15 / 50
第一章 宮廷魔術師
第15話 勢炎のミディヌ
しおりを挟む準備を整えた俺たちは、まだ辺りが暗い中、アーテルの雑貨屋を出た。
ここからの道はサゾン高地を目指しつつ、その手前にあるラザンジに進むだけになる。
周りには当然灯りは無く、暗くて何も見えない。
――のだが、冴眼でなくても光を灯す魔法くらいは簡単に使える。
「さすがルカスは魔術師なんだな! 惚れちまいそうだぜ」
「その魔法自体、大したことないよ」
「あたしみたいに小さき者ってのは、光があるだけで自在に動けるもんなんだぜ!」
ウルシュラも、何故か負けじと魔道具で松明を点けているが……。
「どうです? 私の魔道具もお役に立てるでしょう~?」
魔力が込められた鉱石を使い、松明の灯りとしている。
そのおかげでかなり明るい。
しかし、
「ウルシュラの魔道具、ルカスの魔力使ってる。だからほとんどルカスのおかげ」
ナビナの言うように、ウルシュラが使う魔道具への魔力は俺が注いであげた。
ウルシュラの職人的スキルは豊富だ。だが魔力は全く無いらしい。
作るスキルはかなり秀でているが、自分に魔力が無いのが悔しいのだとか。
「むぅ~! ナビナはすっかりルカスさんの味方じゃないですか!」
「味方じゃなくて正論」
「ぬぬぬぬ……」
――と、基本的に戦闘参加の無い二人を見守りながら、
「ルカスは左右の奴! あたしは前方の奴をやるよ!」
「そうするよ」
暗闇が広がるけもの道。ここを通るだけでも闇に紛れて襲って来る魔物は後を絶たない。
夜は魔物の力が増す。とはいえ、大した魔物ではなく火の魔法を放つだけで逃げていく。
一方、ミディヌが正面で刃を向けている魔物はウルフ族数匹。
光を反射させ目を光らせてはいるが、魔物のはっきりとした位置までは掴めていないはずだ。
それなのに、ミディヌが備えている二本の剣は正確に命中させ、傷を負わせている。
聞こえて来る悲鳴はウルフ族だけだ。
「……すごいな」
魔術師の場合、経験による動きがほとんどだ。
だがミディヌの動きは、戦い慣れた実戦感覚が研ぎ澄まされているように思える。
「あたしの何がすごいって?」
「動きそのものが。攻撃的な戦いを知ってる感じがするというか……」
一人くらいは攻撃的な冒険者を入れておくべき。
そんなことをアーテルに言われていたが、ミディヌが加わったのは運がいいと言える。
「それを言うなら、魔法をぶっ放せる魔術師の方がおそろしいけどな! ログナドには魔術師が少なかったってのもあるけど」
ミディヌやウルシュラがいたログナド大陸。
そこは、近接攻撃が得意な冒険者や遠隔攻撃を主とする冒険者が多いのだろうか。
クランメンバーを増やすにしても、楽しみが増えるというものだけど。
「……ルカス。ラザンジの中にちょっとでかいのがいる。あたしはそいつの背後から。あんたは足止めするだけでいい。合図をしたら周りを巻き込んで燃やし尽くせ!」
ここでは冴眼の出番が無い。というより、ミディヌの動きが秀逸過ぎる。
俺が動くよりも先に的確に出る指示。それをくれるだけで進むに苦労は無い。
ナビナとウルシュラは後ろをついて来ているが、怖がっている様子はなさそうだ。
おそらく魔物が近くに来ていたことにすら気付いていないはず。
そういう動きをミディヌがしている。
「派手にぶっ放せ、ルカス!」
「任せてくれ」
戦いの主導がミディヌにあるが、急襲に慣れたミディヌに任せる方が最善。
目の前には旧ラザンジ村らしき柱の入口が見えている。
だが気にすることなく、俺は入口付近一帯にかけて炎の魔法を広範囲に展開した。
炎は瞬く間に草木に燃え広がり、周辺に集まっていた魔物が一斉に姿を消す。
「ルカス! リザードが近くにいる! あたしの近くに来てくれ!!」
ラザンジ村中央には小さな池がある。リザードが出て来たのは池の辺りに違いない。
ミディヌは聴覚に優れたリザードの背後に回り込む。
そのまま音を消して俺を待っている。
ここでの俺の動きは声による音を出し、こちらに気を引くことだ。
「ミディヌ! いいぞ、やれ!!」
俺の張り上げた声に気づいたリザードは、音を頼りに猛突進して来る。
その直後、背後にいたミディヌの二本の刃が交差斬りを繰り出す。
ものの見事にリザードの胴体を真っ二つに切り裂いていた。
この動きを見る限り、やはりミディヌは相当な強さを秘めている。
「ふふっ、どうよ? あたしの動きも捨てたもんじゃないだろ?」
「ミディヌのその動きは盗賊剣士?」
「……違うね、あたしは双剣士さ。惚れるだろ?」
なるほど。
園芸師といい、帝国が支配するラトアーニ大陸では知らないことばかりか。
「あぁ。惚れそうになるよ」
魔物の棲み処と聞いていた旧ラザンジ村。
しかしリザード以外大したことも無く、一帯にいた魔物はあっさり排除出来た。
あとは村の奥にある転移門が動くかどうかだ。
0
お気に入りに追加
858
あなたにおすすめの小説
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~
平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。
しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。
パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる