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第一章 宮廷魔術師

第10話 内に眠る力の解放

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 傷ついたアロンが回復し、目覚めてすぐオーディーの森にたどり着く。
 着いた矢先、手斧を持って構えていたコボルト族が俺たちを出迎えた。

 小柄ながら勇敢なコボルト族。
 彼らに怖さは無く、むしろ怯えられてしまったのは予想通りの光景だった。
 そして今は――

「……ルカス。ウルシュラは何をしてるの?」
「あ~あれは……おもてなしだね」
「…………?」

 ナビナが首を傾げるのも無理は無い。
 通常なら歓迎される側がもてなされるわけだが、

「さぁさぁさぁ! 美味しいミルクと一切れのパンを召し上がれ~!」

 なぜかウルシュラが彼らをもてなしている。
 警戒していたコボルト族から、次第に笑顔がこぼれ始めているが……。
 それが狙いだったようだ。

 農芸スキルだけにとどまらず、ウルシュラの本気度が感じられる。

「ルカス、おいら元気になれた! 以前より強くなれた気がするぞ」
「人間さま、アロンを感謝、感謝」
「アロンが元気、元気に! ありがとうありがとう。コボルト族、代表してありがとう」

 アロンが両親と一緒に声をかけて来た。
 冴眼の治癒で完全回復させたのが良かったのか。
 
 彼が元気になってくれて何より。しかし治癒前よりも強くなれた?
 ナビナが何かしたのかな……。

「ルカスさ~ん! どうですか~? コボルトさんたちは穏やかになりましたか?」

 ウルシュラがいい仕事をしてきたといった、満足気な顔で戻って来た。
 一体何をやってたんだか。

「ずっと何か作ってたのはコボルト族の為に?」
「もちろんそうです! 園芸師は何も植物を愛でたり、装備を作ったりするだけじゃありませんからね! これが私の真骨頂でもありまして~! あっ、呼ばれちゃったので行って来ますね」

 なるほど。
 確かに効率重視の冒険者パーティーだと彼女のスキルは発揮できない。
 しかし獣人を友好関係にするのは確かだ。

「ルカス、戻る?」
「アロンも送り届けたし、そうしようか」
「……コボルト族の仲間、入れる? あの子以外の大人」
「仲間か~。コボルトが勇敢なのはいいんだけどね。大人のコボルトがどれくらい強いのかも調べようが無いし……」

 クランのことを考えれば、コボルトたちを加えても良さそうだけど……。
 
「ルカスの目で見つけること、出来る。知りたい?」
「冴眼で?」
「ルカスの宝石眼は万能。だから、何でも見える。ルカスは最強を目指せる」

 そうだとすればなんでもありじゃないか。
 
「それって、相手の目を見るのかな?」
「……ナビナのそばにいたルカス。そろそろ一端の力、引き出せる。目を見れば次からきっと、目じゃなくても見える」

 いちいち目を見なくても済むようになるなら、試す価値はある。
 ナビナの能力は引き出す力なのか。

「じゃあ、見るよ?」

 俺はナビナの正面でしゃがみ、彼女の目を見つめた。
 すると呪いの宝石が光った時と同様に、一瞬だけ目がくらむ。
 
「……ルカス、もう大丈夫。ナビナを見て」

 目を閉じていた俺に対し、ナビナが促している。

「う、ん……んんん?」
「見える?」

 真正面にいるナビナの瞳が俺を見つめ、同時に輝きを見せている。
 あれ? ナビナも宝石の瞳のような。

 そう思っていると、彼女の能力が俺の脳裏に浮かび出した。

 【追従:徐々に引き出す】【追従:効果上昇】
 【追従:魔法命中率上昇】【一端の力を解放させる】
 
 これがナビナが持つスキルなのか?
 他にもあるけどまだ見えないな……。
 
 追従なんて初めて見るな。
 ナビナがそばにいるだけで強さが増すって意味になるのか。

「こ~ら! 二人とも何を見つめ合ってるんですか!! 聞いてますか、ルカスさん!」

 気付かないうちにウルシュラがそばに来ていた。
 ナビナから目を離し、ついでに彼女を見つめてみるが……。
 
「……な、何ですか?」
「あれ?」
「はっ!? もしかしてさっき口にしたのが口元に!?」

 そう言いながら、ウルシュラはごしごしと口の辺りを気にし出した。
 おかしいな。間近にいるのに見えないぞ。

「へ? い、いや、大丈夫。何もついてないよ」
「それなら良かったです!」

 ナビナの方を見ると、特に表情を変えずに立っている。
 全て見えるわけじゃないのか?

「ところでウルシュラ。足下に見える大量の枝は?」

 冴眼の能力はともかく、ウルシュラの足下には木の枝が大量に置かれている。

「これはですね、オーディーの森の木材なんですよ! これを刻んで煎じると回復薬になるそうでして! お土産に頂いちゃいました」

 すっかりコボルト族に気に入られたらしい。
 戻った先にアーテルの雑貨屋があるからもらった感じか。
 
「そういえば、コボルトの族長っているのかな?」
「ここの森は大きくないし、いないみたいですよ。なので、クランへの誘いも遠慮しちゃいました。ルカスさんも同じこと考えてましたか?」
「……まぁ、そんなところかな」
「そうですよね。あ、枝の束をロープでまとめるので待っててください~」

 本気で担いでいくつもりなんだ……。
 それはそうと、

「ナビナ。ウルシュラの――」
「相手に意識を向けられたり気づかれたり、間近にいると見えなくなる」

 そうか、ウルシュラにはすでに意識させてたな。

「遠ければ遠い方がいい。ルカスがやる気出せば、遠くの人も場所も強さも……全て見えるようになる。見たい場所、あるはず。違う?」

 俺が見たい場所はもちろん、帝国と城にいる兄リュクルゴスだ。
 おそらくリュクルゴスも俺を監視しているし、何らかの手を打っているはず。
 
 全てじゃなくても、その動きを垣間見ることが出来れば……。

「方角、方向……気にして見ればきっと見れる」
「それならやってみるよ」

 バルディン帝国がある位置はここからだと北西辺り。
 城は帝都の上にそびえている。皇帝の所にいなければ見えるはず。



 ――バルディン帝国。
 宮廷魔術師たちが通路を歩く姿、魔術演習の光景があった。

 リュクルゴスの気配を追うと、誰かの背中が同時に見える。
 あの背中はまさか……。

「ぬぅ……」
「どうかした? リュクル」

 あの後ろ姿は姉のエルセか。戻って来てたのは驚いた。
 一瞬気付かれそうになりそうだったけど、大丈夫そうだ。

「いや、何でもない。それよりエルセ。次はいつ城に戻るつもりだ?」
「さぁね。聖女は賢者と違って忙しいし、城の中に籠る暇なんてないの。リュクルこそいい加減、外に出ないの?」
「その呼び方はやめろ! ……俺は城を守護する役目がある。外は宮廷魔術師だけで問題無いからな」

 また言い訳か。中にばかりいて本当に強いのか疑いたくなるな。

は今どこに?」
「……南だ。すぐに会えるだろうがな! エルセもやるなら――」
「くだらない……」



 ――ここまでか。
 リュクルゴスを見れただけでもいいとしよう。

「……ルカスさん~? ルカスさ~ん……無視し続けられるのは悲しくなるので、返事をしてください~」
「へ? ご、ごめん、ぼーっとしてた」
「戻り支度が出来たので、アーテルさんのお店に戻りましょう!」
「そうしようか」

 なるほど。見てる時はこういうことが生じるのか。
 ナビナが頷いてるってことは、長く見るものじゃないってことだな。

 そうなると遠くを見る力をつけるより、使う力を上げる方が良さそうだ。
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