。だけどネコ族のいないラトアーニ大陸なら簡単に探せる。
「おにいさん、さっきからどうしたニャ? 眠ってるニャ?」
「こいつはお前の仲間を探してるはずだ。邪魔せずに黙ってな」
「そ、そうニャの?」
ロッホが見える。しかもレグリースの中から同じ気配。
帝都近くに宮廷魔術師の姿が無くなった時があったが、その隙に乗じて移動した?
「……ぅ」
冴眼による索敵はまだ負担が大きいのか、めまいに似た感覚になりそうだった。
「――見つけたよ。今から会いに行こうか!」
「ほ、本当ニャ!? ど、どこにいたのニャ?」
「ミディヌ。今からレグリースに戻るから、降りてもらってもいいかな?」
「しょうがねえな」
セデラ沼にいないと分かった以上、ここに留まる意味は無い。
あとは呪符【レグリース】を使えばいいだけ。
「ミューちゃん、俺の手を握っててね」
「ニャ? よく分かんないけどそうするニャ!」
「――――」
呪符のおかげですぐにロッホに到着した。
しかし呪符自体俺のスキル依存ではなく、作った者のスキルが関係しているようで……。
「何だよ、教会の中じゃねえのか? ここはどこだ?」
「畑かな……」
「…………出してニャ~」
見るとミュスカが土の中に埋まっていて、尻尾しか見えていない。
彼女を引き上げようとしたところで、背後から殺気のようなものを感じる。
「お前、リーダーをどうする気みゃ?」
「ミューを救うにぁ!!」
「敵なら容赦しないにゃ! 大人しくこっちを振り向け~!!」
ミュスカはミディヌに任せるとして、俺は大人しく振り向くことにした。
振り向きざまの一瞬、俺に向けて三本のダガーが向けられていた。
この気配はハンターか。
それにしても見事に区別がつかない。三人とも黒色のネコだ。
なるほど、ミュスカとこのネコたちはハンターってわけか。
「ケホッ、ぺっぺっ……土がこびりついて取れないニャ~」
「――ったく、世話を焼かせるネコだ。……ルカス、何してんだ?」
「あぁ、これは何というか……」
俺が言い訳をする前に、ネコたちは刃を引いてすぐにミュスカの元に駆け寄る。
感動の再会ともいうべく、ネコたちの鳴き声と抱擁が始まったようだ。
「あれーー!? ルカスさん? そこにいるのはルカスさんじゃないですか!!」
「ただいま、ウルシュラ」
「ネコさんたちが増えてる……ということは、ルカスさんが探して来てくれたんですね! やっぱりそうだと思ってたんですよ~!」
何だ、予想されてたのか?
そうするとこれもナビナの予感が働いての行動?
「ウルシュラの姉ちゃん。メシは?」
「ミディヌも帰って来たんですね! はいはい、すぐに用意しますよ~! ここは教会の裏側なので、表に回って下さいね」
裏の畑か。一応レグリースの範囲内ってことになるな。
「ルカス! あたしは先に行くからな!」
そう言うと、ミディヌはさっさと教会の表側に歩いて行く。
「そういえばナビナと爺さんは?」
「ナビナなら中にいますよ! えーと、お爺さんは帰っちゃいました」
「帰った? え、どこに?」
「それがですね、えっと……ログナドの~」
あの爺さんはさすがにクランメンバーになるつもりは無かったみたいだ。
それにしてもログナドか。ウルシュラの故郷がある大陸……。
遭遇するかは不明にしても、聖女エルセが渡った大陸ってことになる。
姉に対しては何も無いが……ミディヌのこともあるし何とも言えないな。
「その話は後にして、ネコたちと一緒にご飯を頂くよ」
「それもそうですね! ではではお先に失礼しますね! ネコさんたちをよろしくです!」
「うん、そうするよ」
ログナド大陸か。
クランメンバーを集めるなら、ラトアーニ大陸だとそもそも冒険者パーティーをあまり見かけない。
冴眼で一通り探して、それから考えるしか無いな。
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