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第二章 クラン

第30話 エルフの退屈しない日々 1

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【side:ウルシュラ・バルトル】

「はいは~い! ここにある椅子は全て捨てちゃいましょう~!」
「全部? 誰も座らないようにするの?」
「そしたらもっと広く使えるし、体を伸ばして寝られるよ! ナビナもその方がいいでしょう?」
「……じゃあ、あの子たちも雑魚寝を?」

 ナビナがどこかに向かって指し示す。

 ここには私とナビナ、それにお爺さんの三人しかいないはず。
 ナビナってば、相変わらず私を怖がらせようとするなんて。
 それともルカスさんと一緒でナビナの目でも何かが見えている?

「い、嫌だなぁ~、ここにはだぁ~れも……」

 あ、あれ?
 何だか扉の辺りに複数の耳が見えます。やっぱり何かいる?
 聞きたいけどナビナは無言のままだし、お爺さんは奥にいて気づいてもいない。

 私が見るしか無いのかな。
 仕方が無いので私が近づくしかありませんね。

「あ、あの~誰かいますか~?」

 いないよね? さっき見えてた耳も見えなくなってるし……。

「は~いにゃ」
「いますみゃ」
「ここにぅ~」

 ええ? 
 い、いた……しかも同じ感じの子が確かに。
 
「ネコ族? えっ、どうしてここに?」

 ネコ族はログナドには多くいる種族だけど、こっちに来てるのは旅行か何か?
 とにかく落ち着いて話だけでも聞いてあげないと。
 留守を預かっているし、ルカスさんがいない時こそ私がしっかりしよう。

「迷ったにゃ」
「帰れないみゃ」
「通れなくて分からないにぅ~」

 ひえええ。いっぺんに言われてもどうすればいいのか分からないよ。
 しかもこの子たちみんな、黒い毛触りしてるから見分けが……。

「え、え~と、帰れないのはログナドに?」

 それしか考えられないけど。
 ルカスさんじゃないけど、帝国下のこの辺りにネコ族が隠れられる所なんて。

「ログナドに行きたいけど洞窟トンネルがにゃ~」
「お店たくさんあるところみゃ~」
「東、東に行きたいにぅ」

 うぅ、一人ずつ話してくれないと私じゃ理解が追い付かないよ。
 でもやっぱりこの子たちは、ログナドから来たのは確実。
 そうなるとまずは……。

「お名前を教えてくれる? 私はウルシュラ・バルトルって言うんだけど~」
「ふんふん? ウルシュラもログナドにゃ?」
「えっ」
「ログナドに連れて行ってくれるにゃ?」

 これはもしかして、一緒に行って欲しいという意味?
 ナビナなら今のやり取りで分かっててくれそうな……ちらりと彼女に目をやると、

「……うん。ウルシュラの思ってるとおり。その子たち、ログナドに渡りたがってる。でも、足りないって言ってる」
「足りない? 何が足りないの?」
「リーダー。この子たち、はぐれてるから。引っ張ってくれる人を探してる」
「リーダー……。この子たちってパーティーなの?」
「うん。迷子のネコたちだから」

 何だ、そうなんだ。だから私が頼られているんだね。
 そっかそっか~。
 それならまずは、この子たちのお名前を聞いてあげないと始まらないよね。

 私の気づきに、ナビナの表情も穏やかなものになってる。
 ナビナは私にはあまり笑顔を見せることが無かった。
 だけど何だか嬉しそうだし、ここで私が頑張れば……。

 ルカスさんに見せるような笑顔も見せてくれるかも。
 うん、頑張ろう。
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