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第6話 モフり続けて拾われる?

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 エドナの手に負えない力を見せられた三人は、シェルの森を進むことを急がずに軽い食事をとってから考えることを決める。

「私は干し肉を食べるかな」
「リズはクッキー」
「わたくしもお姉さまと同じものを頂きますわ!」
「よし、じゃあ……エドナ――は、水遊びしてるみたいだし遊ばせておこうか」

 冒険者の彼女たちが自前で食事をしようとしている最中、エドナは浄化済みの池の中に浸かって魚がいないかどうかを眺めつつ、自分の手を何度も水の中で動かしていた。

「う~ん……やっぱりわたしが浄化しちゃったのかな。前世で除菌しまくりだったから毒耐性とかがついちゃったとかじゃないよね」

 池の水がすっかり綺麗になっているうえ、これ以上の変化は見られないことを知ったエドナはライラたちがいる側ではなく、気づかぬ間に渡る前のところに戻っていた。

「あ、あれ? こっちじゃなくて向こう側? 急いで戻らないと心配させちゃう~」

 向こう側に見えるライラたちのところに視線をやろうとすると、大木の隙間から白い綿のような物体が挟まっているのが見えた。

 その瞬間からエドナの興味は白い物体の方にしか向かず、ライラたちに気づかれることなく木々が茂る奥へ奥へと足を踏み入れるのだった。

「魔物っぽさを感じないし、少しくらいならいいよね」

 エドナが白い物体を追いかけてから数分後。少量の食事ながら小腹を満たし終えたライラたちは、エドナの姿がどこにもないことを知る。

「エドナ!? あの子はどこに?」
「リズは見てない」

 立ち上がって周囲を見回すも、ライラの視界上にエドナの姿は無い。リズも懐に入れてあった水晶を取り出し見つめるが、何も見えないようだ。

「わたくしもあの子が水遊びをしているところまでは見ていましたけれど……」
「まさかいなくなるなんて思っていなかったから油断してた」
「近くに気配は無い。だとしたら森の奥……」
「ふぅ。私らも問題だが、あの子も勝手にいなくなる問題児ってわけか」
 
 九歳のエドナが動ける範囲は限られているということを踏まえ、ライラたちは来た道を戻ってエドナを探すことに。

 ライラたちが探していた一方、エドナは白い綿の物体のあとを追って陽射しが届かないほどの深い森に迷い込む。

「…………う~ん? 白い綿さん、どこ~?」
 おかしいなぁ、動きが鈍そうだったしわたしが追ってることに気づいていたはずなのにどこにもいないなんて。

 魔物がいないと聞いていたこともあってエドナには怖さは無かったものの、このまま迷い込んだらどうなるのかという不安だけは持っていた。

 そこに、

「わぅっ!!」

 目に見える大木ではなく、生い茂る草むらから動物の声が聞こえてくる。

「えっ、どこ? どう考えても犬の声だよね?」
 
 この世界に来て初めて、前世で聞き慣れた犬の声。それを聞いてエドナは草をかき分け必死に声のする方に進んだ。

 すると、尻尾を丸めた白綿のような犬が探し物でもしているかのように地面を一所懸命に掘っているところに出くわす。エドナは犬を逃がすまいと、両腕を思いきり伸ばしながらなりふり構わず犬をめがけて地面に飛び込んだ。

 そのおかげでエドナは犬を捕まえることに成功する。

「や、やったぁぁ~!! ワンちゃんを捕まえた~!」
「……わふ?」
「いい子いい子。穴を掘ってる時に捕まえてごめんね~」

 エドナに捕まった白い犬は暴れることもなく、手足が浮いていることに驚いて動きを止めてしまう。

「名前……は分からないけど、もふもふしてて可愛い~! ん~……柔らか~い」
 どう見ても犬だよね。魔物っぽさもないし角が生えてるでも無い。そうかといって首輪――って、この世界で首輪をつけることなんてあるのかな。

 誰かに飼われている可能性があるかと思い、周りを気にすると、犬が穴を掘っていた場所がどこかの街道だったことに気づく。

 整備されていない街道のようで、人が歩いた跡がうっすらと見えている。

「もしかして近くに村か町があるのかな? あなたはどこから来たの?」
「わぅ?」
「さすがに言葉は分からないよね。それはしょうがないけど、ライラたちがいるところからどれくらい離れてしまったんだろう? 誰か通りがからないかな~」

 白い犬をモフりながら誰かが通るのを待っていた時、エドナは自分の体が浮いたような感じがあった。

「……?」

 捕まえた犬は両腕に抱えたままで異常はなく、大人しくしたままだ。

「……ったく、少しはオレの苦労を分かってくれよ! バルー」

 しかしその直後、男性の声がしたと同時に抱えた犬が手足をばたつかせて尻尾を激しく振りだし始めた。

 えっ? なになに? わわわわわっ!?
 ワンちゃんの反応はもしかしなくてもだよね。

「わぅわぅっ!」

 まさか犬じゃなくて自分が捕まえられると思っていなかったエドナだったが、このまま犬と思わせておけば見つからないと思い、喜びの声を上げる犬を抱えたまま自分は静かにすることに。

 エドナはそのまま男性に抱きかかえられながら、大人しくその身を委ねた。

「ん~? 今日は随分重いな。まぁ、いいか。荷馬車に乗せてやるから静かにしてくれよな!」

 もしかしなくても白いワンちゃんに間違えられて抱っこされちゃってる?
 白いローブを着ているからって犬と見間違うなんて、ドジすぎるでしょ。荷馬車って聞こえたけど、大きい町とかに行くってことなのかな。

 白い犬を捕まえたエドナは飼い主らしき男に捕まり、訳も分からずに荷馬車へと運ばれてしまった。行き先も不明なまま、エドナはどこかに着くまでどうすることも出来なかったのである。

 ――エドナを見失って数時間後。

 ライラたちはシェルの森をくまなく探し続け、その足で街道に出ていた。

「はぁっ……、参ったな。九歳ってことに油断してた」
「子供の方が速い時がある。これは完全にリズたちの油断」
「街道に出てしまったということですと、どちらに進んだかが問題ですわね」

 エドナが荷馬車に乗せられてから時間の差はあまりないものの、ライラたちにはエドナの行方を知る手がかりさえ無かった。

「状況的に厳しいな。それはそうとセリアって、獲物を追えるようなスキルは無かったっけ?」
「エドナちゃんは獲物としては対象外になりますわね。何らかの魔力が感じられれば分かるかもしれませんけれど、何も感じませんからおそらく抵抗するような危険な目にはあっていないとみていいですわね」

 Aランク冒険者として活動しているとはいえ、ライラたちには索敵といったスキルが無い。

「危険な目か。私らは今まで気楽に旅をしていたからな~。索敵するところに行く機会も限られていたし……」
「……あの子なら危険なことがあっても何とかなる……気がする」
「毒池の浄化だけでもそんな気はするけどどうだろうな~」

 セリアは直接見ていないせいかエドナの力についてよく知らないといった表情を見せているが、ライラとリズは妙な力を目の当たりにしたことで不安よりも心配の方が大きかった。

「それはそうと、左の街道を行けばランバート村に戻る道。右ならフィルジアに通じていますわね」
「ランバート村に戻るんなら私らの方に来ていなきゃおかしいから、フィルジアの方だな」

 ライラたちがいる場所はランバート村にほど近い街道になる。ライラの言うように、仮にエドナがランバート村の方へ戻ろうとしているなら自分たちの方に歩いていなければおかしいと思っていた。

「じゃあ急ぐ?」

 ライラの判断に対し、リズは首をかしげながら方針を聞いてみた。

「いや、フィルジアはさほど大きくないしそこにいるとすれば、見つけられるはず」
「それなら向かうしかありませんわね」
「暗くなる前に着けるはず。行こう」

 シェルの森ではぐれたエドナを追う為、ライラたちはひと気の無い街道を進むことにした。
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